ある地域では、
家にカメムシが出ると、
「良い嫁さん、良い嫁さん」
と唱えるらしい。
そうすると、カメムシが臭くならない
という迷信があるという。
この話を聞いた時、私は少しハッとした。
昔の日本の農村の泥臭さを感じたのだ。
決して悪い意味ではない(良い意味でもないが)
嫁さんは、「良い嫁さん良い嫁さん」と言わなくては、カメムシのように問答無用で臭くなる存在なのかな?
と。
カメムシをお嫁さんになぞらえるらその呪文の奥に、
当然のように嫁さんを家の中の異分子扱いしている心が見える。
まるで家への突然の闖入者であるカメムシのように扱われる疎外感
そんな扱いを、おそらく昔の農村のお嫁さんは受けてきたのだろう…
都会の人はあまりご存知ないだろうが、
田舎の山間部には、心の狂ってしまったお年寄りが沢山封印されている。
(まあ、うちの親も似たようなものなのだが)
現代的な人権意識など、頑なな因習の前では歯も立たなくて、そんな疎外感を当然のように押し付けられた時代に、人生で一番変化を受け入れられたはずの若い時期を抑圧され続け、
その後世間に現実的な意識が広まる頃には、冷え固まった金属のようなお年寄りになり、そのまま山間部に取り残され、もはや呪いをふりまくbotと化した史跡のようなお年寄り。
カメムシにまつわるその話は、
そんな昭和の仄暗い因習を、ふいにフラッシュバックさせられた逸話だった。
しかし、おそらく私の世代が、この昭和的空気感と接触した最後の世代だ。
平成二桁生まれ以降の若者は、たぶんその呪文を聞いても「ウケる〜w」だけで終わるだろう。