何となく肩を並べて歩くうちに駅が見えてきた。

駅前はまだ仕事帰りの人達や
部活帰りの学生達で賑わっている。

そうだよな…
普通ならこれから飲みに行こうかって時間だよな…

もう一軒…
飲みに行こうって…誘ってみる?

朝の早い俺を気遣ってくれたけど
櫻井さんにしてみたらまだ宵の口…


チラッと横目で櫻井さんを見る。

ちょっと物憂げな横顔が
初めて会った雨の日を思い出させて
離れがたいような…
別れがたいような…
不思議な感情が湧き上がってくる。


何だろ?

駅が近づくにつれ胸が苦しくなって
足が重たくなるのは…?

何なんだろう…




でもな…
俺、あんまり喋るの得意じゃないから
一緒に飲んでも面白くもないか…

きっと櫻井さんはシティタウンの取材とかで
オシャレな店や都会的な人達とも
広く付き合いがあるんだろうし…

こんな各停しか停まらない垢抜けない街や
小さなパン屋の職人なんて
ちょっと物珍しかっただけだよな…

色々考えるうちに さっきまでの楽しかった時間までも
一気に色褪せてしまう気がして慌てて頭を振る。



今日の楽しかった時間だけで充分…
これからもこんな風に一緒にメシを食えるなら
それだけで…



「じゃぁ俺はこっちだから…」

駅の手前のエアーポケットみたいな暗がりで立ち止まると

「あ…」

櫻井さんも立ち止まって

「あの…住まいも近くなんですか…?」

近くっていうか…

「パン屋の上です…」

「え…?」

「パン屋の家賃は1軒分だからさ…
そんなら住んじゃおうかなって思って。
他にアパート借りたりしたら勿体ないじゃないですか。
それに朝が早いから電車じゃ通えないし…
一石二鳥ってやつです」

「そうなんですか…
なるほど~…」

櫻井さんがえらく感心して大きく頷いた。