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あらすじ
私はたとえ眠っていても、それでも恋人の電話だけはわかる――。客と「添い寝」をする仕事をしていた親友のしおり。彼女が死んでから二ヶ月、寺子はなぜか眠くて仕方のない日々を送っていた。人生に訪れる停滞した時、そして始まり。許されぬ恋のせつなさ、一途な愛が起こした奇跡を描く「白河夜船」他、「夜と夜の旅人」「ある体験」の”眠り三部作”。

 

ひと言
レンタルDVDで「白川夜船」という映画を見つけて、DVDを観る前に読もうと思って借りた本です。1989年に吉本ばななさんが発表した小説が26年も経った2015年に映画化されるなんて…。本を読み終えてDVDを借りにいきましたが貸出中でした。残念

 

 

ああ、何だかついさっき目が覚めたばかりみたいで、何もかもがおそろしいくらい澄んで美しく見える。ほんとうに、きれいだった。夜をゆくたくさんの人々も、アーケードに連なるちょうちんの明かりも、少し涼しい風の中に立ち、待ちどおしそうに真上を見ている彼の額の線も。そう思うと突然、何もかもが完璧すぎて涙がこみあげてきそうになった。見回す風景の中の、目に入るすべてが愛しく、ああ、目を覚ましたのが今ここでよかった。いつもは車がいっぱいのこの通りがこんなに広い空地になった、真ん中のところに2人で立ち、花火を待ち、うなぎを食べて、いっしょに眠ることのできる今夜を、こんなにはっきりした精神で観ることができて嬉しいと思ったのだ。まるで祈りのような気分だった。
――この世にあるすべての眠りが、等しく安らかでありますように。
(白河夜船)