黒く光るアイツ | 伊達謙一のときには雑草のように、ときには向日葵のように

先日抜いた親知らずのクレーター跡が痛くて朝4時半に目が覚めてしまい、寝ようと思ってもあまりにジクジクと痛むので、一日に2回までと使用制限をかけられていた鎮痛剤の5度目の服用をすべく、台所へ行き水を汲んで薬を胃に流し込んだ瞬間、目の前にチラとなにか影がよぎったように見えた。ちょうど目線の正面には細いコードを引っ張って電気をつける、昔ながらのキッチンにはおなじみの蛍光灯があったので、そのコードをなにか見間違えたのかなと思ったのですが、なにか私の中のレーダーが反応したので明かりをつけて見ました。


何もいません。音も何もしない。耳を澄ませば時計のかっちかっちという音が聞こえてきそうな静かな午前4時半です。


静寂。


しかし私の中のレーダーが何かを告げている…。

恐る恐る目線の高さにある調理道具棚に顔を近づけ、粉末のかつおだしの大きな箱の裏を覗いてみる。

壁に頭がぶつかるため、かつおだしの箱の裏側が半分くらいまでしか角度的に見えないが何もいない。


「ふ…気のせいか」


何もいないと安心したが、なにげなく最後のダメ押しでかつおだしの箱を壁のほうにトンと押してみる。









出た。














ちょっと大きめな黒い物体が………出た。







結構なすばやさで、出てきた。








5月くらいから暖かくなってきたせいか、月の遭遇率が日割り計算でも1割ほど…今年はやけに出る。




落ち着け!こんなときこそ冷静に…落ち着けっ!




基本的にクモでもムカデでもまあ平気な僕ですがコイツだけは怖い。ものすごいダメ。

しかし、自分の身は自分で、自分の家は自分で守らねばっ!


黒く光るヤツは迷うことなく、壁を右側に直進。物理法則を完全に無視した忍者顔負けの壁走りを披露して

冷蔵庫の裏の死角へと入り込もうとします。


「いかん!このままみすみす逃すわけにはっ!」


しかし何を思ったかヤツは冷蔵庫の裏の壁と壁のぶつかるとこ。数式で言うとXとYの交わる点の所でぴたりと動きを止めた。ちょうどそこにはこちら側から見て後ろが隠れるように出っ張りのようなものがあり、ヤツはその裏でこの場をやり過ごそうというのだ。


「ふ…甘く見られたものだ」


ヤツがその一瞬の判断ミスに気づく前に、刺激しないようそっと隣の部屋のクローゼットを開けにいく。

クローゼット…いや…軍隊で言えばマシンガンやバズーカといった火器が収納されている兵士のロッカーとでも言うべき…まぁクローゼットなのだが、今の私にとってそこは武器庫。

その中には先日購入したばかりのゴキジェットプロのスプレー缶が置かれていたのだ!


スプレー缶を手に戻るとヤツはまだそこにいた。


秒殺。そうパッケージに書かれている缶の威力を信じ、噴射!


案の定ヤツは冷蔵庫の裏に落ちる。


「くそぅ!見失った!」


こうなりゃ恥も外聞もあったもんじゃありません。これでもかとばかりに冷蔵庫の裏の隙間や下の隙間、横からスプレー射出攻撃。しかしヤツが姿を見せる気配は無し…。あたりには缶から出た殺虫剤がモクモクと粉塵のように舞っている。


恐る恐る冷蔵庫を手前に引っ張り出すも裏にはヤツの姿が無い。もしや冷蔵庫の下から中に?

それとも冷蔵庫の下に取り付けてある水滴用の受け皿の中に?もしくは、完全に引っ張り出せてない冷蔵庫の下で息を潜めて隠れている?


さまざまな憶測が飛び交ったが、一つハッキリしていたことは、ヤツをやるには手負いの今しかない!




しばらくこちらも様子を伺い、ヤツの出方を待つこと1分。


頭をもたげてきた言葉は、去る者追わず、引き際が肝心、窮鼠猫を噛む。









そのまま冷蔵庫をそっと元に戻しました。