リマからクスコへ
リマからクスコへ、つまり低地から高地へと丸一日かけて移動し、それはそれはぐったりした。
ペルーの長距離バスは座席のクッションがきいていて足置きまであり、背もたれもかなり後ろまで倒せる。
こんなに快適なので読書でもしようと思ったが、揺れのためか高山病のためかどんどん気持ちが悪くなり、時間をやり過ごすのが精一杯であった。
そうして翌日の昼クスコに到着したときにはすっかり生気が抜けていたわれわれであるので、バスターミナルから宿までタクシーで移動した。
わたしにとっては2度目のクスコであり、
「8年前はバスターミナルから宿まで余裕で歩いて行ったのに……」
と体力の低下を嘆きながらのタクシー移動であった。
宿で荷を解きひと段落したところで、さっそくクスコ観光を始めた。
わたしはクスコが好きだ。
それは町として統一感があるうえ、博物館などの見どころが多々あり、土産物屋やカフェも多く、しかし地元の人々が利用する食堂もあって、一定範囲内で充実した観光ができるからである。
クスコでは以前ほぼ全ての博物館に行き尽くしたが、今回はその中の考古学的展示にしぼって再訪することにした。
同じ博物館でも8年前のわたしと今のわたしでは、きっと異なるものに興味がわくだろう。
プレコロンビーノ博物館
プレコロンビーノ博物館はクスコの中心部アルマス広場から少し上ったところにあり、インカとそれ以前のアンデス文化の遺物を、コンパクトかつ美しく展示している。
リマのラルコ博物館をやや小型にしたような展示内容だ。
以前見た覚えのある土器もあるが、おそらく展示方法が変わっていることもあって、新たな気持ちで楽しんだ。
まず感激したのがコレ。
ラルコ博物館の図録に「月の動物」という様式化されたネコ科動物のモチーフがアンデスの土器には見られると書かれていたので、見たい見たいと思っていたが、その好例がここにあった。
プレコロンビーノ博物館の説明によるとこれはペルー北海岸に栄えたモチェ文化(紀元前後〜800年頃)に属する器で、ネコ科、キツネ、鳥、蛇の特徴を組み合わせた動物が三日月の上に描かれているという。
これはアンデス土器の中でも屈指のデザイン性ではなかろうか。
そして次に高い地位にある人を模しているというインカの杯。
インカの杯といえば木製の器のケロが有名であるので、このようなタイプはこれまで見たことがなかった。
上品で柔和な笑みが、他の土器とは一線を画している。
さらにはチムーの木像である。
チムーはペルー北海岸にあった帝国であり、インカ帝国とともに「古代アンデスを代表する2つの文化的伝統の集大成」と言われている。
アンデス文化では儀礼の際に器が重要な役割を果たしたためか、下の写真のように器を持った人物像が作られ、主要な広場の周辺に据えられていたそうだ(ラルコ博物館図録より)。
今回この木像を前にし、既視感を覚えた。
何かに似ている。
コップを持ったおじさんの像…………
モンゴルだ!!
われわれは昨年の夏モンゴルを訪れ、「石人」という石像を何度も博物館で見た。
それは遊牧民族突厥の残したユーモラスな男性像で、非常に印象に残っていた。
モンゴルの博物館は撮影禁止であったため写真は手元に残っていないが、わたしの博物館ノートには石人のメモがあり、やはりコップを持ったおじさんなのである。
まったく違う大陸で、素材は違えど、共通する要素を持った像に出会えた。
だからといって何の意味もないかもしれないが、そうした文化をまたぐ気づきは世界旅行ならではの楽しみであり、「石人とアンデスの木像がちょっと似てる」というささやかな発見に、わたしはひとりほくそ笑んでいたのだった。