今月中旬、弊社は岡田敦氏の写真集、『MOTHER』を発刊した。


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岡田氏は今年三十五歳、新進気鋭の写真家である。簡単にプロフィールをご紹介しよう。
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1979年、北海道生まれ。2002年、富士フォトサロン新人賞受賞。2008年、木村伊兵衛写真賞受賞。大阪芸術大学芸術学部写真学科卒業。東京工芸大学大学院芸術学研究科博士後期課程修了、博士号取得(芸術学)。2007年、写真集『I am』(赤々舎)を発表。2010年、写真集『ataraxia』(青幻舎)を発表。2012年、写真集『世界』(赤々舎)を発表。2014年、北海道文化奨励賞受賞。海外からの注目も高く、今後をもっとも期待される作家の一人である。
http://www2.odn.ne.jp/~cec48450/
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さて、私はその岡田氏と今年の五月、札幌のグランドホテルで初めてお会いした。新聞で採り上げられた、岡田氏が何年にも亘って写しつづけているユルリ島の馬の写真に魅せられたからである。人間の都合で島に残された雌馬たちの運命を追う彼の姿勢に共感を覚え、生きる者の生と死とにフォーカスする彼の写真集をぜひ弊社から出版したいと考えたのだ。

しかし、ユルリ島の馬の写真集はすでに出版社が決まっているとかで、そのとき岡田さんがバッグからやおら取り出したのがパソコンで、そこに映し出されたのが、百数枚のMOTHERの写真だった。

出産を控えた一人の女性が、悪阻に耐え、不安感と戦いながら出産し、我が子を胸に抱くまでの、まるで動画のように見える連続写真。私は一瞬、判断に窮してしまった。私は自分の息子二人の出産に立ち会ったことがない。と言うより、そんなものは見たくない、たとえ生命の神秘であろうとも、放っておいてほしい、そう考えていたからだ。もしここでゲッとなって、こんなものは見たくないと自分が言い出したらどうなるのか。私には自分をコントロールする自信がなかった。しかもそこは人の往来するところであり、誰もが簡単に覗くことができるのだ!

仕方がない。私は腹を括った。虚心坦懐に写真を見てみよう。そして、自分の自然の反応を受け入れることにしよう。それから約十分間、私は胸にこみ上げる熱いものを押さえるのに懸命になっていた。それは自分でもまったく予期しない反応だった。

出産という奇跡の一幕がもたらす、生命への賛歌と言えばいいのか。あるいは生命への慈しみ、この世に生を受けたことへの感謝の念……。

私はその場で、本写真集の出版を決意し、そして今、その作品があなたの手元にあるということである。

喜んでいただけただろうか。感動していただけただろうか。それとも――

こんな物は見たくないと思う方もいられるだろう。未成年に対する影響はどうなのか。猥褻物陳列罪に当たらないのか。云々。

そうおっしゃる方々の気持ちもわからぬわけではない。おそらく本気で心配されているのだろうと思う。だが残念ながら、私はそのような意見には与しない。私は、子供や若い女性はもちろん、世の男性にこそこの写真集を見てもらいたいと思っている。このような写真を堂々と、あるいはつまらぬ偏見なしに見られるような成熟した社会になってほしいと思っている。また、猥褻という観念はそう思う人間の頭の中にしか存在しないのだから、猥褻云々を口にするほうがおかしいと思っている。

本作品の制作段階で、ある所から今回の出版に関する弊社の存念を聞きたいという依頼があった。最後に、その時の返信を掲載し、皆様のご理解を請う次第だ。

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 “MOTHER”出版に関する弊社の存念を聞きたいという御社の質疑に対し、伊東秀子弁護士と相談の上、次のようにご返事いたします。ご理解賜われば幸甚です。
 弊社(柏艪舎)は、本写真集に関し、猥褻であるとは一切思っておりません。したがいまして、そのことを匂わすような警告文(文言)は不要と考えます。受胎から出産という、科学的見地からも奇跡といわれる営為に目をつぶることこそ人間性の軽視につながることであり、岡田氏はその“奇跡”に真正面から迫り、生命の尊厳を訴え、命の賛歌を高らかに謳いあげています。
 弊社はまさにそのことに感動し、一人でも多くの方とこの感動を分かち合いたいと思ったのです。これは綺麗ごとを言っているのではありません。今の日本に最も不足しているのは、岡田氏の作品のような、人間存在の核心に迫ろうとする真摯な思いと行動でありましょう。
 しかしながら、見たくないものを無理やり見せるという危険性と、未成年保護という観点で考える必要があることも十分に理解できます。理解はできるものの、それをいかに実現するかはかなり難しい問題です。
 見たくないものを見ないで済むという権利がある一方で、見たくないものに次々にぶつかって成長していくのが人生だという考え方もあるでしょう。有害なものを垂れ流すテレビは危険だいう考え方もあれば、テレビにはスイッチがあるという人もいます。表現の自由が先か、猥褻物取締りが先か。
 私は個人的に両者共に大切だと思いますが、どうしても、臭いものに蓋をして事足れりとする精神態度には賛成できません。“猥褻”の定義は同じ国の中でも時代によって大きく変化します。変化しないのは、人間存在のあり方です。
 弊社はこれまでもそうであったように、そしてこれからもそうであるように、人間のあり方に焦点を絞った出版を続けていきたいと考えており、その意味からも、弊社は本写真集の刊行に満腔の自信とプライドを持っています。
 次善の策として、写真集は装丁の関係上シュリンク包装(その為誰でも自由に見られるわけではない)にする、本写真集を見た多くの方々の正直なコメント(今のところ、感動の声が圧倒的多数)を小冊子化する、細かく弁護士と相談する態勢を整える、などの対策を講じております。
 いずれにしましても、どのような事態になろうとも、責任は全て弊社が負うことをお約束いたします。はなはだ具体例に欠けるお約束でご不満かもしれませんが、何時如何なるときでも弊社は誠心誠意対応に務め、決して裏切るような真似はいたしません。その点をご理解いただき、今後ともお付き合いをたまわりたく伏してお願いする次第です。
 最後になりましたが、元慶応義塾大学教授で弁護士の加藤久雄先生の次のコメントを付記させていただきます。「――「出産」は人間にとって「命」の誕生の場面であり、最も厳粛な瞬間であり、その意味でいずれの性器(妊婦・子供)にも「わいせつ性」を感じない」
http://okumuraosaka.hatenablog.com/entry/20130730/1374932664

                 (株)柏艪舎 代表取締役 山本光伸

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◆『MOTHER』詳細ページ◆
http://www.hakurosya.com/books/book.php?book_id=244