奴隷に、休息などありはしない | 日々を生きる。~大切なものを失って得たもの。

奴隷に、休息などありはしない

俺は夢を観ていた。


車の車窓から、俺は外を眺めている。


地面から、鉄骨が生え、早廻し映像のように赤錆色のビルディングが、次々と伸びてゆく。



何棟も。


無数に。



遠くに見える崖にも、同じように高層建築物が、崖に纏わりつくように屹立していた。


あっという間に、視界は、錆ついた、胸の悪くなるような景色で、覆い尽くされた。


どこからともなく、声が聞こえた。


まるで何かのキャンペーンCMを見ているようだった。



急速な産業の発達が、


あなたの感性と、


人間性と、


視界を奪ってゆく。


美しいものを、


感じるこころを。



海岸に聳える奇妙なビル。


L字型の建物だった。


日の光を照り返し、どす黒い、鈍い光を放っている。


真横から見ても、真上から見ても、L字型をしていた。


車道は、その建物の下を潜る様に続いていた。


全面ガラス張りのそのビルディングを見ながら、俺は以前観た夢で、


この建物の中の一室に、滞在したことがあるのを思い出していた。


広大な広さで、とんでもなく豪奢なつくりの部屋だった。


ということは、これはホテルか?



俺はそこで、目を覚ました。




外から日の光が注ぎ、部屋の中はほのかに明るい。



汚れた鍋。


粉々に砕けた衣装ケース。


そのままだった。



疲労のためか、またもや眠りに落ちようとした瞬間、


扉が乱暴に引き開けられた。



娘の母親だった。


「何で私が、朝食を作らないかわかる!あんたが夜遅く帰宅して、


パソコンか何かをやっているからよ!そんなことをしている人に、


何で私が朝ごはんを作らなくてはならないわけ!」



俺は何も答えなかった。



仕事が終わり、自宅でほっと一息、わずかな自由時間を過ごす事も俺には許されないのか?



この家の中で、俺の自由は、一切ないということなのか?


ここで俺に許された行動は、



飯を食うこと。


寝ること。


風呂に入ること。


自分の洗濯物を洗うこと。


自分の使った皿を洗うこと。



それだけだった。




奴隷ごときに、己の人生を謳歌するなど、許さない。


われのために、死ぬ気で奉仕せよ。


当然だが、それによって死んでも当方に責任はない。


最後にもう一度繰り返す。


何も、楽しむな。




娘の母親は、明確にそう伝えている。



鈍痛が、頭の中にわだかまっていた。


それでも、病院へ行く時間がなかった。



俺は、仕事へ出かけた。



やりたいことが、何一つかなわない世界。


それがたわいのないことであっても。



俺は何のために、働いているのか?


健康や、自分自身のすべてを犠牲にして働き、


わずかな安息の時間さえ否定される。




これは、死に等しい。


俺は、生きながらに、死んでいる。



もう、


終わっていた。


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