『怒り』(2016年) #怒り #李相日 #吉田修一 #イオンシネマ草津 | HALUの映画鑑賞ライフのBlog

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「激情的な演出と巧みな編集術による傑作(16.9/19・劇場)」

ジャンル:サスペンス

製作年/国:2016年/日本

配給:東宝

公式サイト:http://www.ikari-movie.com/

上映時間:142分

公開日:2016年9月17日(土)

監督:李相日

出演:渡辺謙、森山未來、松山ケンイチ、綾野剛、広瀬すず、佐久本宝、ピエール瀧、三浦貴大、高畑充希、原日出子、池脇千鶴、宮崎あおい、妻夫木聡ほか

 

PG12

 

 

おそらく、いや間違いなく今年の映画賞を総ナメ、若しくはリードする作品でしょうね。

2時間22分、邦画としては、やや長尺ながらも、ほとんど垂れることもなく見せてくれた李相日監督の演出のパワーに圧倒され、そして編集の巧みさに魅了されましたね。

観終わった後は正直グッタリでしたが、同時に涙もホロリと流れてくるほどの感動作でしたね。

 

 

 

私は、今回も、お友達と一緒に、9/19(月)の午前中には既にシネコンに到着していたのですが、当日は、祝日(敬老の日)という事もあり、イオンシネマ草津においても、社会現象化している『君の名は。』は、最終上映回のレイトショーを除いて、終日満席完売。この映画のブームの波及効果なのか、案の定、朝から大混雑状態で、映画『聲の形』や『レッドタートル ある島の物語』を観賞しようにも、これらの作品も次回の上映回までもが既に満席完売状態でしたので、第三候補の今作を鑑賞するに至った次第でした。

 

 

で、鑑賞後、一体、どこまで書いたら良いのか見当が付かないほど、何を書いてもネタバレしそうな感じで、非常に書き辛く、ここまでブログ記事が滞ってしまった訳でもあります(汗)。

・・・と言い訳しつつ感想を述べたいと思いますσ(^◇^;)。

 

 

私の場合には、あいにくと原作は未読。

あの『悪人』の原作者・吉田修一さんと李相日監督が再びタッグを組んで贈る濃密なミステリーという事から、お友達と相談のうえ、この映画を鑑賞する事に致しました。
このお話は、2007年に千葉県市川市で実際に起きた、英会話学校講師の“リンゼイ・アン・ホーカーさん殺害事件”の逃亡犯であった市橋達也をヒントに、整形し顔を変えた犯人が、もしも身近にいたら・・・という想定劇との事。
一つの殺人事件の犯人を巡り、東京・千葉・沖縄と三つの舞台で巻き起こる、前歴不詳の三人の男性とのあいだの愛と疑惑の物語。

 

 

 

 

観客は、映画を見続けていくうちに、次第に、該当の三人の男のうち、誰が真犯人かを突き止めようとする事も出来るのですが、本作は、決して、単なる<犯人探しの映画>でもなく<謎解きの映画>でもありません。

映画内で提示される写真や画像は、受け手によって、さもそう思えるような見た目の変化をつけているので、そのまま鵜呑みにも出来ません。

 

むしろ、これは人を信じること、疑うことによって生じる、その尊さ、また相反するその危うさといった、謂わば、<信頼>という名の、脆く壊れ易い人間模様を描いた作品とも言えるでしょう。

 



三つの物語はそれぞれには繋がりはないはずなのですが、巧みな編集で見事なアンサンブルを見せ、不思議なくらいに、まったく違和感がないのが、とにかく凄かったですね。

あるシークエンスで、唐突に別の場所のカットが入ることもありましたし、また、例えば千葉での会話の後を被せるように、東京での映像のシーンが被せらされたりと、複雑な編集と音の入れ方のタイミングが実に凝っていましたね。

そんな今作の全編を統一するかのような、坂本教授こと坂本龍一さんのBGMの音楽も素晴らしいに尽きましたね。信頼と疑惑の主題が、まるで表裏一体でした。

 



千葉でのユニットでは、渡辺謙さんの何もできない父親の抑えた表情、佇まいが実に真実味に帯びており、娘を愛しているが故の不安、心配の仕方が切実でしたね。スター俳優なのにそのオーラを完全に消し去って、どこにでもいそうなオジサンであり、朴訥な父親像を演じ切っている辺りは流石という他なかったでしたね。

 

 

その娘の宮崎あおいさんにも泣かされてしいましたね。ちょっと普通の子とは違う彼女の純粋な屈託のなさが実に愛おしい。

その大切な娘を守りたいが故の過剰な心配。また、それに揺れ動いてしまう娘心の危うさ。信用していたはずなのに、信じきれない人間の心の弱さが露呈する時の、感情の発露が半端ない。

 

 

宮崎あおいさんの号泣には、観客のこちらも思わずホロリとせずに居られないほどでしたね。また、何よりも、松山ケンイチさんのその不気味な登場の仕方からの謎めいた男の芝居がお見事でした。

 



東京のユニットでは、ゲイを熱演した、妻夫木聡さんと綾野剛さんのBLカップルの体を張った絡みも凄かったですね。

 

 

 

綾野剛さんの女性のような優しい表情が印象に残りましたよね。

 

 

私は、BLの性的な描写のある映画は正直苦手でしたが、今作では、生々しいながらも、非常に綺麗に撮ってあったような気もしますね。

 

 

沖縄のユニットでは、森山未來さんの素性の知れなさから一転する親しみやすさ。かと思えば突然暴れ出すと言った、恐怖感。

 

 

更に、あの広瀬すずさんのまさに身体を張った役柄には驚かされましたね。

彼女の抱えさせられた問題は、そのまま沖縄の米軍基地が発する問題でもあり、観ていて辛くて堪らなくなりましたね。

 

 

よくぞ所属事務所が許可したものとも思いましたが、彼女自身がオーディションを受けて勝ち取った役柄との事で、その気概が充分に伝わって来ましたね。

 

 

そして、そんな中、意外な掘り出し物的な名演技を見せてくれたのが、佐久本宝くん。

周りが、NHKの大河ドラマ主演俳優4名(渡辺謙さん、宮崎あおいさん、妻夫木聡さん、松山ケンイチさん)に、朝ドラのヒロイン経験者4名(原日出子さん、池脇千鶴さん、宮崎あおいさん、高畑充希さん)と言った名の通ったビッグネームの俳優さんばかりの中、無名ながらも、朴訥とした表情を見せながらも、純情な少年役を上手く演じていましたね。

 

 


人を疑うこととはどういうことなのか。疑いの代償として、人は何を失わなければならないのか。人を本当に信じるとは一体どういうことなのか。果たして、人を心の底から信じることはできるのか。この世に揺らぎない愛は存在するのか。等々、様々な重いメッセージが込められた、実にハッと考えさせられる傑作でしたね。

重苦しい、実にヘビーな内容ではありましたが、広瀬すずさんの役柄については心に深い傷を負ったままではありはしますが、わずかに希望を残した終わり方という点は良かったでしたね。

 

 

以上から、私的な評価と致しましては、

やや過剰なほどの激情的な演出に、過度なほどの重厚な熱演ぶりが、やや苦手な人には今ひとつなのかも知れないですが、私には凄く心に響く作品となりました。

 

あの『悪人』の吉田修一さんと李相日監督のコンビの映画というだけで、予告編を観ただけでも、かなり重苦しそうで敬遠しそうになったのですが、今回は、他の映画が混雑でチケットが入手出来ずに、今作を鑑賞するに至ったにしては、この様な傑作にめぐり合う事が出来て奏功した形となりましたね。

 

文句なしの五つ星の満点評価の★★★★★(100点)も相応しい映画かと思いました。

 

やや長尺な映画であるという点や、重苦しそうなテーマの映画と思って、観る前から敬遠せずに、先ずは多くの映画ファンに観て欲しい作品でしたね。

 

 

※逃亡犯を追跡する報道番組の司会進行役には、赤江珠緒アナウンサーが起用されていましたが、約26テイクも撮り直しされたらしいのですが、そのお蔭か凄く綺麗に撮ってありましたね。

 

●映画『怒り』予告編2

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回も最後までブログ記事をお読み下さり有り難うございました。