【バンクーバー番格ミッドナイト】


1993年、ギターウルフはアメリカで初めてロックをするという好機を得た。    
きっかけは、その頃から海外でライブをし始めていた日本のバンド5678sが、

ガレージショックという、シアトルから北のベリングハムという小さな町の

ライブハウスで行われるフェスに誘われたことによる。

5678’sのヴォーカルギターのヨッチャンが、ギターウルフを、

そのフェスに誘ってくれた。

まさしく千載一遇の好機!

オレ達は意気揚々とアメリカに乗り込んだ。

その為にオレは日本での仕事を一ヶ月休みを取る。

「オイオイオイ、いいのかいそんなに休みを取って?」とは

その頃のオレの頭のどこかで  聞こえた言葉だった。

なんつったて、ライブはこの一本しか決まってなかった。                                    
「しかしいいのだそれで!行ったからにはとにかく飛び込んで行って、

いろんなところでライブをやってやる!」

まさしく道場破りのような気合で、とにもかくにも3匹の狼はアメリカに飛んだ。

しかしその炎の気合を使うこともなく、あっけなく、初日のライブをやったところで、

その次の日にカナダバンクーバーのクラブでライブができることになった。

いろんな偶然と運が重なってチャンスというものはまわってくる。

5678sに誘われた運から始まり、そのバンクーバーの夜も回りまわった運が

オレ達にチャンスをくれた。


カナダの国境を抜け、クリーデンスクリアーウォーターリバイバルの音楽と共に

緑と湖を抜け、バンクーバーの町に着いたのは夕方だった。

クラブの前に車を停め、中へ入ると、いきなり頼まれた。

「順番を変わってもらえないか?」

オレに頼んできたそのバンドは、風邪でのどの調子が悪いからと言うことだった。

オレ達ギターウルフはその夜の一発目、そのバンドはその夜のトリ。

「OK!いいよ」

即答の瞬間、オレは心の中でギュッとこぶしをにぎった。

トリ、つまりヘッドライナー、その夜の最後を飾る花形バンドだ。

その頃ギターウルフは、日本でもトリに指名されることはあまりなかった。

オレはいつでもゴゴゴーだったが、ギターウルフ自身に

何かがまだ不足していたのだろう。
だがそのオレ達が、アメリカに来て2回目のライブでいきなりトリを任された。

「エーーーー!」という声がメンバーに上がるが、やるというからにはやるんじゃ!

たとえローリングストーンズの後だろうと、AC/DCの後だろうと、

やるというからにはやるんじゃ、クソったれ! 
 
その夜、アホだけが持てる自信と気合だけで、かのヘタクソバンド、

ギターウルフが、バンクーバーの夜をぶっとばす。

金髪が揺れ、英語の歓声がステージに突き刺さった。


ライブ終了後、楽屋の椅子にドサっと座りこけているオレの頭上に、

ひとつの歓喜の声が 尋ねてくれた。

顔を上げると、坊主頭のアメリカ人の兄ちゃんだった。

「サンキューベリベリマッチンチン!」すくっと立ち上がってオレは握手を交わす。

すると彼が言った。

「メンフィスにライブしに来ないか?」

願ってもない。

「オウイエー!絶対行く、何があっても絶対いくゼ!」       
                      
オレ達をメンフィスに誘ってくれた彼の名はエリック。

後にゴナーレコードを立ち上げ、凄まじくかっこいい音を持つ

オブリビアンズというバンドを組む。

彼の誘いのまま、この後オレ達はメンフィスに行った。

そしてその時何気なくエリックに渡したデモテープが、

オレ達のファーストレコードになった。

偶然とは不思議なもんだ。

あの夜、バンクーバーでトリを張らなければ

エリックは見てなかったかもしれない。

オレ達も、外国のバンドの後にトリというプレッシャーの中でやらなければ、

あれほどいいライブができなかったかもしれない。

あの夜オレ達は、確かに何かをつかんだ。


さて今夜はそのバンクーバー。

バンクバーでやるのは、6年ぶりだ。

今この文章を移動の車の中で書いているが、

突然ドライバーのクレイグが後ろを振り向いて叫んだ。

「ソールドアウトだ。今夜は400人がソールドアウト!」

「イエー!」歓声が車の中にあがる。

これもすべて、何かをつかんだあの夜から始まったのかもしれない。

「バンクーバーよ、久しぶりだね。元気してたかな。

今夜、再び訪れた日本の狼たちが、その気合の雄たけびを聞かせてやろう!」