元旦は空気が静かだ

どこかが違って感じる

記憶をなくしたらただの冬の日なのだけれど

それは今の仕事のこともあるのだろう

重圧から解放された後の放心が

いつも僕にあって

こころに芽生えた余裕のカケラを持って彼女に話し掛けていたな

ねえ

散歩しない?


初詣を兼ねた勝子さんとの散歩は

車椅子を押した老老介護の風に

世の中からは見えたのだろうが

穏やかな冬の日

寒いけど優しい光

そこで気付く


光が少し強く

遠くの春の予感を含んでいるのだと

少しのお賽銭で彼女の長生きと

世界の平和を祈ったら

永遠に終わらないでいい帰り道を滑る

母の口からは問わず語りの思い出が溢れて

僕は子守唄みたいに

そいつに聞き惚れている


永遠はなかった

帰り道もわからない

ひとりと人柱の寄り添う路頭に


それでも僕は遠い春を

遠いさいわいを聴いてしまう


僕の車椅子が押し手にないまま

サミシサを描く明日が見えた気がして宇宙を想う


霊感が強いはずの僕に

父も祖父も祖母までも

その存在を伝えてきたこの僕に

一番会いたい彼女は

まだ会いにきてくれていない


会いたいは明日を想う意思なのかもしれない


同じ会いたいがもうひとつ


僕に歌を歌わせているのだけれど