海苔屋の社長は、執念深い性格で いつまでもゴローとおれ達を会わせる事を拒否していた。
おれもアクも親友と会えない寂しさが募って行った。
恐らくゴローも寂しがっているだろう。
おれの仕事が忙しくなった事もありゴローとまた直ぐに会えると思っている内に2年近く過ぎていた。
季節は、晩秋になっていた。
ある真夜中 おれは、アクの異様な遠吠えで目を覚ました。
「ウオォ~~~」長く長く何とも言えない悲しげな遠吠えが町中に響いていた。
おれは庭に出て「どうした?何を鳴いてる?」とアクに近付いたが奴はおれから少し離れてまた遠吠えを始めた。
アクは、夜空の三日月に向かって何度も遠吠えを続けていた。
おれは、ベッドに潜り込んだがアクの遠吠えを聞いている内におれの心まで悲しみに包まれて行くようだった。
おれが、翌朝起床して1階に降りると母が電話で誰かと話していた。
母は、涙声で話していた。
おれは、悪い予感がして母が電話を切るのを待った。
間も無く電話を切った母がおれを見て言った。
「ゴローが死んだんだって」母の目に涙が浮かんでいた。
おれは「エエッ! そんな」とまで言ったが後の言葉が出て来なかった。
海苔屋の社長夫人が電話で知らせて来た話だとゴローは、1年半位前から不治の病を患っていたのだと言う。
おれが、力無く庭に出るとアクが寄り添って来た。
アクには、ゴローの死が既に分かっているように思えた。
おれは、アクの横に座って「もう一度会いたかった」と言いながらアクの背中を何度も撫でた。
アクは、優しく慰めるようにおれの頬を舐めてくれた。
その夜再びアクの遠吠えが夜空に流れた。
あれは、アクがこの世を去った無二の親友に送るレクイエムだったんだろう。
おれは、そのレクイエムを聞きながら夜空を見上げて嬉しそうに走るゴローの姿を思い出していた。
昔 悪い神が熊に化けて人々を襲った。
それを見兼ねた良い神が怒り犬に化けて熊を倒した。
北海道の先住民アイヌの神話にそんな話がある。