富士市議会報告です。
11月定例会では25名の方から質問通告があり、5日間の論戦が繰り広げられました。
特徴的だったのは25名のうちの6名が富士市内の様々な分野での「人手不足」や「人材難」について取り上げていたことです。
僕は「富士市の技術系職員の充足状況等について」というテーマで質問させて頂きました。
まず、アーサールイスの提唱した「ルイスの転換点」という学説を紹介しました。
これは社会が工業化の過程で、余剰労働力が都市部に移動して農業労働力が不足に転じた現象を指します。
この転換点を超えて、かつて賃金の急上昇や労働力不足がおこりました。
日本は、情報化社会の到来によって、今まさに新たな「ルイスの転換点」を迎えたのではないか。
そう考えないと、昨今の人件費の高騰、人手不足は説明できないと思います。
次にリクルートワークス研究所の古屋研究員の
「労働供給制約社会」への処方箋〜働き手不足1100万人が引き起こす危機と希望~という著作の骨子を説明しました。
実は以前、古屋先生のお話を直接聞いたことがあります。
日本社会に何が起こっているのか?
・老朽化や技術者不足で満身創痍の公共インフラ
・観光、飲食…人手取り合い 企業の5割が正社員不足
・教員不足 今年5月時点で2800人不足(国の調査比36%増で深刻化)
・自衛官が足りない 防衛力の抜本的強化の中の少子化 慢性的な人不足
・警察官志望者の減少顕著 静岡県内各署 業務体験など呼び込みに工夫
・介護職 4200人不足 富山県知事答弁「人材確保 喫緊の課題」
最後に
「経営者の皆様に申し上げます。今年の採用が1番楽ですよ」
「来年、再来年、5年10年後の採用はもっと大変です」
と呼び掛けていらっしゃいました。
総務省は2023年4月現在、全市区町村のうち、約39%で建築技師が、約26%で土木技師が不在であるとの公表をしています。
全国に1740ある市町村のうち、建築士がいない自治体が700以上、土木系の職員がいない自治体が500以上あるということです。
ここだけの話ですが、実は、田舎での職員採用には、構造的な問題があります。農村部漁村部といった田舎では、最も大きな就職先が「役場」だったりします。次男坊、三男坊を何とか役場に押し込もうとすることで、事務職に対して技術系職員の採用が後回しにされてきたのです。
多様な就職先がある、富士市のようなものづくりのまちは、実は恵まれていたのです。
しかし、情報化社会の到来によって、従来の工業社会は、今まさに新たな「ルイスの転換点」を迎えました。
富士市では若手の土木系職員を確保するため、土木の専門試験を課さない採用方法を取り入れるなどの工夫を始めています。
そうした人材の確保・育成策により技術系職員を増やす一方、デジタルトランスフォーメーションにより働き方自体を見直したり、外注できるものは民間に任せるなどの工夫も必要でないかと提案するために今回、質問しました。
Q:土木の専門試験を課さない採用方法を導入した人材確保の効果は?
A:8名の人材確保が出来た
Q:現在、新病院の設計を控えているが、今後の建築技師の充足状況の見通しは?
A:残念ながら1名の採用にとどまっている
建築系が全く足りていません。
小さな建築の設計業務は外注に出して行かないと、回って行きませんよ、外部の団体と技術交流をすすめて、支援を求めて下さいと申し上げました。
Q:令和2年11月議会で、少規模工事の対象金額を県レベルの2000万も勘案しながら、前向きに検討するとの答弁があったが、そうした改善は技術系職員の負担を軽減するためにも、早急に実行すべきではないか?
A:業界団体の要望もあり、その方向で検討中
小規模工事に指定されると、提出書類が簡素化され、施工する方も検査する方も仕事が楽になります。
実は、静岡県の書類の簡素化は、今では2000万円ではなく3500万円まで引き上げられてきています。
そして、来年度以降、これを1億円まで上げていく動きがあることを、県の通達を引用してお知らせしました。
監督・検査の合理化等の推進を、国は建設業働き方改革加速化プログラムによって示しています。
県はこれにさらに従おうというのです。
同じ公共工事でも、県発注の工事に対して、富士市発注工事の利益率は半分にとどまっています。
単価も歩掛も一緒なのに、なぜそうなるのか。
書類の煩雑さによって、職員を余分につけなければならないからです。
検査時間も市と県では概ね3倍の差があります。
人手が足りないのに、自分で自分の首を絞めています。
なぜ、書類の簡素化が出来ないのか?
これもここだけの話ですが、「会計検査院の検査にあたった場合こまるから」と仰る方がいました。
自分が行った検査の適切性を、会計検査院にたいして自らは証明できないという話です。
「会計検査院は市町村には細かく聞いてくる」とも言われましたので、会計検査院に問い合わせてみました。
「県と市町で会計検査を行う工事金額には差はない。そもそも県と市町で差をつけるような差別的な取り扱いは出来ない」
との回答でした。
他の公共団体での失敗事例があります。
人手が足りないため、そこでは「専門員」という形で、退職職員を検査部署に再任用しました。
ところが、デジタル変革の波について行けず、測量が座標データで表されていて、正しい面積まで提示されているのに、それを三角形に細かく分解して、いわゆる「ヘロンの定理」に従って、電卓で計算しないと正しいかどうかわからないと言い出して、職員たちは泣く泣く手計算を繰り返したそうです。
富士市は今回、若手の土木系職員を確保するため、専門試験を課さずに、採用後に自ら人材育成を行う方針を立て、8名の人材確保に成功しました。
しかし、先ほどの失敗事例のような考え方で、
こうした新人を潰すことの無いよう、心から願っています。
