妻が帰った後で、歩行訓練をすることになった。

ベッドから降りて歩き始めたが、昨日のような眩暈は起きない。
小股でおぼつかないが、歩くことは歩ける。
看護師さんに指示されるまま廊下を歩いていたら、このまま病室に戻ろうという話になった。
転ばないように慎重に歩いていくと無事病室にたどり着いた。2日ぶりの病室だが、すごく懐かしい。

病室に戻ってもやることは同じ。
ベッドの背を立てて、これにもたれかけたまま、回復を待つだけ。
ただ、自分のベッドに戻ってきたので、荷物を触ることができるようになった。

看護師さんにスマホと腕時計を出してもらう。
家族と連絡を取りたかったので、スマホはもちろんすぐに触りたかったが、腕時計も欲しかった。
病室の壁には基本的に時計がないので腕時計は結構大切だと思う。

看護師さんにスマホを渡して貰ったが、意外に重たくてびっくりする。
普段持ち慣れてるから気が付かなかったが、こんなにズッシリした物体だったんだと再認識する。
恐らく、手術後に持った荷物の中では一番重たいものだったのだろう。

早速、妻からのLINEを見る。
小学生のこどもが学校の俳句のコンクールで選ばれたそうだ。
この3日間の痛みだけのモノクロの日々にパッと彩りが加わったような気がする。

自分からは、ドレーンを抜いて貰ったので、体が楽になったことを伝えた。
妻からは、手術の後で執刀医が妻に言っていたことについて細かく教えてもらう。(「しぼうがたくさんあった」件である)

妻とLINEでやりとりをしていると、咳が出そうになる。
咳をすると胸が痛いのでなるべく咳をしないように抑えていたが、そのことを妻に伝えると、咳は抑えないで、きちんと痰を吐くようにしないといけないと怒られる。
痰をきちんと出さないと、痰が肺に入って肺炎になるそうだ。
何回か小さく軽く咳をして痰が上がってきたところで、コホンと咳をして痰を出すというのが、咳をすると痛い時のやり方らしい。
横になって呼吸をして痰を出す方法もネットで調べたので、合わせ技で痰を出す。

あとで看護師さんに痰の出し方を聞いたら妻と同じやり方を教えてくれたので、正しいやり方のようだ。

さて、妻と一通りやり取りしたら、やることがない。
テレビを見る気も起きない。スマホをいじるのも億劫だ。というわけで、ラジオを聞くことにする。

食事の時以外は基本的にラジオを聴いて過ごす。時々メールを片付ける。
手術から病室に戻ってくる間にだいぶ仕事のメールが溜まってしまったので、必要なものには返事を送る。

お昼ご飯は嬉しいことに全部食べ切ることが出来た。
食べられる量が増えると体が回復している実感が湧く。
食べたら休む。体を起こしたまま。ラジオを聴きながら目を瞑る。

午後の3時ごろに咳をしたあたりから、左胸が痛み始めた。
胸の中で何かが当たっているような痛みだ。
これは恐らく右胸の時と同じドレーンの痛みだろうと想像する。
なんとなく痛みの原因が分かると安心する。

大きく息を吸ったり、咳をすると痛むので、相変わらず可能な限り安静にしようと努める。
とはいえ、右のドレーンが抜けて体が動かせるようになったので、リハビリがてら歩く必要もあるので、病棟の廊下を歩いてみることにする。

息はなるべく浅く、転ばないように注意して、ドレーンの吸引機を引きながら、小股で慎重に歩く。
1往復で、恐らく50メートルくらいか。結構息が苦しい。
筋肉は動くがこの程度で息が苦しいのに驚く。
ドレーンがまだ一本胸に入っていることと、肺が膨らみ切ってないためだろうか。
廊下の端から富士山が見えるので、富士山を見ながら息を整える。

呼吸は苦しいが、早くスタスタ歩けるようになりたいので、もう少し歩く。
結局併せて3往復くらい歩けた。
この程度でもかなり疲れて、ベッドに戻って寄りかかる。

またラジオを聴きながら時間が過ぎるのを待つ。
最近は時間がある時はスマホを見て、ラジオを聴く機会もなかったので、結構新鮮だ。
考えたり、リアクションをすることもなく、おしゃべりや音楽を聞き流すのは、体に楽だなと思う。

夕方に先生が診察に来て、もしかしたら明日残りのドレーンが取れるかもしれないと言う。
めちゃくちゃ嬉しい。早くこの痛みとお別れしたい。

背中の硬膜外麻酔は薬がなくなってしまったため、お昼くらいから痛み止めの効果がなくなったようだ。
右脇腹の切開をした傷の痛みが増してきた気がする。
左胸の痛みは相変わらず増している。

夕食は左胸の痛みのせいで、なかなか食べる気にならない。
お昼ご飯の時はすんなり食べられたが、痛みがあると食は進まない。
おかずをだいぶ残して夕飯は終了。

このままだと夜が寝れない気がしたため、看護師さんに痛み止めの薬をもらえないか頼む。
すると、睡眠薬を点滴してくれるということで、安心する。

9時過ぎから点滴が始まり、30分くらいで終わる。
点滴後、ラジオを聴いていると、10時過ぎくらいに眠たくなってきた。
胸は痛むが、これなら寝れそうだと、目を瞑って眠りに備える。
スッと、眠ることができた。