陽を集む芝はふくら雀招く | 自由俳句 「風薫」(ふうくん)

自由俳句 「風薫」(ふうくん)

宇都宮で自由俳句の会「風薫」を主宰している陽子です。自由な感覚で俳句を詠み合う句会を月に1回開催しています。俳句集もすでに10集集目を刊行しております。

 いよいよ冬らしくなりました。宇都宮は日光連山、那須連山から吹き下ろす北風の堕ち処ですから冬は厳しい寒さになります。

転勤で宇都宮に来た人が「思っていたより冷える、寒い」と言うのをよく聞きますが、宮っ子の私でもなかなかこの寒さには寛容ではいられません。最近変わってきたのは雪があまり降らなくなったことでしょうか。子どものころは体育の授業で雪合戦をしたものですが、いまでは少し降っても翌日には溶けているといった感じが多い冬です。

 雪こそ減りましたが、いずれにしてもこの厳しい冬を越えれば春はやってきますから、寒さ対策を工夫して乗り越えていくしかありません。冬には冬でしか味わえない風物詩を味わっていこうと思います。

 今回の兼題(テーマ)は「楽器」でした。

 

 

川島育郎

 

冬の夜指先痛きアコギかな

コントラバス押さえる指もかじかみつ

ゴスペルや聖夜一夜のおごそかさ

おでん鍋冷や酒を酌むふたりかな

年の瀬や祖父を継いでの障子張り

子ら巣立ちショートケーキのクリスマス

冬浅し友の名を見る訃報欄

木の葉髪遺伝は刻々来たりけり

セーターを肩に羽織りて業界人

柚子なくて蜜柑を風呂に冬至かな

 

 

池田アキ

 

チャルメラを聞く路地裏や冬の夜

冬来る弦はポロリと語りなば

八戸の冷たき風はピーヒャララ

雪原の闇に染み込む汽車の音

小春日やすべてがほのかに香る朝

宮ジャズと餃子のコラボ冬夕焼け

喧騒の中に佇み寒時雨

北の旅車窓に写る冬景色

北の街元気な子らに追い越され

方言の意味は知らねど北の冬

 

 

高崎志朗

 

にごり酒六府に届く弾き語り

指にタコ弾くほど固く三年目

喜寿の指ギター入門冬螳螂

冬浅しピアノに挑む古希の妻

Aの音五時を知らせる寒き路地

幼子や家路を急ぐ夕野分

霜月やツリーぼちぼち街に有り

収穫後何を見張るや寒案山子

 

 

渡辺健志

 

冬麗や襟足ひやと風過ぎぬ

神宮を駆ける童や冬隣

角切や悲鳴のやうな鹿の聲

木枯らしや窓の隙間にビブラート

灯台や翠玉色の冬燈

羽後国移住希望は熊ばかり

三社詣で気吹戸主は愛猫家

※気吹戸主(いぶきどぬし):息栖神社祭神

 

 

大竹和音

 

冬陽射すビッグバンドのラッパ隊

あかぎれのにじむ血のまま叩くカホン

盗まれしギターすきま風の離れ

出稼ぎやどさ回りギグの投げ銭

冬の星ジングル跳ねるタンバリン

ヴィンテージギターの音色冴ゆるカフェ

しはぶきや喋りながらのチューニング

呼び鈴を五回鳴らすもオリオン座

つむじ風泉谷弾きのギター傷

神の留守渋柿かじる下校の子

 

 

小林泰子

 

寒晴れや発表会にもぎり役

霜月やささくれの指を見つけたり

小春日の脳に溶けゆくピアノの音

毛糸編む昭和歌謡を聞き流す

冬晴や吾も透明になる芝

寒鴉通りのシャッター数の増え

 

 

白石洋一

 

実を成して正体現す冬瓜や

バッタ飛ぶ庭猫戯れ猫パンチ

鳥の声聞こえない朝淋しけれ

便座に電気の温もりをON

銃声響く獣の命一つ失われ

貧乏から縁が切れることのない自分

今年の下着の切り替えは11月8日

アルペジオフォークギターは指痛し

ハーモニカ小さい秋を弾いてみる

土の管童謡の節似合い過ぎ

  ※土の管:オカリナ

 

 

 

刈谷見南國

 

神迎へ弦張りつめて緑色

帰り花硬貨転がる奈落へと

荒星やギターピックの粉溜まる

冬立つやコイル廻りにピックの粉

寒厨の灯り秤の針ゼロに

名も知らぬ漫画の記憶神の旅

寒星やチック・コリアのラテンジャズ

猫太る朝日に細る吊し柿

曲順を極力変へる沼枯れる

リキ・パレスの栄華語るや神無月

 

 

福冨陽子

 

勘所譜追ふ三味線指冷たし

三線の松脂固まり時雨雲

ハーモニカ分解したまま大人に

パリージョに合はせる冷へ足フラメンコ

雨上がり八つ手の花よ北を向き

帰り花陽のまじなひに羽音来る

寒椿立ち止まるひと口の開く

餅焼きのトースターは右利き

初冬や菜洗ふ水は喋らなひ

小春日や地面の小さき乾き穴

干し柿を垂らす窓辺や幸垂らす

 

冬晴れよパーシモンは渋き