FFXI Another Story 82

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   Love and courage will find a way

   愛と冒険に不可能はない。


   正確にはちょっと違う。


  『僕は「君」を連れて「家」に帰るんだ』

   同じ台詞を何度か言ったが、叶えられたのは1度だけ。

   今度こそ。

   『君』で最後の恋だ。

   君は、僕の、最後で、永遠の恋人だ。



   アシュリー。最後にどうしても会ってほしい人が居るんだ。

   どうか、気を悪くせずについてきてくれないか。


   後日。シルバーはアシュリーを傭兵の共同墓地へ連れていった。傭兵の共同墓地というのは案外雑な物である。金が無い者ばかりであると同時に、数が多く、"入居者"が後を立たないからだ。

   シルバーはある人物の墓の前で立ち止まる。膝をついて墓に積もる土を手で退け、花を供えた。レレア・クロノア、その女の名前にアシュリーは眉をひそめて黙っていた。

「レレア、久しぶり。会いにくるのは多分これで最後になるよ。……僕、結婚したんだ。君は多分悔しがるだろうね。僕を祝福してくれるかな?」

   シルバーは立ち上がって、膝の土を払うと、アシュリーの手を握りしめる。

「レレア、それからマリ。……僕は、彼女、アシュリエルと結婚しました。だから"そこ"から僕等を見守っていてくれませんか。……今度こそ必ずちゃんと最後まで守るって誓うから……

   シルバーが不意に俯いたのを見て、アシュリーははっと息を呑み、その表情から全て悟ると、しばらくやるせない顔をしていたが、思いついた様に彼に強く抱きついた。

シルバー。その女達が死んだのは、多分、お前が世界ごと全部守ろうとしたからだ。代償だったんだ……

「解ってる。だから僕が殺したも同然だ

「違う。それは違う。彼女達が命を賭して守ったものはこの世界の命運なんだ。彼女たちは世界を救っただけにすぎない」

「…君は怖くないの?」

「怖いわけない。私は死なないから」

「え…」

これからは、私の背中だけ守ればいい。その限り私は死なない。だから、これからずっと側に居る」


   そうだろ?

   『アシュヴィン』


この指輪は、一生お前に守ってもらうための証ではないだろう?私はあの夜、この指輪を受け取ったときから、生涯お前と共に生き、共に戦っていくのだと誓ったつもりだ。だからもう…1人で何かを守らなくていい。代償を払わなくていいんだ」

「アシュリー

「お前の幸せを守りたい。それが"彼女"の最期の願いだった。私はお前の幸せに足る者になれるかはわからないが、願い通り、お前がくれる未来を生き続けたい。この想いは確かに""のものだ。だから」

   アシュリーは強い意志を秘めた瞳で、改めてシルバーを見上げた。

「だから、今""に誓ってくれ。これからは自分の幸せのためだけに生きるって」

「僕は……今やっと、君は君なんだって、心まで解った気がする

「そうか」

「アシュリー」

「何だ?」

「君はまだ、自分は二番煎じだと思っているの?」

なるべく、近い存在になれるよう、努力していくつもりだよ」

「違うんだよ


   恋はキラキラしていて、想い出になればなるほど美しいものになっていくけど、それは幸せとは違う。僕にとって幸せっていうのは……

   朝起きたら妻が居て、夜眠る時妻が居て、その毎日が変わらず来るということ。どんな嵐の日も揺るぎなくあるもの。それが愛してるということ、恋人とは違う。


「だから、これから愛していくのは君だけ。君が僕に最期の幻想をくれる、ただ1人のひと」

ありがとう」

   無名の騎士の墓標の前で吐いた、1人の英雄の吐息は熱く白く、今度こそ、生涯の伴侶となるべき者の元に還った。

「さて…。流石に寒いな。お前の怪我にさわるといけない。家に帰ろうか」

「ああ、そうだね」

「真冬にこんな所に付き合わされたんだ、温かいホットチョコレートと美味しい手作りケーキを所望する」

「じゃあ、いつも通り、アルの家に集合で決まりだね」

「『みんな』で、か?」

「もちろん『みんな』で!」


   Love and courage will find a way

   愛と冒険に不可能はない。


   正確にはちょっと違う。

   Love and her courage will find a way

   愛と"彼女"に、不可能は、ない。


   彼女はきっとこれからも、僕に生きる路を与えてくれるんだろう。

   僕が、僕のために生きていく路を。


   僕を選んだその双剣の名はアシュヴィン。

   僕が天才だったのか、剣が魔剣だったのか、未だに判らない。

   ただ重過ぎたのは武器ではなく、僕の運命の方だった。


   人は戦わずして、何も守れない。

   だから、1人で戦ってきた。

   誰も傷つけたくないから。

   けれど、人は、何もかも1人で守れるわけじゃない。

   自分さえも。

   まして、他人となれば尚更。

   だから、その背中を安心して預けられる誰かを必要とするのだろう。


   この世界でもあの世界でも確かに、僕は英雄だ。

   けれど、世界でたった1人のこの人の背中を守る為だけの男で居たい。

   これから、ずっと。

   彼女がそれを望む限り。


   もしも。

   生まれ変わる事ができるのなら、物言わぬ花になりたい。

   いつか2人で見た、ラテーヌ高原に咲く、あの花に。

   人を癒しこそすれ、誰も傷つけない花になりたい。

   誰も守れはしないだろう。

   だけど、その時は、彼女も隣で咲いていてほしい。

   そして、何も知らないままの無垢なあの子達の心の中に、永遠に咲いていたい。

   世界中の『君』の心の中で咲き続けていたい。

   2人で。


   もしも、世界が、今日で終わってしまうのなら、僕はこの人とこの世で最も美しい物だけをかき集め、愛の言葉だけを並べて、幻想の中を逝く。


   ファイナルファンタジー。


   僕にとり、日常とは幸福の最たるものである。

   僕にとり、日常とは最期の幻想である。



<了>