山繭に女人高野の風出でし      久保方子

 

句集 『御射山』より

 

山繭蛾の美しい薄緑色の繭をお送りいただいて、

8月19日に羽化しました。

 

が、羽が広がりきらず、飛べません。

可哀そうで、裏の出入り口に箱を置き、砂糖水を置き、

見守ることにしました。

 

動きがほとんどありませんで、死んでしまったのかと、何度驚いたか。

しかし、覗きに行くと場所を変えていましたので、安心していました。

 

数日前の朝、見ると、箱から出て、壁に張り付いていました。

飛べないのに、登っていったのでしょうか。

そして、柱に羽を震わせて卵を産み、翌日は移動して、壁に卵を産み、

そして、気が付いたら、壁から離れ、下に落ちていました。

傷つかないように、新聞紙をふかふかにして敷いていましたのでよかったです。

 

そして、そうっと運び、箱へ戻しておきました。

それが夕べのことです。

そして、今日、とうとう動かなくなりました。

今朝は、風を送ると、羽を少し動かしましたので、疲れて眠っているのかと思いましたが、

暫くしてみると、足が体の下になってしまって、

何かをつかんでいるいつもの姿はなくなっていました。

そして、時を経るごとに、体はモノになってしまったようにみえました。

羽化して一週間。

山繭は天国に召されました。

 

   山繭に女人高野の風出でし  方子

 

生まれた卵は、無精卵でしたが、羽を震わせて、産み付けた卵です。

たった一週間の美しい成長した姿(のはず)でした。

人間ではありませんが、女人の哀れさを思い、

どうか風が、山繭の魂を天へ送ってほしいと願います。

 

山繭と過ごした一週間、大切な思い出となりました。

 

有難う、山繭さん。

家に来てくれて、有難う。

 

 

 

カノン