『かげきしょうじょ!!』(斉木久美子/白泉社メロディ連載中)について、続き。
 
本科生・野島聖は、予科生・奈良田愛の分担さんでしたね。
(作中で、分担さんという呼び方はしてませんが)
 
聖が、予科生・渡辺さらさの掃除チェックをしていた姿が刷り込まれ、混同してました。
教えて下さって、ありがとうございました。
 
『かげきしょうじょ!!』は宝塚歌劇団および音楽学校をモデルにしています。
 
沿革・建物・システム・ルールなどなど、様々な面で「宝塚」を彷彿とします。
 
大劇場はもちろん、花の道とそこにあるベンチやオスカル様の彫像、音楽学校のそばに花屋があったり、細かい周辺環境までそっくり。
 
ただ、微妙に異なる点もありまして。
 
例えば、さらさは花の道を歩いています。
宝塚歌劇団では、音楽学校の生徒や劇団員は退団するまで歩けませんよね。
 
作中に登場する各組トップスターがそれぞれ「あの人がモデルだろうな」と思わせる…というコメントを頂きました。
 
そうそう、私もそれ思ってました!
 
しかも、予言のような面もありましたよね…。
(斉木先生、さりげなく千里眼)
 
冬組の新トップスター・里美星(超歌ウマ)のトップお披露目公演が『ファントム』とか。
 
星がトップになる前に演じていた役柄も、なかなかアクが強い敵役だったりしてね。
 
某寒そうな組の超歌うまトップさんも、二番手以下の時代はなかなか濃い役をなさっていた印象が強うございました。
 
お披露目作ではないけれど、『ファントム』も絶賛上演中ですね。
お正月公演というところまで一緒。
(紅華は本拠地・神戸の劇場で、宝塚は本拠地ではなく、東京劇場ですが、お正月公演には変わりなし)
 
夏組の椎名玲央は、宝塚でレジェンドと呼ばれた、あの御方の面影が…。
 
1巻冒頭で、夏組新作を観たさらさ達がぽ~っとなってましたね。
ポーカーフェイスの奈良っちまで、頬を紅く染めていて。
 
「芝居の秋組」の美月圭人は、現在の TOP of TOP がモデルかな…と。
 
常にふんわり優しく微笑んでいる貴公子イメージですが、去り際の表情と科白にズッキュンきますね。
 
もうお一方は、どなたがモデルなのかなぁ…?
 
2月号では、本科生の文化祭で、予科生がコーラスと寸劇を発表。
 
寸劇は『ロミオとジュリエット』の一部抜粋版を、オーディションで選ばれた4名が披露。
 
ロミオ、ジュリエット、ティボルト、乳母の4役。
 
この作品についても、シーズンゼロ及び1巻から引っ張ってますね。
 
役を演じる事を通して、発見や成長が描かれるのは、演劇物のお決まりパターン。
 
しかし、本作は同じ作品・同じ役を、異なるシチュエーションで複数に渡ってトライする。
 
同じ役でも、向き合い方によって、まるで別モノへと変化する。
 
まるで、パッヘルべルのカノンのよう。
 
あるいは、ラヴェルのボレロのよう。
 
同じ旋律(主題)を繰り返し、繰り返し奏でる。
 
同じ旋律なのに、繰り返されるたび、異なる印象を受けます。
 
紅華乙女たちも、同じ作品・役に何度も向き合います。
 
その都度、傷ついたり、落ち込んだり、挑んだり、希望を掴んだり……。
 
役に向き合うたび、鍛えられ、磨かれていく姿が眩しくもあり、切なくもあり…。
 
同じ作品・役だからこそ、向き合うたびに、各人物の姿勢や視点が変化していく様が、よりクリアに伝わるのかもしれません。
 
 
そして、忘れちゃいけないのが歌舞伎。
 
さらさは元々、歌舞伎の助六になりたかった女の子。
 
「女の子は助六にはなれないんだよ」
 
その言葉は呪いとなり、さらさを苦しめました。
舞や謡が大好きなさらさは、熱心に通っていたお稽古から遠のきます。
 
そんなさらさに「紅華歌劇団ごっこをしよう」と声を掛けてくれた祖母。
 
男性だけの歌舞伎。
女性だけの紅華歌劇団。
 
歌舞伎の始祖は女性だし、江戸時代のある時期までは女性の歌舞伎もあったんですけどね。
 
同様に、宝塚は男性の団員がいた時期もあるそうですが……幻の宝塚ボーイズ。
 
…という事もありつつ、歌舞伎と宝塚をクロスオーバーさせてる点も興味深い。
 
歌舞伎は口伝で、より忠実な模倣を以って、いにしえの名優の芸を再現させる。
 
紅華歌劇団では、一人一人の個性や違いが「魅力(セールスポイント)」になる。
(宝塚でも、そうですね)
 
今迄も、宝塚歌劇を題材にしたヒロインの成長物語はありました。
 
でも、歌舞伎との対比にしろ、一人一人の心理描写と変化にしろ、濃密なんですよね。
 
宝塚やマンガやアニメやゲームの小ネタをポンポン入れて来たり、マニアックですしね。
 
ローズ・ベルタンの名を、ベルサイユのばら以外で目にしようとは…!
 
…でも、小ネタの出処や意味を知らなくても、ちゃんと楽しめて、支障なし。
 
視点をどこに置くかで、その人が見えて来たりしますが、斉木先生は複眼的だなと思います。
 
絵がポップで可愛いし、重くなり過ぎず読ませてくれます。
 
メインの渡辺さらさと奈良田愛の育った環境設定は、それ自体がドラマティック。
 
「幼い頃から苦労してきたんだね」と言われそうな背景を背負っていますが、本人達は淡々と受け容れ、まっすぐ育っています。
 
不幸をはね返して頑張るぞ!…と肩に力を入れる事もなく。
むしろ、己の出自を取り立てて不幸とも思ってなさそう。
 
そういう心理描写は、むしろリアルに映ります。
 
子どもにとって、己の置かれた状況こそが現実であり、世界の全てだから。
 
成長するにつれ、比較するようになり、嫉妬や羨望といった感情も生まれてくるにせよ。
 
多くの作家は、主人公をより劇的に描こうとして、主に出自や幼少期の不幸設定を盛り込みがち。
 
『かげきしょうじょ!!』も最初、そのクチかと思いましたが、どうやら、そう単純でもなさそう。
 
不思議なリアリズムに満ちた、フィクションだと思います。
 
 
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