妻は、夫との間に3人の子どもを設けましたが、夫から暴力を受けたこと、夫が不貞行為をしたことなどから離婚を決意しました。

 

妻としては、3人の子どもを連れて家を出たかったのですが、医師より、妻は心因によって起こる病的状態であることから2カ月程度の療養が必要との診断を受けたため、やむを得ず子どもたちを夫の下に残し、単身で家を出て別居生活を始めました。

 

1か月後、夫が、自らを親権者とする協議離婚の届出をしたため、妻は離婚無効確認の調停・訴訟を提起、さらに半年後には、妻が子の引き渡しの審判を申立て、その1年後には妻が審判前の保全処分として子の引き渡しの申立てをしました。

 

原審は、子どもたちが妻の下での生活を希望していること、父の暴力や不貞行為に関する言動が子どもたちに悪い影響を与えることなどから、子どもたちを妻のもとに引き渡すことが緊急の要請であるといえるとして、夫に対し引き渡しを命じました。

 

しかし、その後の抗告審では、子の引き渡しを求める審判前の保全処分の場合は、子の福祉が害されているため、早急にその状態を解消する必要があるときや、本案の審判を待っていては、仮に本案で子の引き渡しを命じる審判がなされてもその目的を達することができないような場合に保全の必要性があるといえ、具体的には、子に対する虐待、放任等が現になされている場合、子が相手方の監護が原因で発達遅滞や情緒不安を起こしている場合などが該当するものと解される。子どもたちは、現在、夫の下で一応安定した生活を送っていることが認められ、上記保全の必要性を肯定すべき切迫した事情を認めるに足りる疎明はないとして、原審を取り消し、保全処分の申立てを却下しました。

 

抗告審では、家事審判規則第五十二条の二 「子の監護者の指定その他の子の監護に関する審判の申立てがあつた場合において、強制執行を保全し、又は事件の関係人の急迫の危険を防止するため必要があるときは、家庭裁判所は、当該審判の申立人の申立てにより、仮差押え、仮処分その他の必要な保全処分を命ずることができる。」という要件を厳しく解釈し、子の引き渡しを認めませんでしたが、このような解釈がなされれば、ある日突然子の連れ去りが行われても、その後安定した生活を送っていることが認められ、上記保全の必要性を肯定すべき切迫した事情が認められなければ子の引き渡しが認められない、ということになり、結果的に子を連れ去るという行いを認めることになってしまうのではないでしょうか。

 

子どもの意思を無視して、一方の親が子を渡さない、もしくは、子を連れ去るという行いは、子どもにどのような影響を与えてしまうのか、冷静に考えて頂きたいと思います。