花組『A Fairy Tale-青い薔薇の精ー』キャスト別感想つづきです。

ずっと触れたくて、触れられずにいた人です。

★明日海りお(89期・研17)

かつては高貴な白薔薇の精だったエリュ。
罪を犯した罰として、自然界に存在しない青い薔薇の精になりました。

キャスト別感想ですが、ネタバレを含みます。
まだ知りたくない方は読まないで下さいね。

本作には3パターンのエリュが登場します。
・青い薔薇の精
・青が滲んでる白薔薇の精
・白薔薇の精

一口に「薔薇の精霊」といっても、青エリュ・青白エリュ・白エリュで、それぞれ全然イメージや雰囲気が異なります。

どのエリュにも言えるのは、中性的な美しさを湛えながら、気骨のある漢ということ。
性別がないであろう精霊なのに、男性だと認識できます。

明日海りおが築いてきた男役芸が滲み出ているのでしょうね。

滲み出るといえば、明日海さんが演じてきた数々の人物像がふわっと香る瞬間があります。

例えば、静かに苦悩しつつ、ときめきつつ……誇り高く、傲岸不遜なエリート意識を秘めている……といえば。

『春の雪』の松枝清顕にも通じる精神性と圧倒的な美。
エリュは清様ほど酷い奴じゃありませんが。(←褒めてます、清様のことも)

青が滲んできてる白薔薇の精だった頃のエリュがビジュアル・性格とも、一番ツボ。

金髪の毛先が青かったり。
衣装も、白と青のグラデーションになっていたり。

衣装は靴を含め、足元ほど蒼く。
罪に浸食されていく様子が表現されています。

心理的に迷いが多く、様々な感情に揺さぶられ、己の欲望を最優先するあたりも……たまりません。

観るたび、明日海エリュはリニューアルされてるので、これ!と言い切れない面が多々あります。

多面的で、多様。
良い意味でイメージが定まりません。
硬質で冷たいイメージだったり、人間のような熱い血潮を感じたり。

エリュは決して画一的にならず、様々な顔を見せてくれます。
誰しもが矛盾をはらみ、多彩な側面をもつように。

振り幅が大きいのに、不思議な統一感があるエリュ。
明日海りおの引き出しの奥深さに、改めて驚きを隠せません。

このエリュという役は、とても難しいと思います。
良くも悪くも、男役として極めてきたものを出しづらい役です。

まず、人間ではないし。
明日海さんは「人ならざるもの」を振り当てられる率が高いですよね。

トート閣下といい、エドガーといい、エリュといい。

しかも、一概に人間じゃないといっても、3名ともそれぞれ異なる種族(?)です。

トップスター就任後の大劇場作品のうち約3割は、人間ではない役を演じてるんですね。
なかなか滅多にない事だと思います。

ごくごく微かな感情の揺らぎ。
その揺らぎに潜む、ねじれや歪み。
あるいは、見逃しそうな純粋さ。

それらを体現できる明日海なればこそ、「人ならざる存在の感情表現」という難易度の高い表現にも果敢に挑めるのでしょう。

そういえば、青エリュ・白エリュに比べ、青白エリュは最も表情や雰囲気が人間に近いような。

苦悩や喜びのはさまで、深い葛藤を抱えているからでしょうね。

決断できない弱さを、人間にならない匙加減で表現する。
単純に悩むより、明らかに難しい…。

その狭間に存在する青白エリュは、とてつもなく儚げで美しいのです…。

エリュとしての存在の仕方は難易度が高い。
特に感情表現が難しい。

それだけに、明日海さんは決して『攻めの芝居』はされません。

あくまでも『受けて立つ』スタンスのように感じます。

相手の気持ちを受け、それを響かせるような役目を果たしておられるような…。

特に老年期のシャーロット(華優希)との芝居は、魂が震えます。

初日から胸に響きましたが、観るたび更新されていってます。

「明日海りおと華優希コンビの芝居をもっと、もっと観たい」

そう思わせてくれる舞台です。
明日海りおは、いつだって真剣勝負。
最後の最後まで、己に厳しい人です。

凄みさえ感じる、青い薔薇の精。
苦悩に悶える青白グラデーション時代。
浄化された白薔薇のエリュ。

明日海りおの舞台を味わうたび、新鮮な変化と成長に気づけてしまう。

何故このひとの男役を見納めなくてはならないのか。
もっと観ることが出来ないのか。

それが心から残念でなりません。

そして、改めて感じたこと。
明日海りおという舞台俳優は……その表現力は、どれほど言葉を尽くそうと形容し難い。

しかも観るたびに変化していて、「こう!」と言い切った翌日には「そうじゃない、それだけじゃなかった」となる。

語り尽くしたくても、言葉が追いつきません。

『A Fairy Tale』にしろ、『シャルム!』にしろ、物語や演出や選曲などには各自、好き嫌いはあると思います。

それがトップスター退団作ともなれば、尚更観る目は厳しくなろうというもの。

退団作は「集大成というより、新たな挑戦」がテーマのように感じました。

「まだ見た事のない明日海りお」を引っ張り出したくなるシャルム(魅力)を備えている明日海さん。
演出家をそんな気にさせるなんて、まさにミューズですね。

(ミューズは芸術を司る女神)
(転じて、創作欲をかき立て、刺激や閃きを与える存在を指します)

目の前に立ちはだかれば、どんな山も登り切ってきた。
どんな急流も泳ぎ切ってきた。

それが明日海りおが積み重ねてきた事実であり、実績です。

「私を支えて下さるファンの皆さんに、舞台でしかお返しできない…」と退団会見で涙を流していた明日海さん。
 
舞台の上には、常にベストを尽くす明日海りおがいます。 


★聖乃あすか(100期・研6)

白薔薇の精だった頃のエリュを演じています。
台詞はなく、踊り・所作・表情・佇まい…だけでエリュの気持ちや立場を表現しています。

聖乃あすかは、ほんわかした甘く柔らかな空気をまとう男役。
加えて、育ちの良さそうな気品と優しさを兼ね備えています。

ところが、それだけじゃなかった。
白薔薇の精・エリュを演じるにあたり、本来の持ち味と対極にある「硬さ」「冷たさ」を体得。
表情や立ち方で、それらを表現しています。

明日海りおのエリュと、聖乃あすかのエリュ。

顔立ちなどは「そっくり」とは言い難い二人ですが、違和感はありません。

むしろ、「誇り高く、この庭で最も美しい精霊」との表現が、なんと似合う二人であることか。

聖乃あすかが演じるエリュは、様々な場で登場します。

それは、エリュの回想であったり。
シャーロットの幻想であったり。
エリュやシャーロット、それぞれの心象風景であったり。

聖乃あすかが体現するエリュは、エリュ自身とシャーロット、それぞれのピュアな想いの結晶です。

聖乃エリュが穢れなく、ひたすら純粋な存在であるからこそ、明日海りおの振り幅や変幻の大きさがより生きるのでしょう。

明日海りおと聖乃あすかはそれぞれが『エリュ』として存在し、美しく自然なハーモニーを醸し出しています。

二人が同質の存在だと感じられます。

『ポーの一族』『MESSIAH』そして『A Fairy Tale』と、新人公演で明日海りおの役を演じてきた聖乃あすか。

花組生の誰よりも多く、明日海りお主演作で新公主演を任されてきました。

演劇専門誌で、「己の持ち味から、中性的な男役を目指そうと思っていたけれど、今は骨太な男役を目指している」と語っていた聖乃さん。
明日海さんに影響を受けたのでしょうか。

柔らかく優しい持ち味に加え、硬質なクールビューティや、荒々しい野性味など、多彩な男性像をモノにしていけたら良いですね。

…こうして書いていると、明日海さんと聖乃さんは『本来の持ち味』が似通っているような…?

優しく、ふんわり柔らかく。
小春日和の、ほのかな陽光のような…。

聖乃さんは中性的で可愛らしいイメージでしたが、最近はメキメキかっこよくなってきましたね。

聖乃さんはダンサータイプではなかったと思いますが、芝居でもショーでも、動きのキレの良さや踊りの上達を感じます。

例えば、地下クラブの場などで、3人ずつ前後に並んで同じ振付で踊りますが、聖乃さんは一番後ろにいますが、ジャンプは一番高かった。
腰の沈み込みも誰より深かったので、ジャンプに高さが出たのでしょう。

エリュとしても、都姫ここちゃんに突然おんぶされても、表情は驚いても、足元は揺るぎません。

様々な場で、動きになめらかさと安定感を感じます。
体幹を鍛えてるんですね。

地道な努力を重ね、心身ともにたくましい男役に成長していくのでしょう。

明日海イズムの承継者としても。
聖乃あすかオリジナルとしても。

今日は新人公演ですね。
きっと、あすかちゃんの本領が発揮できますよ。

朝日新聞デジタル版にて、聖乃あすかインタビューが読めます。
(読者登録が必要ですが、とりあえず無料で読めます)

尊敬する方に学んで…花組・聖乃あすか「愛、受け継ぐ」



▽継承されていく明日海イズム。
にほんブログ村 演劇・ダンスブログ 宝塚歌劇団へ
にほんブログ村