MY季語集季語集「絵踏」NHK俳句2014年2月16日

岩岡中正先生
 
ゲスト 池田香代子さん(ドイツ文学翻訳家)
 1948生まれ、東京都立大学人文学部ドイツ文学科にて
種村季弘に師事。
1970年に卒業。西ドイツに留学。帰国後は文学活動に入る。
 
トルコ人のドイツ語作家アキフ・ピリンチの『猫たちの森』の
翻訳により第1回日独翻訳賞を受賞。
1995年に、ヨースタイン・ゴルデル著『ソフィーの世界』
ドイツ語版からの重訳をNHK出版より発表。
「ベルリン・天使の詩」などの、ドイツ映画の字幕も担当している。
早稲田大学や東京女子大学、中央大学、NHKラジオ第2放送
外国語講座の講師。
世界平和アピール七人委員会のひとり。
イラク戦争が起きる前後にはイラク・アクションと名づけた活動を
行い、国会議員に戦争反対を訴える活動を行った。
ベストセラー『世界がもし100人の村だったら』の
印税7000万円余をすべて、
日本在留の難民を支援するための活動資金や、
アフガニスタン難民キャンプに女子中学アル・イルム女学院を
設立するための基金、それにパレスチナの水道タンクなどの
活動や、NGO/NPOへの寄付に投じた。
 
著書
 哲学のしずく 河出書房新社 1997
 魔女が語るグリム童話 正続 洋泉社 1998 のち宝島社文庫 
 子どもにはまだ早いグリム童話 淫らでアブナいメルヒェンの毒
光文社 1999 (カッパ・ブックス)
 世界がもし100人の村だったら(再話)
C.ダグラス・ラミス対訳 マガジンハウス 2001
 世界がもし100人の村だったら 2 マガジンハウス 2002   
 世界がもし100人の村だったら 3(たべもの編) マガジンハウス 2004
 11の約束 えほん教育基本法 伊藤美好共著 ほるぷ出版 2005
 世界がもし100人の村だったら 4(子ども編)
マガジンハウス 2006  
 世界がもし100人の村だったら 完結編 マガジンハウス 2008 

 兼題「絵踏」「絵踏」
 
徳川時代の宗門改めで、多く春先に行われた。
寛永5年から幕末期の安政4年まで、
長崎奉行所では毎年正月(旧暦)に踏み絵を行うことが
正月行事の1つであった。
このことから「絵踏」は春の季語とされている。
信者の多い九州長崎、五島、大村、平戸などの地方で、
江戸幕府が人々に聖母マリア像・キリスト十字架像などを
踏ませ、キリシタンでないことを証明させた。
踏まない人を処罰し多くの殉教者を出した。
 
足袋はかぬ天草をとめ踏絵かな      青木月斗
踏絵してキリストの眼のなくなりぬ    滝沢伊代次
抱かれたるイエスをさなき踏絵かな    加藤三七子
小さなる小さなる主を踏まさるる     中村汀女
まなざしを髪でかくして絵踏かな     鷹羽狩行
身に入むや木目くぼみし踏絵板      小坂かしを
踏絵ふまざれば獄門ふめば地獄      岩岡中正
乳飲児を抱きて踏みしといふ踏絵     山内山彦
教皇の一の宝として踏絵         稲畑廣太郎
使ひべりせぬ踏絵を貸してあげる     櫂未知子
ためさるるあうら冷たき踏絵かな     中勘助
岬に集る無言の提灯踏絵の町       金子兜太
罅はしりをりし踏絵の台なりし      京極杞陽
遊び女のちひさき足の絵踏かな      細川加賀
苗代の泥足はこぶ絵踏かな        正岡子規
罰よりも罪おそろしき絵踏かな      野見山朱鳥
傾城の蹠白き絵踏かな           芥川龍之介
絵踏して生きのこりたる女かな       高濱虚子
乞食の子も許されず絵踏哉        会津八一

特選
一席
ためらへる足美しき絵踏かな  香川県琴平町 三宅久美子さん
*長崎の丸山の遊郭で、遊女たちが絵踏をさせられる行事がある。
浮世絵になっており、虚子などは、これを見ての作句か
足一点へ焦点が合っていて省略がきいている。
見ようによっては悲惨な踏絵であるが、遊郭の華々しい見世物となっている。
哀しい歴史の一齣

二席
火影いま大きくゆらぐ絵踏かな  神奈川県小田原町 天野信敏さん
*映画のワンカットのような句。クローズアップ・背景ぼかしが効いている。「火影いま」の入り方がいい。
、「大きく揺らぐ」のは火影であり内面の葛藤であろう

     
 三席(自由題)
海老蔵に睨んで貰ふ初芝居  埼玉県久喜市 鯨岡日出男さん
*團十郎亡き後、息子の海老蔵が、成田屋のお家芸「睨み」を
行っている。邪気払いの所作だ。
「睨んでみせまする―」
目に血管が浮くのがすごい。

入選

天空に嘶く干支の絵凧かな        北海道旭川市 島田五十鈴さん
*今年は午年だから、 天馬の絵柄なのだろうか。
おめでたい一句

赦されて絵踏みの島に漁れる   千葉県習志野市 長尾登さん
*「赦されて」が深い。生きていくことは辛く哀しいが、
なによりも生き抜くことが大切と、神も赦したもう筈。
聖人の一人ペトロは漁師であった。

水餅のやうな齢となりにけり   石川県金沢市 今村征一さん
*面白い表現。「水餅のような」とはどんな感じか。
ぐちゃぐちゃってか

大見得の旅の役者の絵踏みかな  静岡県富士市 内田和幸さん
*旅役者が大見得を切って踏絵をしている図か、
舞台の踏絵の場面を大見得を切っているのか、
悲しみの中に滑稽感が漂う。

一枚の踏絵のごとき原城址    佐賀県伊万里市 萩原豊彦さん
*天草の乱で戦場となった原城。その城址が一枚の踏絵のように見える。
優れた感性による句だ。

天井をただただ仰ぐ絵踏みかな  鹿児島県南九州市
                      日笠こうじさん
*吹きこぼれる涙をこらえて「ただただ」天井を仰ぐのみ。
切支丹受難史を語る歴史館の天井はほの暗い。

俳人のことば
山口青邨
 
 草の芽ははや八千草の情けあり  
*我が母校裏の百花園にての句
 
 春蘭の山路のごとく庭のうら   
*東京の杉並区の自宅の庭を「雑草園」と称した。 
 
入選の秘訣    
 
  *説明を避ける。ベタの言葉を少し離れた言葉に置き換え広がりを持たせる。
 
大地震に絵踏のごとく瓦礫踏む 
 ◯沖を見て絵踏のごとく瓦礫踏む

* 「大地震に」が説明っぽい。瓦礫でわかる。
 たとえば「沖を見て」と、離すと広がりがあり、具体性がでる。 
 3,11以後、国語辞典の記述が変わる。
 「瓦礫」=「かわらと小石」に 
           「こわれた建物の残骸」という意味が加わった。
 2014年1月10日発行「三省堂国語辞典」(第7版)

二百面相落選句
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