【秘密基地の幽霊】





子供の頃、山の上の公園の横に、廃車置き場があった。

オイルの臭いが辺りに漂い、グチャグチャになった車が

ガシャガシャに積まれてあった。

公園とその場所は、フェンス1枚で仕切ってあった。

身体能力が、やや高くなってきた小学校から、友達とフェンスの向こう側に

足を踏み入れるようになった。

運動靴がジャリっと細かいガラスを踏む。

ザクザク、ジャラジャリ、気持ちいい。

少し慎重に、車と車の隙間を選んで歩く。

両側に積まれた車に手を当てるとギイーと少し傾く。

中でも、まあまあ安定している車を選んで、その車の上に乗る、

おっとっとっと登った目の前には、まさしく子供を興奮させる

鋼鉄の遺跡があった。

「絶対入っちゃだめだ!」

母親に間違いなく言われていただろう。

しかし、全く耳に引っかかってない。

当時、捨てられていた冷蔵庫に子供がかくれんぼで入り、閉じ込められて

死んだというニュースがあった。

聞いて怖かった。

だが、気をつけるのは冷蔵庫であって、車じゃない。






何度か踏み入れるうち、積まれた車の下に格好のスペースを見つける。

秘密基地の発見だ。

そこにみんなでマンガやおもちゃを持ち込んだ。

そして合い言葉を決める。

なんだったろう、「山」「川」かな?

だがその生活も長くは続かない。

ある日、合い言葉を無視した大人が顔をだし、引っ張り出された。

二度と入るなと釘を刺された。

まあ、今から考えりゃあ当然だ。

でも、子ども達には、まだまだ強い執着があった。

特にオレにあった。

そこで、大人が近づかない作戦を考える。

幽霊作戦だ。

入り口にものすごくリアルな幽霊の絵を吊して、

暗闇にボーっと浮かべるのだ。

それを見た大人達は、きっと腰をぬかし、二度と近づかないだろう。

家に帰り、画用紙に幽霊の絵を描いた。

絵には自身があった。

幼稚園の頃、先生がいつも褒めてくれた。

やがて画用紙には、なかなかリアルな血だらけのじじいの幽霊が描かれ、

こちらを睨む。

「おお、怖!」

それを切り抜き、さらに銀か金の色鉛筆を塗り、光ると思われる工夫もほどこす。

これでよしっと秘密基地に持って行き、入り口から少し入った所に吊した。

しめしめ、ここまでは細工は隆々だ。

だが思う、これ怖いか?

そこでやってきた友達。

その反応を待つ、待つ、待つが、あれ!?友達は全く怖がらない。

「だよな」

その辺りからオレの興も冷めている。

秘密基地の記憶はそこまでだ。





小3の途中、オレはその町を引っ越した。

廃車置き場はそのままだった。

越した先で、なぜか基地に残した幽霊を、時折思い出していた。

でもあの車達はいつか片づけられたはずだ。

機械で真四角に圧縮され、どこかの埋め立て地にでも埋められたのか?

そしたらあの幽霊は挟まれたまま、海中深く、今もどこかにいるのだろうか?





誰もがあこがれた秘密基地。

もちろんオレは今でもあこがれている。

次に見つけた時は、もっとリアルな幽霊をつくんなきゃね。

プロジェクターとか使って、3Dの幽霊とかさ。