一人で花火を見上げていると

あの時のことばかり思い出される。

 

 

今…

 

もし貴方がここに居たら…

 

もしまたここで貴方に出逢えたなら…

 

 

ついそんなことを考えている自分に

ふっと自嘲気味に笑って小さく頭を振る。

 

バカだな…俺…

 

また都合のいい偶然に頼ろうとしてる…

 

そんな俺だから…

そんな意気地のない俺だから智くんだって…

 

 

パッと咲いてパッと散る花火の

潔さに比べて俺ときたら…

 

空を見上げていた視線がどんどん下がって

気づけば前の人の背中を見ていた。

 

 

マネージャーとも逸れちゃったし…

 

帰ろうかな…

 

空を見上げている人達の中で

一人俯いてる俺が踵を返そうとしたその時

シャツの裾が小さく引っ張られた。

 

え…?

 

シャツの裾を見て

それをつかんでいる指を見る。

指…手首…腕…そして…

 

え?…えぇーーーっ?!

 

「さ、さ、さ…さと…」

 

「シーーーっ!

デカイ声出すなよ。バレんだろ…」

 

口元に人差し指を立てているのは

紛れもない…

 

智くんっ!!!

 

「ど、ど、ど…どーして?」

 

つい大きくなりそうな声を必死で抑える。

 

「また逢ったな!

んふふ…どぉよ?運命感じた?」

 

「な、なに?!なんで?!

もしかして偶然?!」

 

目を見開いて驚いてる俺に

 

「んな訳ないだろ!

マネージャーに聞いて来たんだし」

 

なんだ…そーゆー事?

 

 

ん?ちと待てよ?

 

 

「今日ってこっちだったっけ?仕事…」

 

一瞬黙り込んだ智くんが

絶え間無く打ち上げられる花火に視線を移して

 

「ちげーよ…」

 

ポツリと呟いた。

 

 

それっ…て…?

 

 

 

この先の予感に口の中が乾いて

鼓動が早くなる。

 

 

今、貴方がここに居るのは

奇跡でも偶然でも無くて

 

貴方によってもたらされた必然…って事?

 

空を見上げてる智くんを見つめて

その視線の先の花火を見る。

 

 

今…この時を逃したら…

 

散々逃し続けて来た時を

ずっと悔やみ続けてきた俺…

今、智くんが掴んでくれた この手を離してしまったら…

きっともう二度と…

 

二人並んで、咲いては散る夜空の花を見上げながら

俺のシャツを掴んでいる智くんの手を解いて

その手をギュッと握りしめた。

 

「智くんと一緒に…見たかった…」

 

空を見上げたまま呟く俺に

一瞬視線を揺らした智くんが

 

「そっか…良かった…」

 

ほぅ〜っと小さく息を吐きながら

独り言みたいに呟いた。

 

 

 

お互いに次の会話の糸口を探しながら

二人 言葉も無く空を見上げていると

 

「た〜まや〜〜〜」

 

どこかで酔っ払いの叫ぶ声がして

二人同時に声の方を見ると

智くんが

 

「翔くんさ…玉屋と、あともう一個何だっけ?」

 

「え…玉屋と…」

 

ん…?何だ?

答えが喉元まで出てるのに思い出せないでいると智くんが

 

「山…や?」

 

山屋?…なんかちょっと違うような気がするけど…

 

「そうだよ!山屋だよ!

じゃぁ次の花火が上がったら叫ぶよ?!」

 

えっ!…えぇっ???!

深く考える間も無く

 

ドーーーンっ!

 

 
 
 

 

 

腹に響く低音とともに尺玉が打ち上がった瞬間

二人で声を揃えて

 

 

「「 や〜まや〜〜〜っ! 」」

 

 

大きな声で叫ぶと前のカップルがビックリして振り向いた。

 

 

やべっ…

 

 

慌てて下を向いて

二人で顔を見合わせて笑い合った。

 

 

 

花火大会が終わった帰り道

 

「ねぇ智くん…

やっぱ山屋じゃ無くて鍵屋だよ…」

 

やっと思い出して俺が言うと

 

「え?あはは…そっか…

でもまぁいいじゃん。

俺達らしくてさ…」

 

 

俺達らしい…か…

繋いだままの手に視線を落とすと

ジンワリと嬉しさがこみ上げてくる。

 

10年以上燻り続けた想いに火が点いて

俺の胸の奥に大輪の花が咲いた。

 

「なんかさ…

でっかい花火、打ち上げたみたいな気分……」

 

照れ隠しにおどけて「ははは…」と笑うと

 

「ずいぶん長い導火線だったな…」

 

俺の隣で智くんの笑顔が咲いた。

 

 

 

 

 

☆*:.。. 終 .。.:*☆