2019年7月19日(金)宝塚歌劇団の劇作家・演出家の柴田侑宏氏(87歳)が亡くなりました。

19日夕方、訃報ネットニュースを妹が知らせてくれました。

今年1月の日記で少女漫画『かげきしょうじょ‼︎』(斉木久美子・白泉社)について触れました。

『かげきしょうじょ‼︎』は宝塚歌劇団をモデルにした紅華歌劇団を舞台にした群像劇。

タカラジェンヌならぬ紅華乙女を目指す少女達が多数登場します。

…が、紅華に憧れ、目指したのは少女だけじゃない。

少年も紅華を目指す!!

紅華歌劇に魅せられ、その華やかな舞台に憧れた少年。

しかし、彼は母親に告げられます。

「紅華は女性しか入れないのよ」

打ちひしがれた少年は、それでもどうしても紅華に関わりたくて発想を転換。
紅華の舞台を作り支える、劇作家を目指します。

少年は「白薔薇のプリンス」と謳われた人気男役を出待ちして、突撃。
脚本を見せて下さい、と頼みます。

白薔薇「なぜ私に?」
少年  「あなたが一番素敵だから」

少年の真っ直ぐな情熱を受けとめ、己の台本にサインして渡し、

「これは君にやろう、少年」

待っている、と白薔薇のプリンスは少年に告げます。

その後、第二次世界大戦の空襲で焼け野原と化した紅華の本拠地・神戸。
一人ぽっちになった少年が立ちすくみます。

何もかもが焼け落ち、消えてしまった…。

そこに現れたのは、腕を包帯で吊った傷身の白薔薇のプリンス。

「私達は何度でも甦る」

焦土に立ち、力強く宣言する白薔薇のプリンス。

それから数年後、再建された紅華歌劇団で新作が上演されます。
感無量で涙ぐむ青年は、かつての少年。

「おやおや、先生は泣き虫だな」

白薔薇のプリンスに揶揄された元・少年は、約束通り、紅華歌劇団の劇作家・演出家となったのでした。

舞台は、儚いひとときの夢。
でも、人が夢を求める限り、私達は何度でもよみがえる。

その言葉を実現した、白薔薇のプリンスと紅華少年。

その後、長い長い時を経て、元・少年は舞台演出の第一線から身を退きます。

…が、紅華愛は尽きる事なく、音楽学校で本科生向けに演劇の授業を担当。(メイン講師とは別に)

そんな彼はある朝、花の道で渡辺さらさ(本編の主人公)と出会います。

予科生のさらさは彼が何者か知らず、「行き倒れのおじいちゃん」と勘違いして心配。

「あんた、ここの生徒か?」と尋かれ、胸を張るさらさ。
紅華ファン談義が始まります。
元・少年が、ある作品名を口にするや、「知ってます!」

それは半世紀ほども前の作品。
さらさが生まれる何十年も前、家庭用ビデオもない時代の作品。

「知るわけがない…」と訝るおじいちゃんの前で、その主題歌を歌いだす さらさ。

歌舞伎が大好きで、その舞台に立ちたかった幼い日のさらさは「歌舞伎は男だけの世界」と早々に締め出されました。

そんな失意のさらさに「紅華歌劇団ごっこをしよう」と声を掛けた祖母。

「祖母が大好きな作品でした」と笑う紅華乙女・さらさ。
お祖母ちゃんと繰り返し演じて歌った、観たことのない『思い出の舞台』

その作品こそ、かつての紅華少年のデビュー作でした。

この少年は、柴田侑宏先生と植田紳爾先生がモデルだと思います。

空襲で神戸の実家を失った植田先生。

第一線を退いても、音楽学校で演劇指導を続けられた柴田先生。

同世代のお二人は、長らく宝塚歌劇団を支える両輪として活躍されました。

『かげきしょうじょ‼︎』はこんな風に、主人公以外のエピソードが数多く語られます。

多くの登場人物が持ち回りで主役を張ることで、物語を肉厚にしています。

掲載誌の休刊で、一旦は途中休載となった『かげきしょうじょ‼︎』

白泉社の隔月刊誌「メロディ」で連載再開にあたり、ごく最初に登場したエピソードが、紅華少年の物語。

コミックスでは1巻に収録されています。

このエピソードが好きすぎて。
1巻は特に繰り返し読み、読み返すたびに感慨に耽っています。

その都度、心の中で勝手に柴田先生または植田先生を重ねていました。

連載中の物語では、さらさ達はようやく本科生に。
これから、柴田先生(仮名)の授業場面も出てくるかもしれません。

宝塚歌劇団で再演を繰り返す、数々の柴田作品。

『あかねさす紫の花』
『新源氏物語』
『紫子』
『星影の人』
『アルジェの男』
『うたかたの恋』
『悲しみのコルドバ』

…等々、近年も続々と再演されたおかげで馴染みのある演目が並びます。

これからも宝塚の演目や、宝塚をモデルにした作品を通して、柴田先生に再会できることでしょう。

柴田先生の死後、宝塚と出会った人は作品を通して、先生に新たに出会うことでしょう。

『かげきしょうじょ‼︎』で紅華乙女さらさと出会った(心は永遠の)紅華少年。

彼は前日、音楽学校の職員会議で、予科生の演劇担当教師に怒りの鉄槌をぶちかましていました。

その担当教師は通称「ファントム」
卓越した歌唱力と演技力をもつ舞台役者でしたが、身体が一部不自由に。
紅華音楽学校の演劇担当教師に転身。

さらさ達にとって、座学ばかりの演劇論は退屈。
実践的な授業をファントムに直訴。

望まずして表現者の道を断たれ、内心は舞台に未練タラタラのファントムには、さらさ達の気持ちがわかる。

そこで、ファントム自身の意見として、予科生の演劇授業に「実践を採り入れては?」と発議。

紅華を愛し、いまや紅華の重鎮となった元・少年は激怒。

傷ついたんでしょうね。
否定された気持ちになったのかもしれません。

己のやり方を。
良かれと思って構築したことを。
……紅華へ捧げてきた愛を。

ところが、さらさと出会って話していて、実は生徒達の希望だと知ります。

ファントムは生徒達を庇い、己の提案として会議にはかった事に気づきます。

「オスカル様になります!」…と、ここでもオスカル様宣言(それって、ほとんどトップ宣言)をかます渡辺さらさ。

無邪気で真っ直ぐなさらさに、かつての己が姿を重ねたのかもしれませんね。

おじいちゃんは花の道近くの花屋で白薔薇を買い、さらさに一輪プレゼント。

白薔薇はオスカルの象徴です。

さらさと別れ、紅華少年が向かった先は病室。

「今日は面白い子に会ったよ」

ベッドに身体を預ける人に、彼は語りかけます。

「でも、これは君にこそふさわしい」

穏やかに微笑む永遠のプリンスに、白薔薇を捧げました。

……私の大好きなエピソードであり、場面です。

この後、演技の実践授業が始まり、選ばれた演目は『ロミオとジュリエット』

ロミジュリといえば、小池修一郎先生が手掛けた近年のバージョンが思い浮かびがちですが。

その前身にあたる、オーソドックスな『ロミオとジュリエット』を手掛けられたのは柴田先生だったんですね。

個人的に、この元・紅華少年には、もうお一方より柴田先生を色濃く重ねています。

眼病に冒され、視力低下してからも、口述筆記で劇作家の仕事を続けられた柴田先生。
歌劇団や音楽学校で、生徒達に直接指導を続けた柴田先生。
現場主義を貫くお姿に、泥臭く熱い魂を感じます。

現場にこだわる情熱。
数多の名作・傑作を生み出してなお、現場に関わり続けた柴田先生。
舞台を創っていく生徒を育成し続けた柴田先生。

その姿勢こそが、生徒やファンから尊敬を集める所以だろうと感じています。

『かげきしょうじょ‼︎』を読むたび、思い起こすたび、柴田先生を思い出します。

今までも。
これからも、ずっと。

柴田侑宏先生のご冥福を心よりお祈りいたします。

▽合掌…
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