むかし、「テレビ映画」なる表現があった。それは「テレビ番組」用にフィルムで撮られた映像作品のことを指す。対義として、VTR収録であったり、あるいは生放送で、テレビカメラによって撮られたものは「テレビドラマ」と分けられたのだけど、そんなのは業界のなかにおける括りだけで、一般的にはどちらも「テレビドラマ」と言っていた。

 

フィルムで撮られていた必殺シリーズは「テレビ映画」であり、台本にもその表紙に「テレビ映画」と記されている。1980年代前半から中盤、視聴率も世間の評判も絶好調だったとき、番組スタッフのそういったものに対する意識はどれだったのだろうか?、「テレビ映画」だったのか、「テレビドラマ」だったのか、それとも「テレビ番組」だったのか…

 

『必殺仕事人V』放送開始から遡ること半年前の1984年6月、当時『必殺仕事人IV』が放送中の必殺シリーズはある偉業を達成した。それは番組スタッフと『必殺仕事人IV』レギュラーキャストをそのまま起用した、必殺シリーズ初の劇場公開映画『必殺!THE HISSATSU』が作られて公開されたことである。興行的にも成功を収め、その作品性の評価も上々だった。

 

1980年代に、子供向けの特撮ドラマとアニメを抜かし、「テレビドラマ」がスタッフとレギュラーキャストをそのまま配して作られた劇場公開映画にされたものは少ない。シリーズ作品で三つだけあって、それはこの必殺シリーズと舘ひろし・柴田恭兵主演の刑事ドラマ「あぶない刑事」シリーズ、それから南野陽子と浅香唯が各々主演をした「スケバン刑事」シリーズだけであった。三作品の共通点を上げるとすれば、製作プロダクションが元より映画製作もしていたところで、フィルム撮影していたことだ。撮影が劇場公開映画用の35㎜フィルムか「テレビ番組」用の16㎜フィルム、あとは製作日数と予算だけの違いで、ほぼ同じ作業工程による「テレビ映画」を作っていたことで「テレビ番組」から劇場公開映画への垣根は無いに等しかった。

 

ひと頃よりは減ったが、いまでは当たり前となっている「テレビドラマ」の映画化は、1980年代以前では興行的な点から極めて難しいものと見られ(つまりは、当たらないものと見下され)、どんなに視聴率が良くたって、どんなに評判が良くたって、おいそれと作られることはなかった。しかし、1980年代に入ってからの「テレビドラマ」不況の折に視聴率30%台を叩き出し、空前のブームへと突入した必殺シリーズにその風は吹いた。前年の1983年、フジテレビが製作し、局をあげて宣伝しまくった『南極物語』が大ヒットしたことにより、テレビ局は映画製作が収益事業として魅力的なものとなっていたからだ。

 

当ブログ記事 「大江戸神仙伝」 その1

https://ameblo.jp/goro-chayamachi/entry-10858308692.html

邦画不況ではあったが、話題となった新作邦画のテレビ放送は人気で、各テレビ局は争奪戦を繰り返していた。

その結果、各テレビ局は誰にも邪魔されない直接製作に乗り出すことになる。

 

 

番組ファンにとっては、無料の「テレビ番組」鑑賞から有料の参加イベントでもあったことから、ある意味で、お布施、信仰の証でもあった。すでに4本が作られ、オールラウンドな視聴者に応えるべく、年々バラエティ番組色が豊かになっていった長時間版のテレビスペシャルに比べると、その第1作『必殺! THE HISSATSU』はオーソドックスな内容と展開である。ただ、映画館にまで観に来てくれる番組ファンに向けた、その絶妙なバランスが良かったはずだ。ブーム下で溢れるファンの期待を裏切らなかったことから、成功を収めたのは当然だと言えよう。

 

さて、ようやくここからが本題。1985年、テレビも絶好調、劇場公開映画も当たった必殺シリーズ、当然2作目の映画製作となる。枠組みは前年と同じ手法で、必殺シリーズの大看板、藤田まこと演じる中村主水が主役の必殺仕事人シリーズが後半に突入した6月公開で、そのときのレギュラーキャストを据えて。ここまでは良かった。しかし、そこから先が劇場公開映画の、そして必殺シリーズ全般への躓きの石となってしまった。

 

『必殺!ブラウン館の怪物たち』

 

このタイトルを持ち出すと必殺シリーズファンは、ピラミッドだの、ターザンだのが出てきた『必殺仕切人』以上に嫌悪感を示す。

 

どんなにくだらない展開が好きな自分もこの作品ばかりは嫌悪感を示す。

 

それは『必殺仕事人V』が当時大好きであったが故に…

 
タイトルにあるブラウン館の怪物たち、これは本作における仕事人たちの闘う敵で、劇中に出てくる異人・ブラウンの館に居る怪物たち(クリーチャーではなく、当然人間)を指しているのだが、ブラウン館とはブラウン管モニター → テレビ受像機 → 「テレビ番組」の喩ともなっており、「テレビ番組」の怪物たち、転じて「テレビ番組」の人気者たちという意味が込められた。
 

ゲストに招いたのは、明石家さんま、西川のりお、高田純次、兵藤ゆき、ケント・ギルバート、etc、当時テレビを観ていれば一日のうちに必ずどこかで見掛ける売れっ子ばかり。そして、ゲストのトップクレジットは森田健作。映画の専属が松竹で、かつて必殺シリーズのレギュラーだったばかりではなく、当時ホントに売れていた。

 

1984年秋、フジテレビで放送されていた土曜深夜の生放送ワイド番組『オールナイフジ』が大ヒットしていたことに触発され、他の民放局も同様な生放送のワイド番組を一斉に始めた。テレビ朝日は『ミッドナイトin六本木』を放送。時代に倣ってとことん軽佻浮薄なつくりをしていたのだが、アクセントを出すために、時代の波に乗れない男をキャスティングした。それが森田健作だった。汗と涙の青春ドラマを地で行く森田は当初嗤われるためにいたはずなのに、土曜深夜に一人寂しくテレビを観ることしか出来ない若者の気持ちをガッチリと掴み、生真面目な顔で正論を教授する姿に共感する視聴者が続出。受け持つコーナーの視聴者参加イベントをやれば盛況となってしまう具合に。いまの荻野目洋子のように、シャレでやっていたのが本気になって、人気がリバイバルしてしまったのだ。以降、「青春の巨匠」キャラは森田のウリとなっていく。

 

おっと、そろそろ話を戻しておこう。人気「テレビドラマ」に「テレビ番組」の人気者たちを掻き集めた作品『必殺!ブラウン館の怪物たち』、番組スタッフは観客たちがさぞ喜ぶものだと思ったに違いない。それに加え、人気者たちが活きるように、これでもか!と普段以上に面白おかしい内容にした。番組スタッフのサービス精神がこれほどまでに満載されたものはないだろう。長時間版のテレビスペシャル以上だ。

 

だがしかし…

 

酷評の嵐だった。なにが悪いかって、すべてがすべっているのだ。原因は、「テレビ番組」の人気者たちをとめどなく出し、映画のパロディを散りばめたことで、本来「テレビドラマ」を作っていたはずの番組スタッフは「テレビドラマ」ではない「テレビ番組」をいつしか作ってしまっていた。それも出来の悪い「お笑い番組」を。当時、「お笑い番組」として一番視聴率を稼ぎ、一番評判が良かったもの、つまり一番面白かったものはフジテレビが土曜夜8時からやっていた『オレたちひょうきん族』であろう。毎回、いろんなコーナーに旬の人気者がゲストとして登場する。おまけに、高感度なカルチャーでもあった『オレたちひょうきん族』には、番組側が頼まなくても、通りすがりの人気者たちがひょっこりと顔を出していったほどである。

 

当ブログ記事 放送史から紐とく"なぜ「オレたちひょうきん族」は「8時だョ!全員集合」に勝ったのか?"

https://ameblo.jp/goro-chayamachi/entry-12028328973.html

そのピークである『ひょうきん族』が『全員集合』を番組終了に追い込んだのは

『必殺仕事人V』が放送され、そして『必殺!ブラウン館の怪物たち』が製作公開された1985年であった

 

 

メインのコーナーで、ビートたけしが主役を演じ、明石家さんまがその相手役となる「タケちゃんマン」では、誰もが知る映画のパロディをベースとし、面白おかしく作っていた。ドラマ仕立てのコントだが、いまもむかしもこれを「テレビドラマ」だと思う人は皆無だろう。『必殺!ブラウン館の怪物たち』は、言うなれば「タケちゃんマン」の劣化コピーに過ぎなかった。

 

だから、『必殺!ブラウン館の怪物たち』を劇場公開映画ではなくて、もしも年末年始恒例のテレビ特番としてやったのならば、それこそ笑って済まされる作品だったし、「人気のタレントがいっぱい出てきて観てて楽しかったねぇ」と番組スタッフ側が得たい"正当な評価"を貰い受けていたはずだ。劇場公開映画において「テレビ番組」という面を過信してしまった一方で、自分たちが作っていた、いま(その当時)一番面白いはずの「テレビドラマ」という面を過小評価してしまっていた。
 
前回の記事で、『必殺仕事人V』でハチャメチャな回をいくつか紹介したが、傑作もあるのでここで紹介したい。そのなかで自分が思う一番のものは、第12話「組紐屋の竜 忍者と闘う」。
 
新加入の仕事人である組紐屋の竜、その隠されていた出自はじつは伊賀の忍者であって、一族を裏切って抜け忍の身となっていたことから、その掟により一族総出で抹殺しにくるところに当初は組紐屋の竜ひとりで対峙しようとするも、なんだかんだあって仕事人全員で迎え撃つという話である。
 
放送日が1985年4月19日。じつは前回が三週前の3月29日で、この間は4月5日に『ザ・ハングマン4』の最終回2時間スペシャル「痛快!ダブルハンギング!!さよなら、ありがたや節!!」、4月12日に劇場公開映画第1作『必殺! THE HISSATSU』のテレビ初放送に充てられ、春の改編期のなか、各局の特番攻勢を特番で避けて休んでいた格好となっていた。が、7月末まで続く全26話を前半後半に分けるとすれば、後半の初戦という大事な回でもある。
 
新キャラクター・京本政樹が演じる組紐屋の竜をフィーチャリングしたことに加え、仕事人vs忍者一族という一大アクション回である。当時、同じ4月からフジテレビ系で、関西テレビ‐東映(東映京都撮影所)制作による千葉真一主演の忍者アクション時代劇『影の軍団IV』が始まっていて、隣組の朝日放送‐松竹(京都映画撮影所)が一話ながらそれに真っ向挑んだ格好ともなっている。手練れたJACアクションに勝るとも劣らない縦横無尽な殺陣、そして得意の映像美で迫る。この頃、動きのない殺陣、通称・セコ突きばかりしていた中村主水も忍者相手だから動く、動く。
 
親交のある必殺シリーズ筋金入りのマニア、都の商売人さんも、『必殺!ブラウン館の怪物たち』ではなく、この回を劇場公開映画化すれば良かったと自身のホームページで綴られていて、その見解を知る以前から自分も同意見だった。おそらく、この第12話「組紐屋の竜 忍者と闘う」を観たことある人は同調してくれるだろう。
 
都の商売人のホームページ  「空想の匣」 「必殺仕事人V」ストーリーガイド&作品評 第12話「組紐屋の竜 忍者と闘う」
 
劇場公開映画化すれば後に「テレビ番組」として放送されるのだから、それを見越した2時間枠に収まる90分程度に作り、二本立てとして、併映作品をもう一本、そちらは1時間半枠に収まる70分程度のやや小品を添える。もうひとりの新キャラクター・村上弘明が演じる花屋の政をフィーチャリングした、叙情的で、じつに良い回がある。それが第18話「花屋の政 ワル仕事人と闘う」。ある日、政が昔馴染みの友と再会すると、彼はかつて自分が捨てた恋人と一緒に暮らしていることが判り、戸惑うという話。先述した第12話「組紐屋の竜 忍者と闘う」が動ならば、こちらは静の趣で対比を付けられる。『必殺!ブラウン館の怪物たち』で苦痛な上映時間122分を過ごすよりもだいぶマシである。
 
じつのところ、必殺シリーズの熱狂的なブームは『必殺仕事人IV』をピークに緩やかに落ちていった。なによりもそれは視聴率という絶対的な数字が示していた。しかし、『必殺仕事人V』で重要なレギュラー陣を入れ替えたことにより、話題性のほうは持続していった印象がある。それは番組スタッフの想像以上であったことだろう。なのに、自分たちで見つけてきたそれを活かすことなく、安易に置かれていた材料、他の「テレビ番組」でいくらでも観ることが出来る人気者たち、畑違いである「お笑い番組」の真似事に手を出してしまった。一期一会の、人々の記憶からその日のうちでも消え去っていくような「テレビ番組」ではなく、延々と記憶と記録に残る劇場公開映画で。『必殺!ブラウン館の怪物たち』を背負ってしまった必殺シリーズは、上手くいっていたバラエティ路線まで見直さなくてはいけなくなってしまった。そして、ブームで惹き付けたファンの支持を失っていくことになる。
 
おわり。