大晦日、そして新年
12月31日。
俺は仕事を終えて、午後10時過ぎに帰宅した。
娘とその母親は、風呂に入っていた。
俺は居間で、飯を食いながらTVを観た。
この前TVを観たのは、いったいいつのことだったのか。
この家の中で、おれがTVを見ることは許されなかった。
TVを観ている暇があるくらいなら~
これが、娘の母親の常套句だ。
俺は、格闘技をただ眺めていた。
大して面白くもなかった。
いつもは、この居間は、娘とその母親の居場所だった。
普段の日は、俺は帰宅すると、その隣のキッチンで飯を食い、そのまま自室で寝る。
キッチンで、娘とその母親の、楽しげな談笑が俺に耳に入ったが、どこか別の母子のような気がした。
今日は、大晦日だった。
こんな日ぐらい、娘の顔を見ながら、飯を食い、TVをだらだらと観るのも、悪くないだろう。
それくらい、許されるはずだろう?
まもなく、娘が居間に入ってきた。
久しぶりに、娘の顔を見た気がした。
娘は、俺を見て、笑った。
「ご飯は食べたのか」
俺が娘に聞くと、娘は、それと同じものを食ったといった。
今夜は、俺も分も、おかずがあったのだ。
娘とのひと時も、一瞬で終わった。
娘の母親が、乱暴にドアを開け、居間に入り、大きな音を立て、乱暴にドアを閉めた。
娘は、母親のほうへ視線を向け、それから俺の方を見つめた。
娘の、微かな、困惑の表情。
俺は、おかずと飯を持って、居間を出た。
自室へ戻り、残りの飯を腹に収めると、風呂に入った。
元旦は、バイトも仕事も休みだった。
久しぶりに、ゆっくりと夜を過ごせる筈だったが、俺は知らぬ間に、風呂で眠ってしまった。
目覚めると、湯が冷めてしまっていた。
沸かしなおし、もう一度温まると、またしても、眠りに落ちそうになった。
俺は風呂を出て、そのまま布団にもぐりこんだ。
元旦。
目覚めると、誰もいなかった。
部屋の中には、昨夜、脱衣場で脱ぎ捨てたワイシャツと、俺が使ったバスタオルが投げ捨てられていた。
年明け早々に、やってくれるよ。
屑野郎が。
静かな元旦だ。
俺の望んでいたことだった。
俺は猫を抱き上げ、TVをつけた。
何年か前の元旦に、観た番組と同じようなものが、流れていた。
お笑い芸人が着物を着て司会をし、俺でもわかるような、昔の芸人がコントを演じる。
それ自体は面白かったが、見たこともない芸人が出てきて、俺は興味を失い、TVを消した。
自室へ戻り、PCを起動する。
元旦早々、PCもないだろう。
自嘲気味につぶやいてみたが、それ以外、やることもなかったのだった。
本も。
映画も。
そんな大好きだったものに触れるのも、いまや面倒だった。
俺は疲れていた。
二日から、
普段と変わらない、日常がやってくる。
うんざりな、日常が。
読者の皆様。
あけまして、おめでとうございます。
読者の皆様の2010年が、輝かしいものでありますように!!