「お前、今回みたいな事が有った時に工場の誰に頼る?
お前のために全てを投げ打って全力で
力になってくれるヤツがいるか?
俺は大野さんに電話をした。
大野さんは表彰式を蹴って俺の頼みを聞いてくれた。
城島さんが一番言いたいのは、人との繋がりのパイプを
太くしろって事なんだよ。
工場だけじゃない…取引相手も然りだ」

俺が城島さんの下で教わった事。
新人の時、俺の教育係だった城島さんに
言葉だけではなく、身をもって沢山の事を教えてもらった。

あの人の優しさ、大きさ、強さ…
まだまだ全然敵わない。
でも…目標とする人が居るから俺はブレずにここまで来れたんだ。


「大野さんが…お前はいい仕事をしてるって褒めてたよ」

「えっ?」

ビックリして高木が顔を上げた。

「今回のブックカバー…
色とかロゴもぜんぶお前にお任せだったんだってな。
きっちり指定されていたら無理だったって…
特にロゴは箔押し機に使ってんのは限られてるから
特殊なロゴだと作らなきゃいけないからな…
そうすると絶望的に無理だったって…
全部お前に任せるって事はお前が信頼されている証拠だってさ」

「あ…」

高木の顔が泣きそうに歪む

「今回のこの仕事はお前にとっては今月の売上の
数字の一部にすぎないかもしれない。
でもお前に依頼した会社にとっては50年に一度の大事な物なんだ。
50年に一度の大事な記念品をお前に任せるって言ってくれた。
その意味が分かるか?
今回だけじゃない。すべての仕事が相手にとっては特別なんだ。
…いいな?忘れんなよ」

「……は…い」

下を向いた高木の膝に一粒…雫がこぼれ落ちた。