【スペインロケット】





ハイウェイを爆走し、フランスからスペインに入る。

するといきなり景色が変わる。

道の両側は、赤茶けた土肌がむき出しになり、それが右に左に、

ゴーカートのカーブのように続く、

道もアスファルトがところどころむけて、運転も少し注意が必要だ。

すると「あっ!?」

丘の上にでっかく黒い巨大な牛の影。

たくましく角を空につきさし、ハイウェイににらみを効かす。

とよく見ると巨大な黒い牛の形の看板だった。

時はお昼時。

最初に見えたレストランの前に車を入れた。

漆黒の木の窓枠を持つマカロニウエスタンに出てくるような建物。

ドアをギイーと開けて入る。

中は薄暗かったが、結構混んでいた。

席を探してうろうろ店内を歩くと、早口のスペイン語がけたたましく

飛んできた。

「おめえら何人だ?、ほれ、こっち座れ」

こう言ったかどうかはわからない。

しかし声の主の、丸めがねをかけたおばちゃんを見てみんな思った。

うわ、こんなおばちゃん日本の食堂に絶対いる!

スペインの、下町庶民的空気がオレ達をいきなりなごませた。



結局、外のテーブルに座ることにした。

濃い顔のデブいおじさんが注文をとりに来た。

「これを!」とメニューの一品を指差す。

すると笑顔と身振りでおじさんが答える。

「マニアワナイ!」

「えっ!?」とオレ達、「間に合わない!?」

何が間に合わないんじゃ、じゃあこれはと指差す。

するとまた「マニアワナイ!」とおじさん笑顔で答える。

不得要領を得ず、何を言ってんのかわからず、とにかくおじさんが

「マニアワナイ」と言わないものを頼んだ。

これはギターウルフが初めてスペインの地に訪れた1998年のことだ。

スペインは他のヨーロッパ諸国の中でも特別だ。

日本に近い親近感を持つ。

それは、人の雰囲気だったり、町の人の会話も時折日本語に聞こえて

「えっ!?」と耳を引っ張られる事が多い。

さて「マニアワナイ」だ。

その意味がわからないまま、翌日オレは、対バンの一人の兄ちゃんに、

遠くからでっかい声で「マニアワナイ!」と叫んでみた。

するとお兄ちゃん、鼻に変なものをかがされたような顔でオレを見た。

そこでオレ達は大笑い「やっぱり通じるゼ!」

そして意味を教えてもらう。

「マニアワナイ」とは「明日」という意味だった。



ツアーマグマ2013ヨーロッパ。

2年ぶりに車でスペインに入に入ると、例の巨大な牛の看板が

またしてもオレ達を出迎えてくれた。

そして赤茶けた大地。

同じ陸続きなのに、どうしていきなり変わるのか不思議だ。

最初に来た頃より、道はいくらか整備され綺麗になっているようだ。

車はどんどんスペインに深く入っていく。

それにしたがい、だんだん興奮してくる自分に気がつく。

何かが体の血管をロケットのように走り出した。

それは加速して加速し、ライブの時に最高潮に達しオレの体から

発射されるのだ。



どの国にもカラーがある。

カラーとはその国の持つエネルギーの色だ。

その国のエネルギーの中に突っ込んで、オレ達のロックをドッカ~ンと

爆発させる。

そこで生まれるエネルギーの融合がたまらない。

ツアーは例外なく過酷だ。

だが、融合の時のそれぞれの色をみたくて、オレ達は世界でロックする

衝動を抑えられないのかもしれない。

スペインの熱い血を感じながら、ふと思った。