はじめに
前回は、プラン設計と販売チャネルの最適化について解説しました。
どこでいつのタイミングで、何を売るかという課題でしたね。
今回は、旅館経営者が知っておくべきRMの中核である
「需要予測(フォーキャスト)」と「在庫コントロール」について掘り下げてみたいと思います。
過去のデータをどう読み解き、未来の需要をどう予測するか。
そして、限られた在庫(客室、調理能力、人員など)をどのようにコントロールすれば、
収益を最大化できるのか。
経営者自身がこの仕組みを理解し、戦略的に関与することが、旅館の収益性を大きく左右します。
しかし、ここでも旅館はホテルとは異なる難しさに直面します。
過去の回でも話してきたことですが、特に地方の旅館の需要予測は、
都市部のホテルと比較して格段に難易度が高いのです。
経営者として、まずこの「難しさ」を正しく認識することが重要です。
こんにちは! ホテル結マネージメント代表の後田大輔です。
30代から10年間、全国の旅館・ホテルの事業再生の最前線で、
経営者やスタッフの皆さんと共に困難に向き合ってきました。
その経験を活かし、現在は業界で唯一、
旅館の事業承継を専門とするアドバイザーとして活動し、また
旅館のレベニューマネジメントの支援家としても活動しています。
旅館の需要予測が難しい理由
都市部のビジネスホテルの需要予測は、比較的パターン化しやすいと言えます。
平日はビジネス需要が安定的にあり、週末は観光需要やイベント需要で変動する。
この基本パターンに、大型イベントや展示会などの特需を加味すれば、ある程度の精度で予測できます。
一方、地方の旅館やリゾートホテルの需要予測は、なぜ難しいのでしょうか。
目的地型の宿泊需要という特性
最大の理由は、旅館が「目的地型」の宿泊需要であることです。
ビジネスホテルの顧客は「その地域で仕事がある」という明確な理由で宿泊します。
仕事の予定は比較的早く決まり、予測しやすい。
しかし、旅館の顧客は「その旅館に泊まること自体が目的(多様な)」です。
競合する選択肢は、周辺の旅館だけでなく、他の観光地、さらには「旅行に行かない」という選択も含まれます。
つまり、需要を左右する要因が極めて多岐にわたるのです。
天候、経済状況、トレンド、SNSでの話題性、交通アクセスの変化、
さらには競合施設のリニューアルや価格戦略まで、すべてが影響します。
週末集中と季節変動の激しさ
旅館の需要は、週末・休前日に極端に集中し、平日は閑散とします。
さらに、桜・紅葉シーズン、ゴールデンウィーク、年末年始などの繁忙期と、それ以外の閑散期の差が非常に大きい。
この二重の変動(週次変動と季節変動)が重なることで、「去年のこの時期はどうだったか」
という単純な前年比較だけでは、正確な予測ができません。
予約のリードタイムの長短
旅館の予約は、数ヶ月前から入る早期予約と、直前になって急に入る予約が混在します。
特別な記念日や大型連休は早期予約が多い一方、天候や気分で決める旅行は直前予約になります。
このリードタイムのばらつきが、需要予測をさらに複雑にします。
旅館が見るべきデータと予測の基本
では、この難しい需要予測に、旅館はどう取り組むべきか。
重要なのは、完璧な予測を目指すのではなく、
仮説設定や、アクションに結びつく予測をすることです。
基礎データ:過去3年分の実績
まず押さえるべきは、過去3年分の予約・宿泊実績データです。
1年だけでは偶発的な要因(天候、イベント等)の影響が大きすぎるため、
複数年のデータで「平均的なパターン」を把握します。
見るべき項目は以下の通りです。
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曜日別・月別の稼働率:どの曜日、どの月が強いのか、弱いのか
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予約の推移(ピックアップ):宿泊日の何日前に予約が入ってくるか
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ADR(平均客室単価)の推移:時期によって取れる単価の水準
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キャンセル率:どの時期、どのプランでキャンセルが多いか
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客層構成:個人客・団体客、OTA経由・直販など
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自社予約比率:リピーター獲得状況を示す重要指標
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インバウンド比率:訪日外国人客の構成比
これらのデータから、自館の「需要の型」を理解することが第一歩です。
特に注目すべき2つの比率
需要予測において、私が考える、特に経営的に重要な指標が
自社予約比率とインバウンド比率です。
自社予約比率(自社サイト+電話予約÷総予約数)は、リピーター対策の成果を測る指標です。
この比率が高いということは、顧客が旅館を直接指名して予約している証拠であり、
リピーターや口コミ経由の新規客が多いことを意味します。
自社予約比率が年々上昇していれば、顧客との関係構築が成功している証拠です。
逆に低下傾向なら、リピーター施策の見直しが必要です。
この比率の推移を追うことで、長期的な顧客基盤の強化度合いが見えてきます。
インバウンド比率(訪日外国人客÷総宿泊客数)は、今後の成長可能性とリスクの両面を示す指標です。
インバウンド需要は大きな成長機会ですが、同時に為替変動や地政学リスク(国際関係の悪化、パンデミック等)に
左右されやすい脆弱性も持っています。
インバウンド比率が高すぎる旅館は、国際情勢の変化で急激に稼働が落ちるリスクがあります。
一方、ほぼゼロの旅館は、成長機会を逃している可能性があります。
自館にとっての適正比率を見極め、国内客とのバランスを取ることが重要です。
外部要因の把握
内部データだけでなく、外部要因も重要です。
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地域イベント:祭り、花火大会、スポーツイベントなど、地域への集客がある日
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競合動向:周辺旅館の価格設定、リニューアル、キャンペーン情報
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交通アクセス:高速道路の開通、鉄道ダイヤ改正、航空路線の変更
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経済指標:景気動向、為替(インバウンド需要への影響)
これらの情報を収集し、カレンダーなどに落とし込んで、予測の材料とします。
予測から行動へ:PDCAサイクルの確立
需要予測で最も重要なのは、予測したら必ず行動し、結果を検証する
というPDCAサイクルを回すことです。
Plan(予測):過去データと外部要因から、今後3ヶ月の需要を予測
Do(実行):予測に基づいて、価格設定、在庫配分、プロモーションを実施
Check(検証):実際の予約・稼働状況と予測を比較、差異を分析
Action(改善):差異の原因を特定し、次回の予測精度向上に活かす
このサイクルを毎月、あるいは毎週回すことで、予測精度は確実に向上します。
完璧な予測は不可能でも、「先月より今月、今月より来月」と精度を上げていくことは十分に可能です。
ここがポイントです。
在庫コントロール:何を、いつ、どう売るか
需要予測ができたら、次はそれに基づいた在庫コントロールです。
旅館の在庫コントロールは、単なる客室管理ではなく、複数の制約条件を考慮した高度な判断が求められます。
在庫配分の基本戦略
まず、販売チャネルごとの在庫配分を決めます。
繁忙期は、自社サイトに厚めに配分し、高単価プランを中心に販売。
OTAには最低限の在庫のみ配分し、早期に売り切ることを目指します。
平日・閑散期は、OTAにも積極的に配分し、プロモーションと組み合わせて稼働率の底上げを図ります。
ただし、安売りしすぎないよう、最低価格の設定は慎重に行います。
プランごとの販売タイミング
どのプランを、いつ販売するかも重要な戦略です。
早期予約プラン(60日前、90日前)は、繁忙期の予約を早期に確保するための武器です。
割引率は大きくても、確実な予約確保と、顧客の囲い込みができます。
直前割プランは、宿泊日の3〜7日前から出し、空室を埋めます。
ただし、常時出していると「待てば安くなる」という顧客心理を生むため、本当に埋まらない時だけの限定戦略とします。
スタンダード~ハイグレードプランは、通常期から継続的に販売し、旅館の「基準価格」を市場に示し続けます。
動的な在庫コントロール
予約の進捗状況を見ながら、在庫配分と価格を動的に調整します。
例えば、宿泊日の30日前時点で、目標稼働率の60%以上に達していれば、
残り40%弱の在庫は高単価プランを中心に販売します。
逆に30%しか埋まっていなければ、OTAへの配分を増やし、プロモーションを強化します。
目標稼働は100%でなくても大丈夫です。自社における目標稼働という意味です。
この「予約ペース」を見ながらアクションを変えるという柔軟性が、収益最大化の鍵になると考えます。
調理・人員のキャパシティとの連動
忘れてはならないのが、前回も触れた「夕食キャパシティ」との連動です。
調理部門の能力、配膳スタッフの人数を考慮し、1泊2食付きの販売上限を設定します。
それを超える予約は、朝食付きプランや素泊まりプランで受け入れる。
この在庫コントロールにより、客室稼働率と収益性、そしてサービス品質の三方良しを実現します。
口コミ評価(レビュー)の目標数値設定も、旅館RMにおける重要な部分です。
(別のテーマでお話したいと思います。)
データから学び、次に活かす
需要予測と在庫コントロールの実務で最も重要なのは、「データを記録し、学び続ける」ことです。
毎月、以下の振り返りを行います。
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今月の稼働率、ADR、RevPARは目標に対してどうだったか
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予測と実績の差異はどこで生じたか(曜日、チャネル、プラン別)
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うまくいった施策は何か、失敗した施策は何か
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次月以降、どう改善するか
この振り返りを積み重ねることで、自館独自の「需要パターン」が見えてきます。
これこそが、競合にはない、自館だけの財産となります。
旅館経営者への問いかけ
需要予測と在庫コントロールの精度を高めるために、経営者として以下の問いに答えられるでしょうか。
【需要予測について】
あなたの旅館の自社予約比率とインバウンド比率は、過去3年でどう推移していますか?
そして、それぞれの適正比率は何%だと考えますか?
この2つの比率のバランスが、今後の成長戦略とリスク管理の鍵を握ります。
【在庫コントロールについて】
繁忙期と閑散期で、OTAと自社サイトへの在庫配分をどう変えていますか?
そして、その配分を決める判断基準は明確になっていますか?
戦略的な在庫配分が、収益性を大きく左右します。
これらの問いに即答できないとしたら、
まだ需要予測と在庫コントロールの仕組みが確立できていない証拠かもしれません。
おわりに:予測とコントロールはRMの中核
需要予測と在庫コントロールは、決して「予約担当者だけの仕事」ではありません。
これは経営者層(※マネジメント層)が関与すべき、戦略的な意思決定です。
どのデータを見て、どう判断し、どうアクションするか。
そして結果をどう検証し、次に活かすか。
このサイクルを確立できた旅館は、確実に収益性を高めています。
次回は、システム・ツールの選定と内製化について解説します。
高額なRMSを導入すべきか、エクセルでも運用できるのか。
旅館の規模や体制に応じた、現実的なシステム選定の考え方について考えてみたいと思います。
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提供:株式会社ホテル結マネージメント
