雪組『ファントム』を先週末、東京宝塚劇場で観劇しました。

感想の前に、奏乃はると副組長のご快癒と舞台復帰おめでとうございます。
昨日5日(火)より舞台に再び立たれているとの事。  

 奏乃さんのジャン・クロードを生で拝見できなかったのは残念でしたが、回復されて良かったです。
代役の橘幸演じる、ジャン・クロード(本役:奏乃はると)も頑張っておいででした。

(代役さん変更したんですね)
(最初の発表では、新公でジャン・クロードを演じた鳳華はるなでした)

楽屋番は、オペラ座の団員にとって、頼れる父か兄のような存在。
奏乃ジャン・クロードがどっしり構えたお父さんなら、橘ジャン・クロードは軽快なお兄さんでしょうか。


さて、雪組『ファントム』感想です。

宝塚大劇場の頃と比べ、いろいろ変化がありました。

ただ、一概に「東京に行ってから、より良くなった」という訳ではありません。

「宝塚公演を経て、東京公演ではより深まった」という表現をよく耳にしますが、それとも違うような。

宝塚大劇場の時点で、極めて高いレベルの公演でした。

…なので、変化する事がすなわち成長・向上という意味ではなくて…。

…あ、もちろん、組子さん達のチカラは、トップコンビに引き上げられ、上達していました。
それはすごく思いました。

表現のバリエーションの広がりを見せた。
宝塚大劇場とは、また違った風合いを感じる。

…といった感じでしょうか。

望海風斗演じるエリックは、よりピュアな少年性が強まりました。

彼はまさしく幻想の王国に住む少年王。
(年齢的には青年ですが)

クリスティーヌを地下の森に招いたエリックは、初恋に胸震わせる少年そのもの。

また、キャリエールが父だと認める、父子の対面の場。
エリックは繊細なガラスの少年でした。

クリスティーヌを相手に音楽を指南する場、カルロッタを殺害する場、森の場、キャリエールとの銀橋など、場や対峙する相手によって、人格が切り替わるかのように変化していくエリック。

スイッチングが、さらに極端で鮮明になっているように感じました。

そこに、エリックの知能の高さと同時に、幼さや純粋さを感じました。

愛している人が傷つけられたからといって、加害者を殺す人は少ないでしょう。
たとえ、八つ裂きにしたいと思ったとしても、実行に移す人は僅かでしょう。

それは法治国家で育ったからかと。
社会的に抑制された、学習効果という面が強いのかな…と。

一般社会と隔絶されて育ったエリックにとって、正義は法律にあらず。
己の愛と信念に宿る感情が、判断基準となっているのでしょう。

そんな独特な自我をもつエリックを、望海風斗はより鮮やかに描出しています。

望海風斗にとって、歌も台詞も、エリックの感情を吐露する手段。

中には、ほぼ歌になっていない歌もあります。

嗚咽しながら、たどたどしく、愛を渇望する歌…というより、祈り。

でも、ちゃんと言葉がわかるのが凄い。
通じるんです、気持ちが。
何を伝えたいのか、わかる。

望海さんの歌を堪能するなら、宝塚バージョンの方が歌として聴かせてくれる割合が高いです。

ですが、芝居として観るなら、東京バージョンでしょうか。

ラスト、息も絶え絶えの望海風斗と、胸が詰まった真彩希帆の最期のデュエット。

二人とも、吐息のような微かな声なのに、ちゃんと何を歌っているか分かる。

これもまた、超絶技巧の歌唱ですね。

望海と真彩は声量もあり、滑舌も良く、伸びやかで艶やかな素晴らしい声をしている。

そして、どんな状態でも、観客に届くように歌う。

これは基本であるにも関わらず、最も難しいポイントかもしれません。

どんな状況でも、ちゃんと伝わる声。
伝わる気持ち。

望海風斗のエリックと、真彩希帆のクリスティーヌは奇跡のコンビだと、改めて実感した観劇となりました。

望海さんの歌は、いまや異次元。
劇場全体を響かせ、まるで劇場そのものが歌っているかのよう。

加えて、オーケストラも素晴らしかったです。

宝塚は『オケが演者に合わせる』のに対し、東京では『演者がオケに合わせる』印象がありました。

めったに東京劇場へ行かないので、たまたまかもしれませんが…。
例えば、雪組『ケイレブ・ハント』新公の時とか、永久輝せあがや星南のぞみが必死でオケに合わせていた印象が。

雪組『ファントム』では宝塚と同じく、オケが演者の呼吸を読み、合わせていました。

例えば、遊び心と迫力が濃密なカルロッタのナンバーでは、宝塚同様にバッチリ呼吸を汲み取っていました。

演者の呼吸を的確に読み取る、指揮者・西野淳先生。
それの指示出しにピタリと応える、オーケストラ。
どちらも、さりげなくすごい…と感服いたしました。

同時に、それが当たり前の宝塚大劇場の指揮者とオーケストラについても、改めて敬服しました。

オーケストラ・ピットにピアノがある!…事も衝撃でした。

シンセサイザーでピアノの音声も作れるのに、本物の…しかも、アップライトではなくグランドピアノ!…があるなんて。

タカラヅカの本物志向を垣間見ました。

音響調整をしているスタッフにも拍手。

東西の劇場にいるスタッフ陣の協力あってこそ、望海風斗と真彩希帆はじめ、雪組生が生み出すファントムの音楽世界が成立しているんですね。

そして、東京公演直前に退団が発表された、優美せりな(101期・研4)
大人びた美貌と、高い歌唱力を持つ娘役さんです。

せりなちゃんは『Bow Singing workshop』でソロ『キス・ミー・ケイト』を披露。
同期の縣千とデュエットも。
『恋の笹舟』だったかな?

柔らかく美しい声の持ち主・せりなちゃん。
研4での早すぎる退団が惜しまれます。
せめて影ソロでも良いから、せりなちゃんの歌声を劇場に響かせてほしかった…!

今回、ロケットセンターを務めているのは、縣千。
立派なオカマっぷりを見せつけてくれてます。

身体能力がめっちゃ高い、キレの良いダンス。
脚とか、どんだけ上がるの?!

ウィンクも投げキッスも攻めの姿勢を感じます。
オネエの皮を被ったオトコ!!…みたいな。

ホント、『男役さんの女装』感が半端ない縣くんです。(褒めてます)

東京公演からは、ロケットセンターを縣くんと分け合う形となった、せりなちゃん。

いっそ、縣くんはタキシードで登場して、せりなちゃんをリフトすれば良いのに、なんて。

見送る縣くんも切ないよね、きっと。

同期からのお花渡しは、101期生全員でせりなちゃんを囲むのか?
それとも、雪組101期首席の縣くんが代表して渡すのかな。

『ファントム』が終わると思うと、何かと寂しい。
奇跡的に素晴らしい公演、まだまだ続いてほしい。
ずっとこのまま、終わらないでほしいなぁ…。

……もうありませんけどね、チケット…(^◇^;)


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