+「ポ」の国【前編】 | ハゲとめがねのランデヴー!!

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『深夜特急』にあこがれる妻(めがね)と、「肉食べたい」が口ぐせの夫(ハゲ)。
バックパックをかついで歩く、節約世界旅行の日常の記録。

 

英語が通じてしまう国

 

フィリピンは「英語が通じる国」である。

 

ウズベキスタンなどのスタン系の国々では、各国語に加え中央アジアの共通語であるロシア語の2言語をみなあやつっていた。

それと近い通用度でフィリピンではみな英語を話すのではないか。

食堂のおばちゃんもバスのおっちゃんも、みんな英語で説明してくれるのである。

 

しかしわたしはあえて、フィリピンは「英語が通じてしまう国」と言いたい。

 

なぜならそれは旅行者には非常に便利である一方、周りの人間が何を言っているかまったくわからないという旅独特のシチュエーションが味わえないからである。

 

中途半端にわかる英語やスペイン語だと、ふとした会話を拾ってしまう。

脳内の辞書が勝手に検索を始め、「あ、この単語なんだっけ」とか「うわーこんなこと言ってるよ」などと思うハメになり、観光や読書に集中できないのである。

 

しかしフィリピンの場合はそれよりも、アメリカの名残りを感じるのが原因かもしれない。

なぜこんなに英語が通用するのかを考えると、非常にモヤモヤするのである。

 

 

植民の気配

 

フィリピンの言語状況を考えるには、植民地であった歴史をひもとかねばならない。

 

フィリピンはまずスペインによって植民地化され、その後米西戦争を経て、2000万ドルでスペインからアメリカに売り渡された(パリ条約)。

そしてその後、一時期日本が占領したのだ。

 

フィリピンではスペインをふっと感じることがある。

 

たとえばマニラの高架鉄道の駅名。

「ブエン•ディア駅」は「いい日駅」、「リベルタ駅」は「自由駅」。

どちらもスペイン語だ。

 

ほかにも町を歩いていると、ふとしたところでスペイン語に出会う。

被支配の悲壮感は感じないものの、どことなく歴史が染み込んでいる気がするのである。

 

英語についてはもっと深く浸透している。

それはアメリカによる占領時から教育の場で使われてきたからである。

 

『物語 フィリピンの歴史』(鈴木静夫、中公新書)によると、

 

《米国は当初から、英語を教育の手段として用いることで、フィリピン社会のアメリカ化を促進させようとしていた。》

《スペイン人修道士が教会を通じて行った平定作戦を、米軍は学校を通じて行ったのである。》

 

とのことである。

 

そして今も英語は公用語の一つ。

本屋をぶらぶらしていても、圧倒的多数は英語の本であった。

 

同書の最後の部分で筆者はここまで言いきっている。

 

《歴史的にみると、英語教育はフィリピン人に劣等意識を植えつけ、アメリカ文化に憧れさせる「エサ」として提供されてきた。

フィリピン政府が「世界言語としての英語の知識は、フィリピン国民の誇りである」と言えばいうほど、国民意識をあいまいにさせている。》

 

しかしこの本が出版されたのは1997年である。

そのため現在はやや状況が変わっているかもしれない。

 

たとえば若い世代は英語をより母語に近い存在と考えているのではないか。

カフェで若者や主婦たちの会話を聞いていると、現地語ではなく英語で話していることがあった。

 

英語話者であることは、グローバル化したこの世界で圧倒的に有利である。

今のフィリピンは英語を武器に、したたかに文化的にも経済的にも世界とつながっていこうとしているのではないか。

 

植民地への言語の押し付けは卑怯で傲慢だが、その結果うまれた言語状況をフィリピンの人々は今、現実的に活用しているんじゃないかと想像するのである(あくまで想像、短期旅行の限界を感じる)。
 

そしてわたしが「したたか」だと思ったのは、英語を英語のまま使用するのではなく、独自のアレンジを加えているのを知ったからでもある。

 

マニラ滞在時に聞いたこのセリフから、わたしの言葉の採集は始まった。

若いフィリピン人が店員にさらっと言っていたひとこと。

 

「サンキュー・ポ」

 

ポ。

ポ。

ポ……。

 

ポ、ってなんだポ?

 

後編へ。

 

 

(フィリピン編もそろそろ終わり。

マニラ、人類学博物館のかわいいものを載せておく。)

 

(バイバインというフィリピンの文字。

うにょっ、うにょっとした筆致がかわいい。

世界には知らない文字がたくさんあって楽しい)

 

(水牛の棺、確か重要な人物のためのもの。

なんでもかんでも「かわいい」という風潮はいかがなものかと思い、語彙を必死にさがしてみたが、この表情を前に「かわいい」以外思いつかない。

あーかわいい、むっちゃかわいい)

 

 

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