結婚当初から口論が絶えない夫婦が、再び口論となり、その際、妻が夫に包丁を投げ付け、対する夫が妻に暴力を振るい怪我をさせたことから、夫婦は別居に至りました。

 

別居してまもなく、夫婦間の子ども2人(長女、長男)は夫と生活することとなり、夫は、夫の両親の協力を得ながら2人の子育てをしました。 

 

しかし、妻は、そのことに納得しておらず、離婚、子どもらの連れ戻しについて、弁護士、カウンセリングに相談し、子どもらが学校にいる間に連れ出す(連れ戻す)という計画を立てて、カウンセリングの協力を得ながらその計画を実行しました。

 

妻が子ども2人と生活を始めて約2カ月後、長女が、夫に家に帰りたい旨の電話をしたことから、今度は、夫が子ども2人を連れ去り、従前の生活に戻ることとなりました。

 

その後、夫が、子どもの連れ去りに協力したカウンセリングに対し、損害賠償請求を行った裁判において、名古屋地方裁判所は以下の通り判示し、妻の取った行動を違法なものと判断しました。

 

「妻は、長女及び長男の母親として両名に対する親権を有してはいるが、子の引渡しの手段としては本来家事審判等の法的手段によるべきであり、実力行使による子の奪取は、その子が現在過酷な状況に置かれており、法律に定める手続を待っていては子の福祉の見地から許容できない事態が予測されるといった緊急やむを得ない事情のある場合を除いて許されないというべきである。・・・・・・・・・・・・・・・

夫が子どもである長女や長男に対して暴力を振るった形跡はなく、妻との別居後においても、子どもらは、夫の下で従前と同様の小学校、保育園にそれぞれ通学、通園しておおむね安定した生活を送っていたものであり、このことは従前から通っている小学校や、夫の下での生活に強い親和性を示す長女作成の書面からも充分窺うことができる。そうすると、妻自身においては夫の暴力を恐れて身を隠すという事情があったとしても、子どもらについては、小学校や保育園から実力で奪取してまで夫の下から取り戻さなければその福祉を害するといった緊急やむを得ない事情があったとは言い難く、妻が、法的な手段によらずに、子どもらを白昼小学校や保育園から強引に連れ去った行為は、社会通念上許容される限度を超えた違法なものというべきである。」

 

この事例で特に注目すべきことは、夫の妻に対する暴力的言動があり、いわゆるドメスティックバイオレンスの問題が背景にあるとしても、これはあくまで夫婦間の問題であり、妻が夫と別居した後、子どもらが夫の下で安定した生活を送っていたことからすれば、このことが妻の実力による子どもらの奪取を正当化する事情になるとはいえないとし、夫婦間のドメスティックバイオレンスの問題と親子の問題を完全に切り離して考えている点です。

 

夫が妻に対し暴力を振るった事実から、子どもに対しても暴力を振るう危険性があると考えられる場合は予防的対応をとることもあるでしょうが、今回の事例については、これまで子どもに対して暴力を振るった形跡がなく、子供が通う学校や、子ども自身が書いた書面などから、そのような対応は必要がないということになったのでしょう。