人の弱みの話をしよう
彼は他人に決して弱みを見せない
完璧な人であった
弱みとは単なる弱さの象徴だ
そうだろう?
彼は言った
ギシギシとした
いっそ清々しい笑顔であった
ちょうどそのとき彼から潤滑油の匂いを感じたのだ
ツルリとした笑顔が剥けて
ぬらりと光る歯車が見えた気がした
立ち去る背中に
音を立ててぎしりとまわるぜんまいを見た気がした
彼は人でなしだ
彼は弱みを隠しているのではない
痛みを感じる器官を持ち合わせていないのだ
身震いした
彼は人でなしだ
弱みを晒すことは
弱さの象徴であろうか
今日もまた体温のない彼は
黒々とした無機物に薄い皮を被り
人の痛みに気付くこともなく
彼は人であるふりをするのだ
まるは。