こんにちは!
株式会社ホテル結マネージメントの後田です。
いつもブログを読んでいただき、ありがとうございます。
 

今回は、旅館(又はホテル)の現場で実際にある、

些細ながらも看過できない「ある一言」をきっかけに、

それが浮き彫りにする現代の旅館業界が抱える課題、

そして私たちが目指すべき改善の方向性について考えてみたいと思います。

 

 

【現場で起きた「がっかり」の瞬間】

 

ある旅館のフロントカウンターでのワンシーンを想像してみてください。

 

チェックアウトの手続きを終え、心地よい滞在の余韻に浸りながら帰路につこうとしているお客様。

その背中に、若いフロントスタッフが「お客様、お忘れ物はございませんか?」と声をかけました。

一見、旅館であるあるの丁寧な対応に思えるかもしれません。

 

しかし、想像してみてください。

 丸一日、あるいは数日間その宿で過ごし、名前で呼ばれ、様々なスタッフからおもてなしを受けてきたお客様が、

最後に「お客様」という、少し距離を感じる言葉をかけられた時の気持ちを。

 

まるで、親しくなった友人から急によそよそしくされたような、

一瞬で現実に引き戻されるような感覚。

それは、寂しさや、もしかしたら「その他大勢」として扱われたかのような、

小さな「がっかり」に繋がる可能性があります。

 

このお客様が、もしこの旅館を大変気に入ってくださっていたとしたら? 

もし、次回の利用を考えていたリピーターの方だったら? 

この最後の一言が、次回の予約をためらわせる、

あるいは「もう来なくてもいいかな」と思わせてしまう引き金になりかねません。

 

これは、決して大袈裟な話ではなく、実際に現場で起こり得る、

そして起こってしまった事例なのです。
 

 

【なぜ、この「一言」が出てしまうのか?】

もちろん、この言葉を発した若いスタッフに悪気はありません。

むしろ、マニュアル通り、あるいは基本的な接客用語として無意識に使ったのでしょう。

問題の根源は、個人の資質だけではありません。

  1. 指導・フィードバックの機会不足: 「お客様」ではなく、例えば「〇〇様」とお名前でお呼びすることの重要性を、日々の業務の中で繰り返し教える余裕が現場にない。

  2. チェック体制の不在: お客様の心理に寄り添った対応ができているか、客観的に確認し、改善を促す仕組みが社内に整っていない。

  3. 深刻な人手不足: 目の前の業務に追われ、一人ひとりのスタッフの細かな言動にまで気を配り、指導する時間的・精神的な余裕がない。

 

経営層が直接目にすることのない場所で、

このような「小さな損失」が日々積み重なっている可能性があるのです。

 

 

【デジタル化の影で失われつつあるもの】

さらに、昨今の深刻な人手不足を背景に、AIやデジタルツールの導入が急速に進んでいます。

業務効率化は喫緊の課題であり、これらの技術活用は不可欠です。

しかし、その一方で、私たちは大きな懸念を抱いています。

 

それは、
「自分で考えること」
「状況に応じて最適な判断をすること」
「相手の気持ちを想像すること」
といった、人間ならではの思考や感性が、効率化や標準化の流れの中で

おざなりになってしまうのではないか、ということです。

 

マニュアル通りに、システムが示す通りに業務をこなすことが優先され、

お客様一人ひとりの表情や状況、そして「その一言」が相手にどう響くかまで

想像力を働かせる機会が失われつつあるのではないでしょうか。

 

 

【私たちが目指すべき改善の方向性】

この問題を放置すれば、日本が誇る、旅館・ホテルの提供価値そのものが希薄化しかねません。

私たちは、この状況を深刻な問題として捉え、改善に努める必要があると考えます。

具体的には、以下のような取り組みが考えられます。

  1. 「なぜ?」を考える文化の醸成: マニュアル教育だけでなく、ロールプレイングや事例共有を通じて、「なぜその対応がお客様の心に響くのか/響かないのか」をスタッフ一人ひとりが深く考える機会を設ける。特に、お客様のお名前を積極的にお呼びすることの重要性を繰り返し伝える。

  2. 観察とフィードバックの仕組み化: 経験豊富なスタッフやマネージャーが、若手スタッフの接客を意識的に観察し、具体的なフィードバックを行う時間と仕組みを確保する(逆もしかり、若手がベテランをチェックするなど)。普段使っているお客様アンケートなどをさらにアップデート、有効活用し、多角的な視点を取り入れる。

  3. 心理的安全性のある環境: スタッフ同士が、お客様へのより良い対応について気軽に意見交換したり、互いに気づきを指摘し合えたりするような、風通しの良い職場環境を作る。

  4. テクノロジーの適切な活用: AIやデジタルツールは、あくまでスタッフがより人間らしい温かみのあるサービス、考える時間、お客様と向き合う時間に集中するための「補助」として位置づける。予約管理や単純作業は効率化し、その分「人」にしかできない価値提供に注力する。

  5. 経営層のコミットメント: 経営層自身がこの問題を重要課題として認識し、現場の状況を把握し、改善に向けた投資や環境整備を積極的に行う姿勢を示す。

 

 

【最後に】

人手不足やデジタル化の波は避けられません。

しかし、その中で「何を大切にし、何を自動化・標準化しないか」を見極める慧眼こそが、

これからの旅館・ホテル運営には不可欠だと痛感しています。

 

チェックアウト時の「お客様」という一言は、氷山の一角かもしれません。

しかし、その一言の背景にある課題に真摯に向き合い、改善を続けることこそが、

お客様との長期的な信頼関係を築き、旅館・ホテルの未来を明るく照らす道だと信じています。