1945年 疎開先で
14歳の春を迎えたローレ
ナチスの高官である父親が
連合軍に逮捕され
夫の後を追って行った母の代わりに
弟たちの面倒を見ながら
ドイツ北部の港町・フーズムに住む
祖母の下に身を寄せるために
900キロもの過酷な旅に出るが
出会う大人たちは皆冷たく
敗戦の現実・それまでの価値観が
悪だと否定されることを目の当たりにしていく
避難所の壁に貼られた
ユダヤ人強制収容所の
実態を写し出した写真
疎開する直前に父と母が燃やしていた
ユダヤ人を絶滅させるための機密書類
両親が戦争犯罪人であることを知った
彼女は今まで社会や大人たちから
教えられていたことが嘘だった事実に
愕然として
父の写真を土の中に埋める
誰も助けてはくれない最中
救いの手を差し伸ばしてくれた
ユダヤ人青年・トーマス
ユダヤ人であるが故に彼に惹かれながらも
激しく拒絶するローレだったが
彼に心を許したい自分と拒絶する自分
彼を愛したい自分と憎悪する自分
二つの相反する感情に苦しめられ
彼を好きだと自覚しながらも
それを言葉にはできずに
彼への熱い想いが
湧き上がる性衝動となって表れるが
彼からは拒絶されてしまう
自分への愛を感じながらも何もしようとはしない
トーマスの本心を知るために
彼の前で他の男に抱かれる
だが彼女のこの行為は
トーマスの心に潜む狂気を呼び起こしてしまう
これがあなたの私への愛なのね
私を汚す男を殺めることが - - -
彼を愛しながらも狂気と隣り合わせの
その愛に震えていく
無事に英国軍占領地域に到達して
もう自分の役目は終わったからと
彼女の前から去って行こうとする彼に
何処にも行かないでと懇願するローレは
弟の死・社会が組織的についてきた嘘
両親の戦争犯罪 それらの心の葛藤を語り
あなたが誰でもいい でも嘘だけはつかないで
そしてもう悪いことはしないでと訴えるが
彼との別れは突然やって来る
彼はユダヤ人ではなく
トーマスという名前も別人のもので
その人物になりすます逃亡犯だった
祖母は今でも厳格にナチスの教えを信じて
規律と秩序を重んじた
ドイツ民族の誇りを押しつけるひとで
弟たちも祖母の偽善を見抜いていた
敗戦の現実を知った今
もう前の私には戻れない
大人の嘘にはもう騙されない
去って行ったトーマスの無事を願いながら
新しい時代の幕開けに
ドイツの未来に新たな希望を託す
ローレだった✨
敗戦の現実・旅の重圧に耐えかねて
既成の価値観を否定され
大人たちがつく嘘に困惑して
窮地を救ってくれた
トーマスに頼ろうとするローレ
頼りたくなるこの気持ち
同じ女性として良くわかりますね
女ってね 強くて逞しい男に出会うと
ついつい頼りたくなるんですよ
守ってほしくなるの
これはもう女の生まれ持った特性
サガと言ってもいい
こういうサバイバル的な状況下なら
余計にそうだと思う
私の夫がこのタイプの男性なんですね
冷静沈着なんだけど行動力があって
強くて頼りになる
頭の回転が早くて論理的で弁も立つ
弁護士だから当然と言えば当然なんですけどね
スポーツ万能で機械にも強くて
何でもできるひと ➕ 優しいので
もうお姫さま状態です (笑)
文学とか映画の話はできなくても
一緒にいて安心感を与えてくれる
夫と復縁したのは
女のサガがそうさせたのかもしれない
海外で暮らしていると
頼れる男性が近くにいると安心できますね
夫のことを書くと夫に会いたくなってくるな - - -
一方のトーマスは乳呑み児を抱えて
弟たちと過酷な旅を続けるローレを
守ってやりたいという男気の他に
逃亡者であるが故に
家族連れに紛れこむと 素性が発覚しにくい
食料も貰いやすいという 打算もあるんですね
彼女に惹かれるているのも事実なんですが
逃亡中の身なので面倒なことになりたくない
彼女が純粋なひとだから深みに嵌りたくない
つまり恋愛なんてしている余裕がないんですね
そして彼女のことを大事にしたい
もっと相応しい相手が現れるまで
自分を大切にしてほしいとも思っている
衝動的でもあるんだから
冷静さの中に狂気を秘めたひと
辛く複雑な幼少期を送ってきたんでしょうね
心が病んでますね
でも彼はCold Blood
冷血漢ではないんですよ
自分の過去を振り返りながら
涙を流す良心が残っているから
彼も大人たちの嘘を見抜いて
社会に馴染めなくて
弱い立場である子供から搾取しようとする
偽善的な大人を憎悪している
恐ろしい光景を見た彼女は
彼の狂気を駆り立てたのは自分だと責めます
彼に拒否されたことで
彼の前で別の男に抱かれる
植えつけられた人種偏見を払拭できなくて
心では彼を拒否しながらも
身体が嘘をつけないんですね
素直になれないから屈折していく
彼のことをユダヤ人だと思っているから
拒絶と愛の狭間で苦しめられる
好きだと言葉に出して言えないから
熱い想いが性衝動となって湧き上がる
別の男を誘惑しながらも
彼女は本気ではないんですよ
本気ではやってないの
彼に助けてほしい 振り向いてほしい
だから別の男に抱かれながらも
眼だけは彼を凝視してるんです
彼が助けてくれるのを待っている
これはね 彼の本心を探るためのテストなんです
成長過程にいる少女の軽薄さとも言えるし
女の魔性とも言える
本能的なものですね
彼に夢中になって
自分の愛を受け止めてほしくて
こういう行動に出ている
彼女は女の部分を強く持った子だから
彼はユルゲンだけには本当のことを言います
ユルゲンなら言いやすいから
ユダヤ人ではなく
トーマス・ヴァイルという名の別人に
なりすましていた事実を - - -
そしてその事実を
彼女はユルゲンから聞かされます
この辺りの描き方は上手いですねぇ〜
男女の意思疎通のすれ違いを描いていて
自分から直接言うのではなく
弟を使って告白するという形をとっている
彼女との別れを想定して
ちゃんと計算しているんですよね
自分の代わりに
彼女の弟が真実を伝えてくれるから
でもこれは聞かされる方は辛いと思う
自分の存在を否定されたようで
何で弟には言って私には言ってくれないの?
という彼への不信感が募る
ちゃんと本人の口から聞きたかったでしょうね
だって彼女はそのことに
既に勘付いているんだから
今さら怒りはしないのにね
これって嘘をついていることへの罪悪感なんです
だから真実を一番伝えるべきひとに言えないの
嘘をつくと必ず弊害が出てくる
彼の狡さと弱さが出ていますね
彼にとっては通過点
そこに愛はあるけれど移動中の恋であって
本気になりたくても
本気にはなれないという事情がある
恋愛ってホント〜 タイミングですからね
旅人同士の恋を成就させることって難しい
本気にはなれないけれど
彼女のことを愛しく想っている
つまり彼女との将来はないけれど
愛しているんですね
愛しているのに本気になってはいけないと
必死に思い込もうとする
彼のこの表情が切ないわ - - -
彼は彼女を愛しながらも冷めているのに対して
ローレは本気になってしまうんです
そして彼から離れられなくなってしまう
強く愛してしまうの
それってこういう状況下に於いて危険ですよね
相手へのDependancy
依存度が強いと辛く苦しい恋愛になる
頼ると依存は全く違いますよね
男に頼るのはいいけど 依存したら駄目なんです
自分を見失ってしまうから
相手のペースになって
その相手に従属する関係性になってしまう
そうなると自分が傷ついてしまうんですね
相手への依存度が高いと
ちょっとしたことで傷つくんです
先程も書いたように
女には何かあると頼れる相手がいると
その男に頼ってしまう傾向があって
だから気をつけてはいても 状況によっては
男に依存してしまうという
負のスパイラルに陥りやすい
相手に依存すると盲目的になってしまう
盲目的になると
そのひとの本質を見ようとはしなくなる
彼女が彼が犯した殺人について
自分にも非がある
共犯者だという意識があるのは
彼を盲目的に愛するが故に
彼のことを庇いたいという意識が
そうさせているんですね
でも彼がやったことは正当化はできませんよね
でもね 通り過ぎて行く相手だからこそ
自制心が効かなくなることってあるんですよ
先が見えないのに本気になってしまう
悲劇的な恋への潜在的な憧れ
自虐的な女性って多いんです
自傷的と言ってもいい
こういう特性って
多かれ少なかれ 女は持ってると思う
相手が振り向いてくれないと
こういう精神状態に陥りやすいんですね
だから火傷するの - - -
彼女が彼への依存度が高くなった
背景には戦後の混乱期という
特殊な状況があると思います
価値観が逆転して
それまで信じていたものが全否定され
誰も信用できなくなった
両親でさえも - - -
途轍もない不安が押し寄せてきて
側にいた男に頼りたくなってしまう
過酷な旅を続けるなかで
助けてくれたのは彼だけなんですね
周りの大人たちは皆冷たい
二人には大人への社会への不信感という
共通の思いがある
この共通の思いが二人を結びつけた
この二人の決定的な違い
それは性格の違いなんです
社会や今自分がおかれている環境に対する
不満や不安を言葉にして吐き出すことができる
彼女に対して
寡黙な彼はその思いを内に溜め込んで
爆発してしまう
この性格の違いは大きい
冷静沈着であり
理性的であり
一旦火がつくと暴力的になって
殺人を犯してしまう
彼のこの性格って 言及はしませんが
何らかの人格障害と診断されると思いますね
価値観が逆転した戦後の混乱期って
心が病んでたひと
結構いたんじゃないかと思います
善と悪の境目が曖昧でね
彼の心の中には狂気が潜んでますね
彼女への感情を抑制しているために
彼女を汚す男を前に爆発してしまう
腕に刺青を彫って別人になりすましてでも
生き延びたい 逃げきりたいという
生への貪欲さ 自由への渇望
罪悪感の無さ モラルの欠如
本物のトーマス・ヴァイルは
この本名のわからない彼によって
殺害された可能性も否定はできないですね
しかしその一方で窮地を救ってくれて
父親のように守ってもくれた
その強さと身勝手さと優しさに
狂気を秘めた人物だと分かっていても
魂を抜かれたみたいに盲目になって
依存してしまう
この映画は戦後の混乱期という
特殊な時代に於いて
危険な男に惹きつけられる
ヒロインの女性の心理を
巧みに描いていますね
もう逃げないで罪を償ってという境地に至る
でもその反面 逃げきってほしいとも思っている
相反する二つの感情
共犯者意識を持つ彼女が
その気持ちを誰にも言えない
事件のことを話す勇気がない = 隠している
ことへの
良心の呵責と罪の意識の裏返し
自首してというのが本心なら
もうとっくに警察に行って
事件のことを話してますよね
彼のことを庇いたい
自分さえ話さなければ
事件が発覚することはない
このまま黙っていよう
でも悪いことをしたんだから
自首をして罪を償ってもほしい
殺人犯を愛してしまった女性の葛藤ですね
注 : 彼女に直接的な罪はないとしても
殺人現場にいて一部始終を目撃しながら
隠していることに対して
そのことが発覚すれば
何らかの罪を問われる可能性はありますよね
この戦争が被害者側である
ユダヤ人家族の幸せを奪ったと同時に
ホロコーストを推進した
加害者側である
ナチスの高官家族の幸せも奪ってしまった
今まで語られてこなかった
加害者家族の戦後
自分の親が犯した残忍な行為と向き合う
ヒロインの姿に
何の罪もない彼女に背負わされた重圧に
戦争の不条理さを感じずにはいられません
彼が無事に逃げ延びることを
心の底では案じながら
先月初めに書いたこの文章に
更に今回 加筆を加えました ✨
私がこのレビューで描きたかったことは
それまでの価値観が否定された
敗戦直後の混乱期に出逢った人間の姿で
悪いことをしてでも生き延びようとする男と
そんな男を愛してしまった女の葛藤
これは反戦映画ですが
政治的なメッセージを送るために
この映画をレビューした訳ではないんです
戦争が奪った平和と幸せと喪失を描いた
この作品
私は戦争に纏わる悲恋ものが好きですが
反応を気にして 今後自分の好きな映画を
書けなくなりそうで ちょっと困っています