2024年1月19日
神奈川県県立音楽堂
イアン・ボストリッジ(テノール) ジュリアス・ドレイク(ピアノ)
シューベルト「白鳥の歌」第1部(第1曲~第7曲)
ベートーヴェン「遥かなる恋人に寄す」
シューベルト「白鳥の歌」第2部(第8曲~第14曲)
自分は語学が圧倒的に苦手なので、歌曲のCDはあまり持たず、歌のリサイタルにも全くと言っていいほど行かない(*)のだが、oval217氏のブログ記事「『冬の旅』と『資本論』」に触発されて、ボストリッジのCD「冬の旅」を買っており(本は図書館で借りたのだが、3分の2までしか読めず)、期待して音楽堂に足を運んだ。
県重要文化財である築70年の県立音楽堂。「木のホール」というニックネームのとおり、内装全面木材のホール、客席数約1,000席で大きすぎもせず小さすぎずのキャパシティ、歌うのはベートーヴェンとシューベルトというわけで、昭和レトロを感じさせる温かい雰囲気。
ボストリッジの容姿、歌いぶりは、やはりoval217氏が「イアン・ボストリッジ演奏会」記事で書いているとおり。「詩の朗読のようでもあり、一人芝居のようでもあり、オペラティックでもあり…」とあるように、ささやく場面、語る場面と表現の幅がとても広かった。大きな音量で歌うところでも過度に声を張り上げることがないのが好ましかった。
「白鳥の歌」に挟まれた「遥かなる恋人に寄す」は初めて聴く曲であり、ベートーヴェンには様々な曲があることは承知しつつも、まだこんなに優しいな曲があったのかと知らされた。ボストリッジの歌唱は、一連の短編小説をナイーブな青年が語るという風で、自分としては、この日、この曲が最も印象に残った。
「遥かなる…」の後、「白鳥の歌」後半。前半にも増して表現が冴えわたっているように感じた。身の毛もよだつような「ドッペルゲンガー」の後で「鳩の便り」にほっこりさせられ、泣きはしなかったけど、何かこみあげてくるものがあった。
拍手は鳴りやまず、席を立つ客はほとんどいなかったが、これは、アンコールをせがむというよりは、「いつまでもこの場にいたい」という気持ちの表れのように感じた。
アンコールは3曲。「夕映えの中で」の最後の長い静寂は心に沁みた。
ピアノのドレイクは堅実な演奏で、後ろに引っ込みすぎるでも前に出すぎるでもなく、ボストリッジとの相性が良いものと感じた。楽譜をめくりながら「アンコール、やるよ?!」というような表情で会場を和やかに笑わせてくれた。
終演後、列に並んでボストリッジに「冬の旅」のCDジャケットにサインもらった!(ドレイクには当日パンフに)
NHKのカメラが入っていたから、後日放映されるのかな。
(*)記憶にある限りでは、歌のリサイタルは、1986年のヴィクトリア・デ・ロス・アンヘレスの藤沢公演以来。当時、彼女の偉大さを全く知らずに、チケットを渡されたから行ったというもの。でも、当日は感激してしまい、後日、東京公演のCDを買ったものだった。