「でも…違ったんです…
パンを食べて気付きました。
俺は…
パンを食べたいんじゃなくて…」

パンを…食べたいんじゃなくて…?

ハッとした櫻井さんが

「あ…いや…
パンを食べたいのは嘘じゃないんですけど…」

慌てて手を振りながら言い訳をした後に

「嘘じゃないんですけど…
でも俺は…
パンを…買いに行きたかった…
大野さんの店に…
自分でパンを買いに行きたかったんです。」

視線を上げると俺を見つめる櫻井さんと目が合って
胸の奥がザワザワと音をたてる。

「何でだろう…って…
ずっと考えてました。

何で俺は…
大野さんの店にパンを買いに行きたいんだろうって…」

次の言葉を待ってゴクリと喉が鳴った。


櫻井さんが俺の目を真っ直ぐに見て

「そして気付きました…
それは…
大野さんに…会いたいから…

大野さんの顔をもっと見ていたいって…
大野さんのことをもっと知りたいって…

何でかって…?

それは…多分…


俺が貴方の事を好きになったから…」


櫻井さんに見つめられて…
目をそらす事が出来なかった。

櫻井さん言葉が
心と身体に絡みついて
俺の胸を締め付ける。

「最初は友達から…?
いや…違う。
俺のこの気持ちは友達なんかじゃない…」



あぁ……


そうか…


そうだったんだ…


櫻井さんの言葉を聞いて
俺の中でモヤモヤと渦を巻いていた物の正体が
今、ハッキリと形になった。

櫻井さんに初めて会った時から
俺の中で蠢く感情。


ふとした瞬間に瞼に浮かぶ横顔…
忘れたくない…
忘れられたくない…
会えた時の喜びと…
会えない時の切なさ…

色んな感情が俺の中で綯い交ぜになって
想えば胸が熱くなった。

その感情の正体…



それは…




恋…