「○○!」・・・・・何処からか名前を呼ぶ声が聴こえて来た様だった。
彼は今迄白河夜舟の世界に居たのだが、驚いて目を醒ました。
紛れもなく母の声の様だったが違ったかと安堵した。
気の所為だったと納得する様に気持ちが働いたものだった。
止め処もなく涙が溢れて来るものは如何したものだろうか。
高齢の母に代わって老人会の集会に出たものだった。
母の代行で出た集会で出された弁当、此の弁当を家に持ち帰り
家で待つ母と二人で半分ずつ分けて食べた。
彼に取っては二人で食した此の弁当が此の上無い御馳走だったに違いない。
其の記憶を懐かしく辿り、今一度と脳裏に焼き付けるのだった。
其処には今は亡き父から無言の侭、「母を大切にして呉れ」と託された思いを
引き継いで来た自分の不甲斐無さを嘆き哀しむ姿が有った。