新海誠の東京讃歌 | 38度線の北側でのできごと

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 海誠監督の描く東京は美しい。「君の名」と「天気の子」で描かれる東京には引力がある。東京の北の映画館でぼくは「天気の子」を見たが、例えばこの映画を大阪のミナミで見た関西の人はどう思うのだろう。

 

 池袋に加え、田端と代々木。山手線では地味なふたつの駅が舞台となる。代々木にある代々木会館は解体が始まったという。「傷だらけの天使」の舞台だったこの建物のペントハウスにショーケンと水谷豊がいた。そこの神社がひとつのポイントとなる。

 

 オリンピックを前にした東京讃歌。この映画をひとことで述べるならこのことばに尽きる。主人公ふたりの青くさい恋模様を楽しむ年齢ではぼくは既になくなったのだ。

 

 美しい東京。

 

 雨が降り続ける東京。

 

 曇り空からのぞく陽を浴びる東京。

 

 東京。東京。東京。

 

 まるで寺山修司ではないか。これでは。

 

 東京は最後、水に埋もれる。江戸時代の姿に回帰したと映画の中でも触れられる。水に沈む東京ではそれなりに平凡に、そしてたくましく生活が営まれている様子で水上バスが走り、主人公は地下鉄で高島平に向かう。

 

  衛生環境はどうなのだろう。スクリーンの向こうからは幸い臭いは届かない。菌がまき散らされることもない。そんな些末な想像は、主人公ふたりのもどかしい再会でかき消される。

 

 そういえば五輪はどうなったのだろう。雨が降り続き、水に沈んだ東京では行えなかったはずだ。

 

 ぼくは五輪に蹂躙された東京など見たくない。宴のあとの東京など。

 

 五輪の行われなかった水浸しの東京。陽の光を浴びて水面は輝く。その光が、沈まなかった東京の高層ビルの間で輝く。

 

 水浸しの中で成長を止めた(止めざるを得なかった)東京。主人公ふたりは年齢を重ねていく。雨空の下、東京は美しくあり続ける。