疑われたサファイア
地球を出発して3年が経過していた日本時間の夜である。
サファイアの船内やコロニーは地球を出発した当時の日本時間、カレンダーは365.25日/年で計算され、季節設定は地球脱出当時の日本の四季が継続されていた。
76回目のワープを終えた当日の夜に大きな事件が起ころうとしていた。
タカはコクピットルームで浮かない表情のサファイアを無言で見ている。 就寝前にワープ完了のトラブルチェック結果をサファイアに報告するために来ていたのだった。
「点検は終わり! 今回も全項目正常だったよ・・・サードももうすぐ帰ってくるし。 でもどうしたのさ・・・さっきから黙ってばかりだね。」
「おかしいのです、 環境が静か過ぎます。」
彼女はスクリーンに探査映像を出していた。「やはりこれは明らかに異常ですね。」
「新しい星系に来たからじゃないの? そもそも宇宙って静かな場所だしさあ・・・。」
「いいえ、そういう問題ではありません。 この2時間ほどで急に空間ノイズが静かになりました。」
「ノイズ? 意味がわからないよ。」
彼は会議テーブルの上にある地球儀を回していた。「君の知らない宇宙だって有るさ。」
「惑星間の磁気ノイズが異常にに低いのです。 通常の1/40以下程度でしょうか? こんな経験は初めてです。」
「探査装置の故障かもよ、点検しようか? もうすぐサードが戻るから一緒に探査モジュールルームに行くよ。」
「いえ、予備システムに切り替えても同じです。 異常に静か過ぎます、この状態は自然ではありませんから人工的に操作されている可能性がありますね。 念のために探査装置の感度のスケール倍率を上げます。」
急にサファイアは立ち上がる。
「全隔壁を閉鎖します! タカ、舞の位置を調べてください!急いで!早く! 着弾まであと16秒です。」
「急にどうしたんだよ。 舞なら小屋だよ、もう遅いから寝てるかもよ。」
船内全域で警報音が鳴り響く。 コロニーを除く全隔壁は自動的に閉まるのだった。
「防御シールド最大に設定します、 2つの飛翔物体が船尾側より接近中。 私を狙っています。」
「何かに狙われているのか? 誰さ。」
「もう間に合いません、掴まってください・・・着弾します。 船尾後方迎撃システムが間に合いません。」
「シールドがあるんだろ? フレアも発射しろ!」」
「フレアは腐って使えませんし効果は無いでしょう、 それに火器には防御シールドはほとんど通用しません。 大型のミサイルなので大きな被害が想定されます。 私の装甲も火器に対応していませんから。」
「防ぐ手立てが無いかよ!・・・おい、サード!」 タカは通信カードに向かったがサファイアはタカの上に覆いかかり床に伏せた。 「2基が着弾! しっかり掴まりなさい!」
サファイアが叫ぶと激しく衝撃が襲うと短周期で長く揺れた。
「船尾機関部のプラズマエンジン2区画を被弾しました。 放熱用コンデンサーも被害を受けましたのでリアクターを14%以下に能力低下させます。」
「古風にミサイルとか? 何者だ!」 タカは床から起き上がった。
<サード!今、何処にいます?>
<はい、左舷17番緊急用エアロックから出るところです。>
<急ぎなさい。>
<はい。 しかし後部の油圧装置が作動しません。 今、非常用ハッチを手動で開いたところです。>
<ジェニファー、飛べるように準備しなさい。>
<はい・・・でも端末がブリッジに居るので距離が遠く、隔壁が閉まっていて自分に乗る事が出来ません。>
<隔壁は開けられませんからあなたの本体だけで飛びなさい。>
<はい! 緊急発進準備します。>
「第二波来ます。 6基の飛翔物体です、また私を狙っています。 まだかなり距離がありますが後部のシールド発生装置と迎撃用砲を破壊されたので無防備になりました。」
「反転しろ! 前側から迎撃したら?」
「私が反転するまで最速でも18分43秒かかります。 着弾まであと83秒ですからとても間に合いません。 油圧機構が作動しないので可動砲が動きません。」
「上部プラズマ砲は間に合うか!」
「リアクターの能力を下げていますから放射困難です。 放熱できないので反陽子炉は人工重力と照明程度しか使えません。」
「今、ジェニファーは?」
「ジェニファーはすぐに飛びたてません。 先にサードを外に出させました。」
「サードのアーム砲は?」
「動力転送が少しなので僅かなら撃てますが今は能力的に弱いです。 それに着弾まで時間が無いので狙える場所まで移動が間に合いません。・・・掴まってください。」
サファイア本体は再び大きく揺れ、再び衝撃は船体中を襲った。
「舞!大丈夫か?」 タカは船内の電話で舞に伝える。
「何が起こったの? すごく揺れたよ。」
「いきなりミサイル攻撃を受けてる。 大きく被害も出ているし・・・隔壁が閉鎖されているからそっちに行けない。 指示があるまで小屋で待機してろよ!」
「うん、 サファイアに頑張ってって伝えて!」
<サード、後部の被害を調べなさい。 こちらの自己診断では二回目の攻撃で油圧系はほとんど被害を受けました。>
<後部機関部4ブロックの装甲を被弾しています。 画像を送ります・・・4対のプラズマエンジンノズルも全数被害を受けています。 この状態では航行は不可能。 第三波が来たら絶望的と言えます。>
<両舷の姿勢制御エンジンで反転します。 第三波が来たら迎撃しなさい。船内暖房を切ってあなたに230GWを割り当てます。> <ジェニファー、油圧に被害が出たので格納扉を開けられません。あなたを船外に出せませんからエンジンを一旦停止しなさい。>
<はい。 念のため低加圧保持でスタンバイします。>
<ジェニファー、端末のアーム砲は最大で撃てますね?>
<はい、今から緊急用エアロックから出ます。>
<あなたの攻撃力だけが今のところ頼りです。 サードと船外に出て合流しなさい。>
<はい、右舷8番エアロックより出ます。>
「サファイア、ジェニファーは?」
「今準備させましたが船体格納扉が開けられません。 非常用の電動で開きますが時間が17分以上かかります。 エレベーターも動作しないのでジェニファーが自分でポートから飛ばないと出られません。 端末は今、船外に出ました。」
「ジェニファーのアーム砲しか防御の手が無いのか、 あいつなら全力で撃てるんだ! 早く頑張って本体も出させてくれ。」
「はい・・・被害状況がわかりました。 大気与圧部に損傷はありませんがリアクターは最小運用になります。 暖房を切ったので船内温度が5℃以上下がりますがしばらくは大丈夫でしょう。 油圧系と推進系のほとんどが被害を受けました。
この星系を離脱できません。 被害の深刻さから修理も不可能です。・・・周辺ノイズが少なかったのは敵のステルス技術だったみたいですね。」
<サードです、 後方から大型船が接近中です。>
<現在探査機に写っています。 私の3倍以上ある大型船ですね。火器攻撃を続行しては来ないようです。>
接近してきた大型船は反転したサファイアの正面で速度を合わせたのでにらみ合いが続く。
「あいつらか! どうしてくれるんだ。 こんなに壊してくれて!」
「しばらく様子を見ましょう。 隔壁を一部開きますから舞をこちらに来させなさい。 今はコクピットの方が安全です」
「うん、 じゃあこっちに呼ぶ。」
「サファイア、相手はかなり大きな船だな。 丸いし軍用には見えない。」
「始めてみ見るタイプですね。 多分ですが銀河系の船ではありません。」
「海賊?」
「いえ。 海賊ならすでに襲ってきていますし、こんなに旧式で派手な戦法は使わないでしょう。 なぜかその後に攻撃してきません。 見てください、相手側も大きく損傷しています。」
「攻撃したのは俺達じゃないから誰かと争ったんだな・・・通信は?」
「周波数の低い搬送波が送られてきています・・・数種類の方法で復調していますが言語を解析できません。」
「解析できない?・・・銀河標準語が通じない奴らとか?」
「言葉が全くわかりません。 私にはかなり多くの翻訳プログラムが入っていますが全てに対応しない言語です。」
「こまったなー。 これじゃあ話にならないよ。」
「でも方法があります。 相手のコンピューターに侵入してみましょう。」
「言葉が通じないのにコンピューターに侵入してどうするのさ。 データを撹乱でもするのかい?」
「計算式を通じて辞書を作成します。 基本的な計算式は全宇宙共通です。」
「1+1=2とか・・・データだけで言葉なんか判るようになるの?」
「180単語程度あれば簡単な意味合いが通じてきます。 時間をいただければさらに単語を増やします。」
「相手の国語辞典を作るんだね、でも時間がかかりそうだ。」
「何もしないよりはいいでしょう。 今、繋がりました。」
サファイアはデータサムをモニターに表示する。連邦基準と同じで16進法だった。
「私達より技術水準が低い船です。 地球よりははるかに先進的ですがコンピューターの応答速度は遅いですね。」
「悪かったな、やつらより低くってさ。 君が高度すぎるんだろう。」
「すでに12語ほど解析しました。加速度的に単語は増えてゆきます。 タカは寝ていないので少し休んでください。舞が来たみたいです・・・その奥にベッドがあるので二人でお休みください。 何かありましたらすぐに起こしますから。」
「眠ってなんかられないよ・・・こんな時に。」
「睡眠をとって非常時に備えるのもあなた達の仕事ですよ。」
サファイアはパーテーションを運び、ベッドの前に置いた。
「ジェニファーは?」
「本体も先ほど船外に出ました。 サードも出ていますから一応これで次回攻撃されても迎撃できます。」
「もうこんなにボロボロじゃないか。・・・舞、大丈夫だったか!」
「うん、何があったの?」
「あの黒い所属不明な船舶に攻撃されて相当壊された。 今はジェニファーに守ってもらってる。」
正面のスクリーンに黒い大型船が映し出されていた。
タカはうとうとして気付くと2時間ほど経過していた。
「サファイア、あれからどうなった?」タカはベッドから起き上がる。
「完全に膠着状態です、相手側も動きませんし。 しかし180語以上解析したので一部通信が始まっています。 あと1時間もすれば何とか普通に会話出来そうですね。」
「で、どんな奴らだよ?」
「海賊ではありません。 ただの移民船みたいです。」
「民間の宇宙船? 先制攻撃してきた理由は?。」
「自分達を守るつもりだと言っています。 最近、私の仲間から攻撃されたと主張しています。」
「バカヤローって言ってやれ。」
「まだバカヤローの単語に相当する言語がわかりません。 それに今の状態で相手を挑発させるのは良くないですね。」
「ねえ、サファイア。 朝ごはん作るから一旦家に戻っていい?」 舞はベッドから起き上がった。
「そうですね。 これ以上は攻撃しては来ないでしょう。 念のためタカはここに居てください。」
「じゃあ、おにぎり作って持ってくる。」
「ああ、頼む。」舞は走って小屋に戻ったがタカはスクリーンを見つめていた。
二人が食事を終えるときサファイアはスクリーンに映る相手を見ながら説明を始めた。
「大体事情が判ってきました・・・この星系を航行中に私の仲間と思われる船団と争いになり武力衝突が有ったらしいです。 彼らにも大きな被害が出て航行が十分出来なくなったと言っています。」
「俺達は犯人じゃないよ・・・ 何だよ、仲間って!」
「先ほど彼らのコンピューターに録画された交戦中の映像も見ました。 連邦軍の警備艦隊と交戦したみたいですね。」
「だってサファイアじゃないんだから!」
「私の側面に書かれた連邦軍の記章です。 同じマークを見て私達を迎撃したらしいですね。」
「ちゃんとこっちの事情も説明したんだろ?」
「はい。 先方も謝罪しています。 私達を修理すると言って来ています。」
「ぜひやってもらおうよ、こんなにしやがって!」
「彼らに私を修理できますでしょうか? 彼らの技術は私達より数千年遅れています。 あの移民船も金属製ですし武器もミサイルでしたし あまり期待はできませんね。」
「そうか、 奴らは最初から光学兵器を持っていないんだ!」
「先方の船長とも先ほど話しましたが、彼らは先日戦った相手をかなり恐れています。 今度来たら私が話し合いに応じると伝えておきました。・・・なぜ連邦軍と争ったのか理由がわかりません。」
「あのバカどもが先に手を出したんだろうよ。 喧嘩っ早いやつららしいし。」
「タカほどではないでしょう・・・しかし連邦軍はよほどの事が無い限り先制攻撃はしないはずです。」
「それより修理はしてもらえないのかな。」
「無理でしょう。 逆にかえって壊されそうです。 それに向こう側も大きく損傷しています・・・仮に私達を修理する技術があったとしてもその余裕も部品も無いはずですが。」
「なあ、これからどうする。 俺達に未来は無くなっちゃうの?。」
「心配しなくて大丈夫でしょう。」
「ん?・・・どうしてさ。 だってもう航行できないんだろ?」
「多分、連邦軍が来てくれます。」
「来なかったら?」
「私の船尾につけられていたマーカーが今回の攻撃で破壊されました。 私の現在位置を連邦軍が管理していますので向こうから必ず来ます。」
「あの見えない鎖の位置マーカーがこんな事に役立つとは皮肉だね。」
「タカと舞を管理している事になっているので多分今回は無償で修理してもらえるでしょう。」
「先ほど長距離探査を始めましたが今のところ連邦軍の艦隊は確認されていません。 一番近い星系からですとワープしない場合は16日以上かかりますから。」
「そんなに待つの?」
「こちらとして加速も減速も出来ませんから攻撃された時の速度で移動中です。 このまま進むと別の惑星にぶつかる可能性もありますからこのまま永遠に居るわけにも行きません。」
「じゃあ、ガゼル呼ぼうよ。まだ生きてるだろ。」
「緊急通信をしていますがまだ応答が有りません。 この星域では高速回線でも時間がかかるでしょう。」
「通信が入ったら教えてな。 今からサードを手伝ってくる。」
「今朝から第一ポートの油圧系応急処置をしています。 直らないとジェニファー本体を格納出来ませんからよろしくお願いいたします。」
「うん、何とかしてみる。」 タカは作業服に着替えると第一ポートに向かった。
ポートの仮配管作業中にタカの通信カードが鳴った。
「なんだい? もうガゼルが来たか?」
「将軍は来ませんが長距離探査機に大型船団を確認しました。 ブリッジまで来てください。」
「判った・・・今行く。」
タカは漏出した油圧系のバルブ交換作業を手伝っていた時サファイアに呼ばれる。 ブリッジまで徒歩と隔壁の手動操作のため30分以上歩かなければならなかった。
「連邦軍来た?」
「はい、どうやら来たみたいです。 最初に彼らと接触と交戦してから1週間以上経過しているので取り締まりに来たのでしょう・・・あと7時間ほどで到着します。」
「全部を直してくれるのかな。」
「多分大丈夫だとは思うのですが。 それに移民船の翻訳データも転送しないといけません。」
「君が作った国語辞典だね。」
「はい。 これさえあれば彼らと連邦軍も対話が出来ます・・・良い結果になるかは判りかねますが。」
<サファイアですか? こちら4F師団局の自治管理担当ケラフ艦長。>
<ケラフ艦長、ザイダ0002 通称サファイアです。 誤解から被害を受ける結果となり現在は惰性航行しています。 推進系と油圧系に深刻な被害を受けています。>
<本局よりえい航の指示が出ています。 牽引船と補助推進機体を同行させています。 大型の牽引船の手配に時間がかかってしまいました。 お待たせしています。>
<彼ら移民船の翻訳コードを作成しておきましたから日常会話程度まで使用可能と考えられます。 データを転送しますから受領してください。>
<それは助かります・・・さすがはサファイアですね。 我々も会話に努力しましたが通信開始以前に攻撃を受けてやむなく交戦になりました。>
<多分、非常に臆病な民族ですから取り扱いに注意して下さい。 旧式ですが火器も多用します。>
<本局より移民船の船長逮捕と乗客の保護命令が出ています。 航行法違反容疑と取り締まりに対する軍務執行妨害行為です。>
<被害を受けた時のレポートも転送しますからこれも参考にして下さい。 それではえい航をお願いいたします。>
<行き先は一番近い工業惑星タルタになります。 貴船のえい航先まで47D5ガルジほど距離がありますがそれまで船内エネルギーは大丈夫でしょうか?>
<補助電力の供給を頂ければ幸いです。 現在反陽子炉の放熱困難で出力軽減中なので。>
<では電力供給設備を用意させます。 損害サポートマニュアル使用許可はガゼル前将軍の指示が出ています。 ガゼル前将軍は・・・> ケラフ艦長とサファイアはしばらく通信を続けていた。
「タカ、 産業惑星で私は修理を受けられます。 でも移動に117日以上、さらに修理には一年以上はかかると思うのですが。」
「しょうがないさ・・・時間は有るし。 でも修理代はタダなんだろう?」
「規約では一度限りですが、それ以降は有料です。 でも今回は他も点検もしてもらえますから運が良かったですね。」
「もうこんな目に会うのは沢山だよ・・・ガゼルのおかげだな。感謝しなくちゃ。」
「前将軍は職務中に病死したそうです。」
「え?・・・いつ?」
「船内カレンダーで昨年だそうです。 先ほど執行軍の艦長と連絡してわかりました。」
「そうだったんだ・・・残念だね、 サファイア。」
「いいえ、 かなり歳でしたし損傷修復期を越えていましたから。 多分慢性的な病気でしょう。」
「悲しいかい? 親しかったんだろう?」
「いえ。 私とはもう終わった関係ですし、寿命と病気では仕方がありません。」
「高齢だったのかしら? 映像ではかなり年取ってたね。」 舞も暗い表情だった。
「はい、 太り過ぎと持病があったらしいです。 タカも十分に気をつけなさい。 損傷修復期間中でも肥満になりますよ。」
サファイアはタカの腹部を掴む。
「そう言われると最近ハラが出てきたな。 農作業でつい食べ過ぎちゃうんだ。」
「サードに頼んで剣道始めなさい。 せっかくブリッジに道場作ったのですから。」
「うん、頼んでみるよ・・・でもサードは最近体調が悪いみたいなんだ。」
「それは初耳です・・・私は聞いていませんよ。 いつからです?」
サファイアは立ち上がってタカの前に近づいた。
「去年かな、ポートでいきなり倒れたんだ。 サファイアには黙っているように言われたけど。」
「いけませんね、そういう事は早く私に伝えなさい。 クルーの状態管理は私の担当です。」
「ああ、分かった。 でも君だって何も言ってくれないじゃないか。」
「私は良いのです、必要なときは警告をします。」
「ちゃんと報告してよ。 みんなサファイアを心配しているんだ・・・君には長生きして欲しいからね。」
「ご心配には及びません、それよりサードの方が問題です。 あとで診断しますから来るように伝えてください。」
「ところで移民船の船長は?早く捕まえちゃえよ・・・腹が立って収まらない。」
「航行法違反容疑で軍に逮捕拘留されます。 それからみだりに軍用船に発砲した罪もですが。」
「捕まって当然だよ・・・そうそう、 あと2、3時間でエレベーターが使えそうだってサードが言ってた。」
「格納扉は開けたままでも良いのですがジェニファーを格納しないと・・・出たままですからね。」
「端末が乗り遅れるなんて初めてだって言ってた。 格納ポートに戻れないからしょうがなくてブリッジの非常用エアロックから出入りしてるよ。」 タカは大笑いをした。
「今回は仕方が無かったでしょう。 それではエレベーターの方を早く動かしてください、お待ちしています。」
「あとさ、サファイア! 船体の軍のマーク消してもらえよ。 他の船からも恨まれそうでさ。」
「海賊が恐れると思ってそのままにしてあったのですが今回は逆効果でしたね。 装甲版の修理の際に消してもらいます。」
「じゃあ、サード手伝ってくる。 17:00にはエレベーター使えそうだよ。」
タカはコクピットを出て行った。
「よろしくお願いいたします。あとでサードに体の検査を受けるように伝えてください。」
「分かった!」通路からタカの声が響いた。
サファイアはスクリーンに映る星空を見ていた。
<ウェリア、 長い間お疲れ様でした・・・あの日が最後になりましたね・・・どうぞ安らかにお休みください。 カレンも待っているでしょう。>
船外ではえい航の準備も始まる。 そして星系内の長距離移動と長い修理期間が待っていた。