Again to sky 最終回
ジェニファーと健の結婚披露宴が終了し 会場に来ていた全員は健の工場の正面に集まっていた。
「ポンプ作動!」
健は準備していた紅白のリボンが付いた箱のスイッチを押すと集まった全員は大きな拍手をする。
ジェニファーの船尾機関部カバーを一部開けた給油口から健が精製した再生航空燃料が送り込まれる。 給油が終わるころ健は婚礼衣装を脱いでパイロットスーツに着替え終わっていた。
<出発前の最終点検 またしないとね。> ジェニファーはその頃、自分の機体点検を念入りにしていた。
<スラスターノズル・・・大丈夫よね。 あと、ギア・・・あれ?>
ふと気づくと いつの間にか彼女のランディングギア(着陸脚)に空き缶が何個か紐で結ばれているのに気づく。
「誰よ?こんなもの結んだの!」 ジェニファーはしゃがんで紐を引っ張った。
「外れないし・・・李李のいたずらかしら?」
<ライゼルよ、私見てたから。 これ、トウモロコシの空き缶ね!・・・外さないほうがいいよ。 旧人類では結婚の幸せのおまじないだって。>
ジュリアはジェニファーをエアロックに押し込んだ。
<さあ早く乗った乗った。>
「それでは行ってきます!」 健は用意されたブーケを投げずにサファイアに手渡した。
「市長、今度はあなたの番です。」
「タチの悪い冗談はおよしなさい。 でもブーケは遠慮無く頂きます・・・健、旅先でジェニファーをよろしくお願い致しますよ。」
「はい、任せて下さい。じゃあ!」
健はエアロックに走るとエアロックハンガーのステップから手を振った。
「ちょっと!家の戸締まりと火の始末・・・ねえ健、すぐに出られないよ。 李李の旅行の支度もあるし!」
<私が李李とお留守番よ。 旅行は二人で行ってきて!ニワトリさんのお世話とカレナの温室の水やりとかも有るでしょ。>
ジュリアは李李を肩車してエアロックハンガーに近づく。
<それに子連れハネムーンなんておかしいよ。>
<だめよ、李李も一緒に行かなくちゃ! 家族で思い出の旅行なんだから。>
<サファイアの命令なの。 健にも話してあるって。 5日間、李李は私とサファイアのお部屋でお泊りよ。>
「ねえ、李李。 私とお風呂も一緒だからね。」
ジュリアはジェニファーに近づくと耳元で囁いた。
<私、先週ガルバと別れたのよ。 もう自由なの!>
<本当に? おめでとう! よかったジュリア!>
ジェニファーは親指を立ててグッドサインをする。
<でもよくガルバが手放してくれたね。 ジュリアは金づるだったのに。>
<サファイアが交渉してくれたの。 ガルバはサファイアから相当借金してたから抵当だった私はもうサファイアの管理下なの。>
<そっかあ、抵当権かあ・・・サファイアってタヌキだから。>
<タヌキって・・・あのタヌキ? ぽんぽこする過去の地球に居たって言うお腹に太鼓がついていた動物のこと?>
<うん、策略家のことをそう言うんだって。 私は現物は見たことあるけどお腹にドラムとかついてなかったなあ。>
<アハハ ガルバのお腹がそんなイメージかもね> ジュリアは笑う。
<聞こえましたよ・・・でも否定はしません。>
ジュリアとジェニファーの間にサファイアが近づく
<私を最初にタヌキと言ったのはタカですね。>
サファイアはジェニファーのハイテールのリボンを締め直した。
<さあ、 健と二人だけで新婚旅行に行って来なさい。 今日は燃料を気にせずに思い切りメインエンジンで飛べますよ。 それに万一途中でエンコしたらジュリアがすぐに助けに行きますから!>
<いえ、 最高級の技術者が同乗していますから心配は要りません!>
ジェニファーは真剣な表情で銀河連邦軍式の敬礼をする。
<そうでしたね。> サファイアは微笑んだ。
<これはとんだ失礼をしました。>
皆が手を振る中、ジェニファーはエアロックを閉じる。
「メインエンジン・ブースター加圧完了しました。」
間もなくジェニファーのメインエンジンスラスターは青白い炎を上げる。
「加圧異常なし。 温度及び燃焼コンディション正常!・・・エアロック閉鎖確認。 船内与圧標準設定、 人工重力及び加速シールドオン! テイクオフ準備完了、 離床開始します。」
コクピットに座るジェニファーの後ろから建が顔をのぞかせてキスをする。
「ジェニ、僕が死ぬまでよろしく!」
「うん。 健が先に死んだら私、次の人見つけちゃうよ!・・・だから私より長生きするって約束して。」
あと200歳以上はちょっと無理だけどなあ・・・でもそのつもりで頑張るさ。」
「全速推進します!」
空き缶を吊るしたまま工場の屋根の高さまで上昇したジェニファーのメインエンジンから大きな炎が吹き出す。
「健、どこまで行く?」
「君の行きたいところまで。」
「じゃあ、月まで行ってみようか?・・・でも景色はつまらないけどね。」
「景色のいい思い出の場所がいいね。 君が綺麗だったと感じた場所は何処がお奨め?」
「じゃあ、日本列島上空の静止軌道から地球を見ようよ。 タカと舞もその景色が大好きだったの。
それに今日は天気がいいから日本列島が良く見えると思うの。」
「ヤンの好きだった地球を外から一度見てみたいんだ。 コースを設定してくれるかい?」
「うん、任せて! 軌道計算するから。」
李李を含む全員が手を振り見送る中ジェニファーは最大加速で大空に再び飛び立つ。
燃焼エンジンから出たシュプールは大空に線となってゆっくり流れてゆく中、カナルの放った信号弾の花火は会場をしばらく包んでいた。
「飛行状態順調・・・ランディングギア格納します。 エルロン収・・・アレ?・・・ああっ、いけないっ ギアに空き缶付いてたんだァ!」
「与圧区域外だから大丈夫だよ・・・その前に風圧ですぐに外れるさ。」
「悲しいわよ! 結婚記念に空き缶をとっておきたかったのに。」
空き缶を落としながらジェニファーの機体は再び大空に高速で舞い上がる。 スラスターから出る美しく白いシュプールはどこまでも続いていた。
<タカ!・・・いつまでも私を見守って。
私がそこに行くその時まで・・・
でも、もう少しだけ待っててね・・・私、約束は守ったからね!>
「 again to sky!
今、高度12500グラルを越えました! 」
ジェニファーは大きく叫ぶ。
西暦2278年6月22日、サファイアが地球に帰還後、新興人類が初めて成層圏を越えて飛んだ最初の日となる。
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■ サファイアプロジェクト 完 ■
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Project of Sapphire Season3/section of 49-3 ”Again to sky” /1986
Edit-Ver1.12
copyright by g-horibata 1969/1973/1974/1975/1976/1986
もし最後までお読みいただけたのであるなら奇跡と思うのです。
私の小-中学生時代に書いたオールデイズSFですが 当時の書き方に癖がありすぎて・・・でしたね。
自分には重症な識字障害があるので誤字脱字 誤変換や文章の飛びなどありましたらご了承ください。
/gusaku-horibata 最終転送 2024/3