闇金融(ヤミ金)の収益を隠匿したとして組織犯罪処罰法違反の罪に問われた者への控訴審判決が東京高等裁判所であった。

 

この判決で注目すべきことは、組織犯罪処罰法により没収・追徴で禁止される「犯罪被害財産」についてである。

 

まず、組織犯罪処罰法は、組織的な犯罪に対する処罰を強化し、犯罪による収益等を規制することなどにより、不正な利得の獲得等を防止するなどの趣旨・目的で立法されたものであり、

 

その目的達成のため、犯罪による収益等を犯人の手から的確に剥奪する趣旨から、没収の対象となる財産の範囲を刑法の定める有体物から金銭債権に拡大するなどする一方で、13条2項、16条1項ただし書において、「犯罪被害財産」の没収・追徴を禁止しているが、

 

「この没収・追徴禁止の趣旨は、犯罪の被害者保護の観点から、被害者が犯人に対して損害賠償請求権等の私法上の権利を行使する場合に、犯罪収益等の財産がその引当てになる可能性に配慮したことによるものと解される。」とした。

 

この「犯罪被害財産」とは、13条2項に掲げる罪の「犯罪行為によりその被害を受けた者から得た財産または当該財産の保有若しくは処分に基づき得た財産」をいい、文理上は特段の限定を付していないが、

 

これを文字どおりに解すると、犯罪の被害者が存在し、抽象的にしろ損害賠償請求権等を行使する可能性があるということだけで没収・追徴が禁止されることになり、

 

その反面、13条1項、16条1項本文によって没収・追徴が可能となるのは、せいぜい被害者が損害賠償請求等の権利を放棄している場合や、

 

犯人が別の財産をもって既に被害者に対して被害弁償を済ませた場合など、極めて限られることにならざるを得ない。

 

このような解釈は、被害者の保護に役立たない上、かえって犯罪による利得が犯人から剥奪されずにその手元に残されるという甚だ不合理な結果を招来することになり、

 

犯罪収益等は原則的に没収・追徴できるとした同法の立法趣旨にそぐわないのみならず、被害者の財産的な被害の回復を図るために例外的に没収・追徴を禁止した趣旨にも資さないことになるのであるから、

 

損害賠償請求権等が現実に行使される可能性がないような場合にまで没収・追徴が許されないと解するのは相当ではない。

 

したがって、「当該財産に対して被害者が私法上の権利を現実に行使する可能性がないような場合には、その財産は、13条2項、16条1項ただし書により没収・追徴が禁止された『犯罪被害財産』にあたらないと解するのが相当である。」とした。

 

そして、大規模な組織犯罪においては、個々の被害者及び犯罪行為が具体的に特定されるのは全体のうちごく一部であり、

 

ほとんどは判明せず、かつ、損害賠償請求権等の私法上の権利を行使する者も被害者のうちのごく一部であるという現実を踏まえるとともに、

 

没収・追徴の可否や当否を判断するのは当該裁判所において外にないこと、13条2項、16条1項ただし書による没収・追徴の禁止についての認定・判断の誤りはごくわずかでも直ちに違法の問題を招来することからして、「犯罪被害財産」であるか否かは一義的に明確であることが要請されるなどに照らすと、

 

13条2項、16条1項ただし書にいう没収・追徴が禁止される「犯罪被害財産」とは、「『刑事手続上、訴因として当該財産に係る犯罪行為及び被害者が特定されるもの』をいい(当該裁判所に公訴提起がされたか否かを問わない。)」、

 

それ以外は、「犯罪被害財産」にはあたらず、原則どおり、13条1項、16条1項本文により裁判所の合理的な裁量によって没収・追徴の当否及びその範囲を定めるのが、

 

犯人からの犯罪による収益等の剥奪と被害者の財産的保護という2つの側面を有する立法趣旨及び目的を達成するための最も合理的かつ妥当な解釈というべきである。

 

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