えっ…
「さくら…い…?」
「貴方の…待ち人じゃないですか?」
「………。」
「一応お会いする事にしました。
余りにも熱心なんで…」
「ニノ…話し…したの?」
「しましたよ…」
「…どん…な…?
どんな感じの人だった?」
「…そうですね…一言で言うと…真面目そう…
キッチリした印象を受けましたけど…」
真面目そうで…キッチリしてそう…
翔だ…
真面目で頭が良くて…曲がった事が大嫌い…
俺の…大好きな翔…
「俺……」
会うのが怖い…
もしかして昔の翔じゃなかったら…?
俺の事なんて忘れてるかもしれないし…
四年前…信じていた仕事に裏切られて
描けなくなった…
もう…絵を描くのは止めよう…
昔の俺は絵を描くのが大好きで
翔と過ごす時間以外はいつも絵を描いていた。
楽しかった…好きな絵を描いて…
あの仕事が来た時…
好きだった絵で生きていける。
そう思って嬉しかったのに…
東京に居るのが苦しくなって島に逃げた。
ヒトデのオバちゃんのトコのオッちゃんが
俺の手伝いをしないかって言ってくれて
漁の手伝いをすることになった。
翔と過ごした海を見ているうちに自然と描きたくなった。
漁をしながら描きたい絵を描く…
こんな暮らしが俺には合ってるのかも…
そう思えた頃、雅紀が帰ってきた。
雅紀も東京で暮らしてて、デザイン事務所に
勤めていたけどラーメン屋を継ぐ決心をして
島に帰ってきたんだ。
俺の絵を見て、雅紀が以前一緒に働いていた
ニノを紹介してくれた。
もう…絵の仕事はしない…
そう思っていたけど…
「貴方が合わせる必要はありません。
貴方の好きな絵を…描きたい絵を描いてください」
同じ業界にいて、以前の俺の事を承知している
ニノと雅紀が…
俺を絵の世界に引き戻してくれた。