eggmanフリーペーパー、1月号

テーマ:
1月16日
『晴れの特異日』
晴れる確率の限りなく高い日。


「さっきのって、気持ちの事を言ってるの?」
なんと無しに言われた言葉にハテナという様に首を傾げる。傾げた首の僕が前にするのは斜めになった彼女、なんとなしに見ていると、言葉の意味を理解する。
「つまり気持ちのこと?」
繰り返し尋ねる彼女を真っ直ぐにして、ボソボソと口にする。
「違うよ、そのままの意味、空。」
ああ、うん、そうか空、と彼女。手元のコーヒーはすっかり冷めており、酸味が強くなったそれを僕は持て余していた。ゆっくりと揺らしてみたらなんだか毒の様に見えた。
別れを切り出されたのはおおよそ10分前、別れたくないと言ってみたものの、決めたの、の一言で一蹴されてしまい沈黙。会話を繋ぐ事が、二人の関係をもっとも悪い結果で終わらせない為の必須条件だと、漠然と脳味噌が回転し、不意に口を動かしたのが本日1月16日が『晴れの特異日』だという事実。ただ、それをそれとして知っていただけであり、『晴れの特異日』という事以外には何も知らなかったのだが、こぼれる様にそれが出た。
「天気についてなんだけど。」
しばらく経って、彼女は、言った。
「なんだか違う気がしてるのよね。雨が降るから気持ちが暗いんじゃなくて、気持ちが暗いから雨が降るんじゃないのかしら。」
彼女は斜めになる。
「だからね、順番が違うと思うのよ。元気な人がたくさんいる日は晴れるの、元気じゃない人がたくさんの時は雨が降るのよ。曇りは、ほら、わかるでしょ。」
言いたい事が汲み取れるか否か、それよりも彼女が何故この話を今するのかがわからなかった。
「この話は」
何?と尋ねる前に言葉が重なる。
「でもやっぱり多数決って、平等じゃない気がしない?個人を無視してる感じ。さっきは元気な人の数がって言ったけれど、やっぱり気持ちの量なのかもね。元気な人が注ぎ込めるコップと、元気じゃない人が注ぎ込めるコップがあるのかしらね。その割合。」
「ああ、うん。」
「だから晴れの特異日って言ったっけね今日は。だから毎年この日はなんとなく元気な人が多い日なのか、スペシャルな記念日かなんかでとっても元気な人がいるのか、はたまたその両方かって事だと思うの。そうね、だからコップになみなみ。」
淡々と述べる話に僕は一回頷いた以外、黙ってそれを聞いていた。
「晴れているのよ、今。」
一呼吸おいて言った彼女の言葉は、それ自体をしっかり確かめている様だった。
「うん、雲すら見えないね。」
「別れたくないのは何故?」
彼女はじっとこちらを見る。何かを測るかの様であり、全てひっくり返す様な大きな何かを待っているかの様でもあった。
「君のことが好きだからだよ。君が隣に居ないっていうのはやっぱり悲しい。」
気を衒った何かが脳裏をよぎる気配は皆無、ただ正直をそのまま音にした。
「悲しいんだ?」
「うん、悲しいよ。」
彼女は窓の外に目をやり、とても短いため息をつく。
「でも覆らないじゃないの、待っていても。特異日だかなんだかは知らないけど。足りてないのよ、そっちのコップ。」
「この話は」
何?と尋ねる前に言葉が重なる。
「晴れているのよ、今。」
彼女は斜めのままである。
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