2019年1月14日(日)観劇した、 月組バウホール公演『アンナ・カレーニナ』キャスト別感想の続き。
 
ネタバレを含みますので、まだ知りたくない方は読まないで下さいね。
 
★きよら羽龍(104期・研1)
 
アンナの兄嫁の妹・キティ役
 
研1にして注目の大抜擢。
音楽学校104期生文化祭(2018年2月)の演劇で、ヒロイン格にあたる主人公の妹役を演じていた羽龍さん。
文化祭で拝見していたので、ある程度、予測して臨みました。
 
落ち着いた発声で、台詞も歌詞も聴き取りやすかったです。
昨年2月、文化祭の感想でも書きましたが、声質がややスモーキー。
喩えるなら、Perfumeのかしゆか系の声と申しますか。
キンキン高い声に比べたら、聴き取りやすい声です。
今回の舞台では、より高く可愛らしい声を出そうと努めていたように感じましたが、きよら羽龍オリジナルの声で良いと思います。
 
歌も芝居も落ち着いて披露できていました。
ただ、文化祭を観た印象ではダンサーだったので、踊れる役の方が本領発揮できたかもしれません。
 
アンナ(海乃美月)とキティは、叔母と姪であると同時に、アリョーシャ(美弥るりか)を巡る恋敵。
アンナとキティは、観客から「比較」の視線を受ける事になります。
 
「アンナを引き立てる」という視点では、羽龍さんの役作りは成功していると言えそうです。
 
羽龍さんは可愛いんですよ?
でも、アンナを演じているのは海乃美月。
大人の色香と、少女の可憐さを併せ持つ演技派ヒロイン。
美弥アリョーシャがなびくのも分かるかな…と。
 
本当はあまり比較したくないのですが…対比を見せる役柄に対する感想なので、避けて通れませんでした。
ごめんなさい。
 
きよらさん単体としては、充分に健闘していたと思います。
上級生相手に姉として演技するところなど、ちゃんとお姉さんに見えていました。
 
研1でメインキャストへの抜擢は、プレッシャーが凄いことでしょう。
頑張ったはるな、と思いました。
 
 
★夢奈瑠音(96期・研9)
 
キティに求婚する、コンスタンチン・レーヴィン役(コスチャ)
 
夢奈瑠音のコスチャは、純朴で誠実な好青年。
キティへの一途な想いが沁みわたってきます。
 
朴訥として不器用そうですが、キティの気持ちも含め、様々なことを読み取った上で、キティに愛を捧げ、求婚します。
 
ただ、けっこう諦めも良くて、キティがまごまごしてる間に立ち去ってしまったり。
 
キティの中でコスチャへの気持ちが変容し、失いたくない人になっていきますが、お互いに「遅きに失した」と思い、行動に移せなかったり。
 
そんな時、周りがきっかけを作ってくれて、本当に良かったなぁ…とホッとしました。
 
夢奈コスチャ&きよらキティのカップルは、美弥アリョーシャ&海乃アンナのカップルと対照的。
 
前者は太陽の下、天下の公道を笑顔で歩いていける恋人、そして夫婦に。
 
後者は罪悪感と恋情に身を焦がしながら、暗闇に身を潜める背徳の恋人。
 
原作者のトルストイは意図的に、両極端なカップルを設定したのでしょうね。
 
おそらく、コスチャ&キティのような生き方を、暗に薦めているのでしょう……か?
 
道義的な面からも、現実社会での幸福を目指すなら、 そりゃそうですよね。
 
……私なら……そうですね、どちらでも良いかな。
 
コスチャ&キティや、アリョーシャ&アンナ以外のケースも含めて。
 
大切なのは、誰と出会うか。
 
魂が震えるような相手と出会えても、すんなり結ばれるとは限りません。
様々な面でタイミングや条件が合えば良いけれど。
 
例えば、その人が既婚者だったり、同性だったり、年齢がうんと離れていたり…という、現代日本ではハードルが高い状況かもしれない。
 
あるいは、相手がアプローチしてくれる時はピンと来なくて、振り向いた時にはもう違う方向を向いていたり…。
(『風と共に去りぬ』のレット・バトラーとスカーレット・オハラは、このパターン)
 
コスチャとキティは「互いにタイミングが合い、スムーズに結ばれ、周囲にも祝福される」とても幸運な二人だと思います。
 
では、アンナとアリョーシャが不幸かといえば、あながちそうとも言えません。
 
情熱を、愛情の強さだと思う人は多いですよね。
彼らの恋は障害に阻まれたがゆえに、情熱の炎はいやましに燃え盛ったことでしょう。
 
それ以前に、互いに惹かれあう相手と出会えた事が、すでに大いなる奇跡なのですから。
 
何が幸福で、何が不幸なのか?
それは本人にしか判らないことでしょう。
恋愛に限らず、感情には、善悪も正誤もないのですから。
 
アリョーシャとアンナをくっきり浮かび上がらせてくれた、コスチャとキティ。
ほのぼの愛らしいカップルでした。
 
宝塚版から少し逸れますが、『アンナ・カレーニナ』原作では、コスチャはアンナに次ぐ重要人物といえるかもしれません。
 
アンナとコスチャは、物語の中では ほぼ交わる事はありません。
 
ですが、それぞれの出番や描写はかなり多い。
コスチャは、ヒロイン・アンナに迫る勢いで、その人物像や生き様が描かれています。
 
都会に住み、高級官僚の妻として社交界で生きるアンナ。
 
領地(田園)に住み、農場を経営しながら、農地改革を目指すコスチャ。
 
原作者のトルストイは、アンナとコスチャを裏表・陰陽のように対比して描くことで、読者に与える印象をより深めようとしたのでしょう。  
 
私は、アンナと夫・カレーニンもまた、対照的で陰陽の関係にあると感じています。
 
混同しがちな 恋(エロス)と愛(アガペ)を分けて考えてみると、アンナはエロス、カレーニンはアガペを象徴するように思えます。
 
アリョーシャへの恋慕に心身を灼き尽くしたアンナ。
 
己を裏切った妻を許し、不貞の子を慈しみ育てるカレーニン。
 
カレーニンの境地は凄すぎて、私には程遠い境地ですが…。
 
なお、エロスは心身の愉悦を伴う愛。
アガペは神に通じる愛、転じて無償の愛をさします。
 
宗教観に根付いた表現なので、日本人には今一つピンとこない面もありますが、ざっくりニュアンスで。
 
 
★英かおと(99期・研6)
 
アリョーシャの友人:セルブホフスコイ役
 
等身大の爽やか好青年。
熱烈な恋愛は知らないものの、婚約者を大切にする青年将校。
 
英さんは月組では大柄ですね。
大型犬を思わせる、素直さとおおらかさを感じます。
 
声がやや高く、男役の声としては成長途中。
若々しさ、真っ直ぐな気質を備えた若者の役がよく似合っていました。
 
不倫に身を投じ、鬱屈したアリョーシャと対照的な青年将校。
アリョーシャの苦悩を浮き彫りにするにあたり、英さんの明るさはナイス・アシストとなっていました。
 
デュエットダンスを踊る場では、娘役さんを包み込むようにリードしていました。
 
 
★美穂圭子(専科・75期)
 
凛とした美声と美貌、確かな演技力を備えた美穂さん。
美穂さんがいると、舞台が締まります。
 
歌声は天使…というより、ディーヴァ(女神)
クリスティーヌが成長した姿かもしれませんね。
(はい、作品違いますよー?)
 
 
★五峰亜季(専科・72期)
 
アリョーシャの母親役。
美形親子ですね。
 
五峰さんは明るくキュートなイメージですが、本作ではちょっと厳しい表情も見せます。
そりゃそうだ、息子の幸せを願えばこそですよね。
 
でも、オープニング登場時など、五峰さんの愛らしさ、温かさが溢れてくるようでした。
列車で同席したアンナを気に入り、楽しそうでしたよね。
 
アンナが独身なら、万々歳でしたのに…と、残念に思わずにいられません。
そうしたら、五峰ママも笑顔でいられたのにね。
 
 
★影ソロ
 
今回、何箇所か影ソロがありました。
綺麗な歌声が気になり、プログラム購入。
…したのに、名前が未記載。
 
大劇場公演なら、プログラムに影ソロも記載されてるのに。
バウホールのプログラムはページ数が少ないからかな。
 
特に気になった影ソロは、2幕のイタリアの場に流れる『君よ知るや南の国』
 
ゲーテの小説『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』の中の一節に登場する旅芸人一座の少女・ミニヨン。
 
彼女をヒロインに据えたオペラ『ミニヨン』で歌われる『君よ知るや南の国』
 
透明感ある声は、澄み切った青空のよう。
愛らしさ、甘さ、爽やかさをミックスした綺麗な声。
南アルプス天然レモン水のような。
 
クリスティーヌの歌声を初めて聴いたエリックの気持ちがわかりました。
 
メインキャストのアンナ(海乃)、キティ(きよら)とは別の声でした。
 
誰なの??
誰なのーーー??
 
声フェチとしては、気になって仕方ない。
 
次回大劇場公演で、ミニヨン(仮名)がまた歌ってくれますように…!(祈願)
 
 
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