『ただいま~!』

部屋は飾りはあるが静まり返っている。

ん??あれ?…また寝ちゃった?まさか…

『うわっ!』

布団を捲るとマユの大事にしているぬいぐるみが。

『ん?タヌ吉かぁ~』

猫には、にゃんこ。鳥には、ぴーこ。狸には、タヌ吉と名付けてしまうセンスのなさ。

タヌ吉を抱っこした途端

『また引っかかった~!ニャハハハ』

後ろからヒロキが抱きついてきた。

『も~マユさんをギュッてしたかったのに~なんでタヌ吉もセットで抱きしめなきゃいけないんだよ~!にしても…何度も同じ手で引っかかるの逆にすげ~』

『ただいま~ヒロくん!会いたかったよ~
足が疲れたからソファー行こ』

振り向いて微笑んだ。

腰をかけると彼が

『ね~マユさん!なんで俺、タヌ吉、マユさんなんですか~せっかくのクリスマスなのに。タヌ吉コラッ!』

ヒロキはタヌ吉をベッドにポイ。

『あ~!私の大事なタヌ吉に何するの~も~!』

『大丈夫ですよ~ベッドで先に寝ました。タヌ吉は…』

『寝てるってゆ~か倒れてるし…』

『はい、マユさんグラス持って!マユさんは飲めないからこの小学生用のノンアルシャンパン』

彼が注いでくれた。

『ありがとう!なんか美味しそうな香り~』

『恐らくただのサイダーですけどね~その喜んでる香り…』

『ヒロくんも注いであげる~』

『俺は先に飲んで待ってたからこの続きのチューハイで大丈夫。では~メリークリスマス!かんぱ~い!』

『かんぱ~い!』

冷蔵庫からケーキを出すとマユが切り分けた。甘党のフタリはワンホール。

『ねぇ、としくんはまだ??』

『あぁ…アイツは先に帰りました。気を遣って…フタリがエッチするからって』

ゴホゴホッ…

『も~炭酸へんなとこ入った~!ホントに言ったの~??ちょっと言いそうだけど』

『ウソです。今回は言ってません!ウソついてました~アハハハ。でもエッチしますよ』

『ねぇ~うちの店のケーキ美味しいね~!てか惣菜部関係なくない?わりと何でもあるよね~和菓子も洋菓子も普段から』

『確かに…』

『今日はねぇ~たっくんがチーフから言われて永遠ローストビーフを箱から出しシール貼り店内に陳列までしてたよ~!1人で働き過ぎ~しかも20箱位積んでて…まさか…て思ってたら、やっぱり1人でぜ~んぶやってた!ホントは昼の仕事じゃん。たっくんがやることないのにさ~もう彼居ないとうちの部署潰れるよね!』

『終わりました?拓実の話』

『ん?まだだよ』

『も~拓実の話、長すぎ~!なんで、まだとか言っちゃうかな~社交辞令覚えてください!て言いましたよね~何度も』

『うん。言った。私ね、無駄なことは省く主義なの~アハハハ』

『また~笑ってごまかす~』

『あ、そうだ…ヒロくんに話したいことある…』

『俺も。俺から話してもイイ?』

『うん』

彼はチューハイを飲み干した。

『コレをトシが俺に…マユさん、気づいてあげれなくて…ごめん。いつも明るくて元気いっぱいに見えて…だから辛いの気づかなくて。ごめん…』

『え?辛くないよ??私は。バイトも痛み止め飲んでから入ってるし、薬が切れると痛いくらいで。けどバイト終わったら疲れて寝ちゃうから大丈夫。起きたらまたバイトの繰り返し』

『マユさんがうちの中で一番強い。トシヤも言ってましたよ。これからは隠し事はナシにしませんか?』

『うん。わかった。内緒にしててごめんね』

『じゃ、タヌ吉と場所交換しましょ』

ヒロキは立ち上がりベッドのタヌ吉を持ちソファーに座らせた。

そして座っているマユをお姫様抱っこでベッドに。優しく包み込み笑みを浮かべた。

『大晦日、バイト終わったら車でそのまま初詣行こう』

髪を撫でながら耳元で囁いた。

返事をしようとした唇に温もりを感じ目を閉じた。

ヒロキの温もりを感じながら
マユも彼の髪を撫でた。

このままずっと下弦の月が傾くまで…

彼は温もりを感じながらも
拓実の存在が頭から離れなかった。

いよいよラスト繁忙期。
大晦日。

お正月用のおせちや和菓子も盛りだくさん。こんなに仕入れて売り捌けるかは本日チーフから選ばれた遅番の腕の見せ所。

『ヒロくん、厨房よろしくね~!私は店内たっくんと見てくるね~』

『はい、はい…』

なんで俺が中なんだよ~ラストぐらいマユさんと仕事したかったなぁ~。トホホ…

てか、マユさんと拓実の後ろ姿、似合いすぎてへこむな…現実は俺が彼氏なのに。店内の客も勘違いしてるよな~仲良く仕事してるし。羨ましすぎる…

『ねぇねぇ、たっくん。この和菓子売れるかな?遅い時間はムリじゃない?ご年配のいらっしゃる時間に売りたいよね~』

『うぐいすもちは人気ないかも?だけど…草餅は若い兄ちゃんも買ってましたよ~』

『へぇ~わりと食べるんだ!私も草餅は食べれる~てかお腹空いた。年末、閉店時間一時間延長だからさぁ~喉も渇いて大変だよね。それにしても…人足りないからって朝から駆り出されて。仕事できるのも考えものだね…』

『今まで夏休みも連休なんて、ほぼほぼなかったから大丈夫です』

『スゴいよね~感心。けどたまには断ることを覚えた方がイイよ~私はチーフに頼まれてもムリだと、ムリです!て言っちゃうし。バイトの身分で…アハ。けど、チーフは交換条件出してくるけどね~さすがチーフ。で結局、その条件ならやります!てね~ズル賢いから私。たっくんみたいに誠実に生きれたらいいなぁ~憧れる』

『そんなことないですよ~』

『いつも謙遜するよね。能ある鷹は爪を隠す!だからね~バイト、大学、テスト、夏休みは後輩野球部の試合応援…全部、完璧にこなすのに焦りを全く感じない。だから一緒に仕事してると落ち着くのかな?私、な~んも考えずにただ、たっくんに着いて店内徘徊してるだけだし…アハハハ』

『徘徊って…ハハハ…』

フタリは商品陳列やチェックをし厨房に戻った。

『ただいま~ヒロくん!』

マユが肩をポンポン叩く。

『相変わらず…こんなめちゃめちゃ忙しいのにハイテンションで羨ましいっす…』

『だって楽しいもん!ねぇ~たっくん』

『え、え??あ、あ~僕は何て言ったらいいかわかりませんけど…』

『ほ~らハイテンションマユさんだけ~大晦日に働くことなんて今までないし俺は』

中で仕事を3人でしていると拓実だけチーフに呼ばれた。カートに段ボールいっぱいにしガラガラ運んで来た。入り口で片っ端から箱から出し1人で凄い早さで作業。

感心しながらマユがチラッと見るとヒロキが声をかける。

『できる男ってい~なぁ~!憧れちゃう~て思ってるでしょ??いや絶対思ったマユさん』

『うん。え!スゴい~わかるんだ~ヒロくん』

『感動されるなんてまたまたいつもの想定外ぶっこんできましたね~も~!!つ~か俺は初詣楽しみに仕事がんばろ!よしいける!』

『あ、そこの彼女!ライスロボに米足しといて!満タンでよろしく!』

『は~い!』

マユが下の置き場を見ると空っぽ。ん??廊下からストック持参しなきゃ。早番が間に合わなかったよね~人手不足だから仕方ない。

入り口で荷物に囲まれ作業してる拓実の隣を通る。

『ごめんね~』

『適当にカート退かしちゃってください』

探しているとパソコン横に着いたばかりの米の袋が。包み1つで30キロある。

『あ、僕がやりますよ!』

『大丈夫。前も1人の日にやったし』

『いや俺やりますよ』

拓実は自分の作業の手を止め、マユの重い米の包みを軽く運んだ。親切で気が利くので一番近い場所に置いた。しかもハサミで開けようとすると、よくバイトが失敗し袋に穴を開け米が流れ出るが…そうならないように彼は丁寧に手でガムテープをキレイに剥がした。その上、マユが仕事しやすいように台の上にキレイに6袋並べ、ゴミの紙袋も丸めて捨ててくれた。

ここまで気づく人なかなかいない。自分も見習わなくてはと思った。ヒロキは横目でまたフタリを見つめ、自分が居てもいなくても良いような気がして…寂しく感じた。

『たっくん…ありがとう』

いつも私のために作業手伝ってくれて…
自分の方が5倍は忙しいのに…と思っていた。