はじめに
レベニューマネジメント(RMと略します)は、もはやホテル業界では常識となった経営手法です。
航空業界(米国のサウスウエスト航空)から発展したこの手法は、限られた客室という在庫を最適な価格で販売し、
収益を最大化するための科学的アプローチとして、多くのホテルで成果を上げてきました。
ホテルの宿泊関連の方はご存じの方も多いのではないでしょうか。
しかし、旅館やリゾートホテルにおいては、このホテル型RMをそのまま導入しても、
期待した成果が得られないケースが少なくありません。
それどころか、現場の混乱を招き、顧客満足度の低下を引き起こすこともあります。
なぜ、ホテルで実証済みの手法が、旅館では機能しないのか。
その答えは、ビジネスモデルの本質的な違いにあります。
こんにちは! ホテル結マネージメント代表の後田大輔です。
30代から10年間、全国の旅館・ホテルの事業再生の最前線で、
経営者やスタッフの皆さんと共に困難に向き合ってきました。
その経験を活かし、現在は業界で唯一、
旅館の事業承継を専門とするアドバイザーとして活動しています。
またレベニューマネジメントの専門家としても陰で活動しております。
しばらく事業承継に関するテーマで記事を書いていましたが、少しお休みして、
別のテーマ「(特に旅館やリゾートホテルの)レベニューマネジメントについて」お話していきたいと思います。
ホテルと旅館:収益構造の決定的な違い
ホテルのビジネスモデルは、極めてシンプルです。
収益の大半は客室販売から生まれ、朝食は別料金またはオプション、
その他のレストランやバーは独立採算として運営されることが一般的です。
つまり、客室という「箱」を効率的に販売することが、収益最大化の本質なのです。
一方、旅館のビジネスモデルは複合的です。
1泊2食付きがスタンダードであり、料理は単なる付帯サービスではなく、宿泊体験の中核を成す要素です。
客室料金には、部屋代だけでなく、食事の原価、調理スタッフの人件費、配膳サービスのコスト、
そして「おもてなし」という無形の価値が含まれています。
この違いは、数字にも明確に表れます。
ホテルの変動費率は約20〜30%程度(清掃費、リネン費、アメニティ費、OTA手数料など)ですが、
旅館は食材原価と労働集約的なサービスにより40〜50%、場合によってはそれ以上になります。
売上を伸ばしても、コストが連動して上昇する構造なのです。
さらに、旅館は「何名で泊まるか」によって収益性が大きく変動します。
4名定員の和室に2名で宿泊する場合と4名で宿泊する場合では、売上は2倍近くになりますが、
部屋の清掃コストや設備コストはほぼ変わりません。
一方で、4名分の料理提供や接客には相応のコストが発生します。
この「部屋売り」と「人数売り」の二重構造が、旅館の収益管理を複雑にしている大きな要因です。
稼働パターンと提供価値の違い
ホテル、特にビジネスホテルや都市型ホテルは、平日の稼働率が高く、週末は比較的空室が出やすい傾向があります。
現在は都市部ホテルも、インバウンド絶好調で週末、日曜日も稼働は高くなっていますが。
ですがビジネス需要がベースにあり、観光需要がそれを補完する構造です。
チェックインは夕方以降、チェックアウトは午前中が中心で、滞在時間は比較的短く、効率的な回転が可能です。
対照的に、旅館やリゾートホテルは週末・休前日に需要が集中し、平日の稼働が課題となります。
レジャー需要が中心であり、宿泊そのものが目的化しているため、滞在時間は長く、
顧客は「体験」に対して対価を支払っています。
この違いは、RMのアプローチに根本的な影響を与えます。
ホテル型RMは「いかに空室を埋めるか」「いかに高く売るか」という発想が基本ですが、
旅館では「誰に、どのような体験を、どの価格で提供するか」という顧客体験設計が重要なポイントになります。
ホテル型RMを導入した旅館の失敗パターン
私がこれまで見てきた中で、ホテル型RMをそのまま導入して失敗した旅館には、
いくつかの共通パターンがあります。
パターン1:価格変動の過度な細分化
需要に応じた細かな価格調整を行った結果、「先週泊まった時より高い」「友人が払った金額と違う」といったクレームが多発。
旅館の顧客は「特別な日の宿泊」であることが多く、価格に対する感度が高いことを見落としていた。
パターン2:稼働率至上主義
空室を埋めることを優先し、OTAで安価なプランを大量放出した結果、館内が満室になりすぎて
調理部門や配膳スタッフが対応しきれず、サービス品質が低下。
レビュー評価が下がり、長期的なブランド価値を毀損した。
パターン3:システム偏重
高額なRMSを導入したものの、旅館特有の制約条件(調理能力、配膳人員、部屋タイプと定員の複雑性)を反映できず、
システムが出す推奨価格が現実と乖離。
結局、現場の勘と経験に頼ることになり、投資が無駄になった。
これらの失敗は、旅館のビジネスモデルの本質を理解せず、
「ホテルで成功した手法」をそのまま持ち込んだことに起因しています。
旅館版RMの必要性:持続可能な経営のために
では、旅館にRMは不要なのか。
答えは明確に「No」です。
むしろ、労働集約型で変動費率の高い旅館こそ、
科学的な収益管理(RM)が必要です。
多くの旅館が直面している経営課題は深刻です。
人手不足による営業日の制限、原材料費の高騰、OTA手数料の負担増、そして若い世代の旅館離れ。
これらの課題に対応しながら収益を確保するには、
「何となく」ではなく、データに基づいた戦略的な意思決定が不可欠です。
旅館版RMの本質は、単なる価格操作ではありません。
限られた調理能力、接客人員、そして時間という制約の中で、
「どの顧客に、どのような価値を、どのように提供すれば、最も収益性が高く、かつ持続可能な経営ができるか」を
科学的に追求することでもあります。
例えば、同じ10室の旅館でも、客室稼働率70%でRevPAR(客室あたり売上)が3万円の経営と、
稼働率50%でRevPARが4万円の経営では、後者の方が利益率が高いケースがあります。
なぜなら、稼働率を上げすぎることで発生する人件費、食材ロス、サービス品質低下のコストを避けられるからです。
旅館版RMの可能性:差別化の新たな武器
旅館版RMを正しく構築できれば、それは競合との大きな差別化要因になります。
まず、データに基づく意思決定ができる組織になります。
「この料金で良いのか」「この時期にこのプランを出すべきか」といった判断が、経験と勘だけでなく、
過去データと市場動向に基づいて行えるようになります。
次に、顧客体験と収益の両立が可能になります。
闇雲に稼働率を上げるのではなく、適正な稼働水準を見極め、その中で最高の体験を提供することで、
顧客満足度とリピート率を高めながら収益を確保できます。
さらに、組織全体の生産性向上につながります。
予約・調理・配膳・清掃など、各部門が連携して収益目標を追求する文化が生まれ、属人的な経営から脱却できます。
おわりに:旅館版RMの構築に向けて
ホテル型RMが機能しないからといって、旅館が科学的な収益管理を諦める必要はありません。
必要なのは、旅館のビジネスモデルに適合したRM手法の再定義です。
次回以降、旅館・リゾートホテル特有の制約条件を踏まえた上で、
どのようにRMの基本設計を行うべきか、具体的に解説していきます。
30年の現場経験から見えてきた、旅館が本当に必要としているRMの形を、
皆さまと共有していきたいと思います。
旅館には旅館の、リゾートホテルにはリゾートホテルの、
最適なRMの形があるはずです。
それを一緒に探求していきましょう!!
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