空振った。
ホッチキスの弾だ。
1件の取引書類。つまり輸出許可書、代金入金の控え、注文書、出荷書類をまとめてパチンとしようとして空振った。
軽くガクッと来る。
ホッチキスというのはフランス語で、英語ではステイプラー呼ぶ。
弾、でいいのだろうか。針か。
おれは昔からホッチキスの弾、と思っているが、ステイプラーの針、と呼ぶ人がいてもおかしくはない。
どうでもいいのだが、弾切れは突然やってくる。
引き出しをあけて弾の小箱を探す。小箱を開けてみると、空ではないか。
なぜ、前回使い切ったあとにこの小箱を捨てなかったのか。
小箱とはいえ、新品は使い切るのは永遠に先の話に思えるほど大量の弾が入っている。
それを使い切ったということに、おれは感動を覚えるタイプだが、使い切ったことを覚えていないということはどういうことだ。
あるいは誰かがちょっと弾をもらおうと、おれの机の引き出しをあけて持って行ったか。
考えづらいな、それは。
どうでもいい。
小さな偶然が重なってホッチキスの弾が切れた。それだけのことだ。
戦場で銃の弾が切れたら大ごとだぞ。
心の中で大袈裟に嘯いてみる。
まとまるとまあまあな厚みになった取引書類はとりあえず、クリップで留めておくことになる。
こういう状態はあまり好きではない。
A4書類をきちんとそろえて、その向かって左上をホッチキスでパチンと留めないと気が済まないのだ。
クリップではすぐにずれるし、下手するとクリップから外れてページが散逸しかねない。
昼前。
約束通り、関西の取引先が来社。お会いするのははじめての人。この人、一度大ポカをやったことがあったのでお会いしたかったとのこと。当時は結構焦った事態だったが、今では笑える。高級なポッキーみたいなものです、と言ってお土産をくれた。
午後。
税理士が来社。いろいろ面倒な話があった。あまり読みたくもない紙をまとめてもらったので、後で読もうとホッチキスでパチン、としようとして空振った。そうだった。忘れてた。弾切れだった。空振り2つでツーストライクか。
今日、帰宅するまでに三振するかどうか。
やっちまいそうな気がする。
ホッチキスの弾、帰りに買っておこう。
100円ショップで売ってるかどうか。
売ってなかったらツーアウト。