【ハーレーとカワサキその1―税関バトル】

 

 

アメリカのどこの空港だったか忘れた。
オレは出国審査の後の税関で、軽い荷物チェックを受けていた。
その時の検査官の白人の兄ちゃんが、いきなり英語で聞いてきた。
「おまえバイク乗りか?」
瞬間、オレはサングラスをキラッとさせて答えたつもりだ。
もちろん英語で。
「そうだ」
そう答えた瞬間、近くにいた同僚の別の白人の兄ちゃんも反応して、
でかい身体をのそのそ寄せてきた。
その兄ちゃんがオレに聞く。
オレの頭上で、GIカットの白くでかい顔に赤みを差して、にやつきながら
口を開いた。
「どんなバイクに乗っているんだ」
オレはそこで、しめたとばかりに答える。
「カワサキだ!」
すると二人は急にやんちゃな子供のような顔になり、ニカーっと笑った。
たぶん、オレの自信ありありを、ちゃかしたくなったのだろう。
まず、でっかいGIカットの一人がこう言った。
「なにゃー!バイクって言ったらハーレーだろう」
もう一人もすかさずつっこんでくる。
「日本のバイクは何だ、もしかしたらライスで動いてんのか?」
オレはその言い回しに思わず笑った。
相手もこの会話をたのしんでいるようだった。
しかし、言い返しとかなきゃならない。
うまい英語じゃないが、こんな感じで答えた。
「あほたれ!バイクと言ったらカワサキだ!」
そしてもう一丁、
「ハーレーは何だ、パンで動いてるんだろう!」
そこで3人で大笑いした。
荷物チェックが終わり、オレが行こうとすると、
二人がこぶしを軽くつきあげて合唱しだした。
「ハーレー、ハーレー」
もちろんオレはそれに返す。
「カワサキ、カワサキ」
その二つの応酬はオレが出口に向かうまで続き、最後オレが姿を消す瞬間に、
二人に大きく手を振った。すると二人も手を振って返してくれた。

 

 

 

アメリカ人は気さくだ。
これはテロ以前の話だが、税関でこんな会話があったのはアメリカだけだった
ように思う。
そして彼らは自分の国が大好きでたまらない。
そしてバイクに関して、どこの国のバイクに乗ろうと、やっぱり彼らのこころは
ハーレー、もしくはインディアンなのだ。
ハーレーは素晴らしいバイクだ。
ハーレー、カワサキの応酬を、やや冗談ぽく、でも少しはマジで、オレと
繰り広げた税関の兄ちゃん達のハーレーへの愛着ぶりを尊敬したい。
そして、オレのこころにやっぱりオレはカワサキだと、さらに強く刻んでくれた
ような出来事だった。
ギターウルフがUSツアーに行きだして間もない、90年代初めの頃の話である。