和楽衣生活 -56ページ目

カメラがモタラシタモノ 11-03

 しばらく一緒に歩くと俺の役割は終了とばかり「それじゃ俺はそろそろ帰るわ。」と伝えその場を去ろうとすると、長門は「これ…」と言って手にしていた景品のカメラを差し出してくる。

 「カメラがどうかしたのか?」

 「あなたに…」

 「これはお前が当てたんだろ。俺が貰ってどうする。」

 「私は補助券が足りなかった。五分の三の補助券を補てんをしたのはあなた。これは、あなたが有する権利がある。」

 「ねぇよ。」

 「ある。」

 「あのなぁ長門、俺は使う当てのない補助券をお前のために使っただけだ。それにカメラを当てたのはお前だろ、だからそのカメラは長門お前のものだ。それに俺だってデジカメくらい持っている。」

 「しかし、わたしはカメラを必要としない。わたしが経験した事は脳内のメモリーに蓄積・保存している。」

 「はぁ…、なら聞くがお前の記憶は他の奴が見る事が出来るのか?その記憶は俺やハルヒ、朝比奈さんや古泉そしてお前が一緒に写った映像としてあるのか?」

 「・・・第三者が見る事は不可能。また、わたしが見た映像であるため私は存在するが、そこに私が第三者として共に記憶する事は無い。」

 俺は記憶と写真の違いについて長門に出来る範囲で説明していた、そんなところに鶴屋さんが俺たちの言い合いに何事とばかりにやってきた。


 「うむうむ、なるほどね~。確かに長門っちは記憶力が良さそうだけどね。」

 いや良いってもんじゃないんですよ。なんせ595年を正確に記憶する奴ですから…

 「でも、やっぱり写真と記憶じゃ全く違うんよ。記憶って本人しか分かんないっしょ。説明しても他人にはイマイチ伝わんないしさ。でも写真は見ると、みんなが『あーこの時はこんなんだったな』とか『あんな事やったよな』なんて、誰が何を説明しなくても同じ思いや記憶を共有できたりするし、言葉以上の表現力があったりするもんなんよ。つまり写真ってのは記録や表現方法であって記憶とはまったく別物ってことさ。」

 そう言うと、鶴屋さんはコーヒーをゆっくり口に含んだ。

 言い忘れたが、今は商店街の片隅にあるクラシックな喫茶店の中である。

 昔ながらの木のテーブルに角砂糖の小瓶、時代を思わせる球体の星座占いも置いてある。店内は花形のライトで薄らセピア色に染まり、カウンターではアルコールランプ式サイフォンがポコポコ音を立てていて、一昔にタイムスリップしたのではないかと思ってしまう。

 長門は鶴屋さんの話しにじっと見つめ耳を傾けていた。

 俺がした写真の説明が、なんと情けない事か…

 「それにせっかく貰ったんだから使いなよ。高いカメラじゃないんだけど、そこそこ良いヤツだと思うんだけどな。」

 「へぇ、どんなカメラが入ってるかよく知ってますねすね。」

 「そりゃそうさ。なんたって、あたしが選んで買ってきたやつだかんね。」

 なるほど、そりゃ知ってて当たり前だ。

 「やっぱ口で説明するより、実際に撮ってみた方が分かるっしょ」

 そう言うと、鶴屋さんはカメラの包みをゴソゴソと勝手に開け始めた。

 「ジャーン!どうにょろ、なかなか良いっしょ!」

 鶴屋さんは両手で黒い小さなカメラを持つと、俺と長門の前に差し出した。

 「ああ、そのカメラ…」

 「ん!?キョン君、このカメラがどうかしたにょろか?」

 「俺、それ持ってます。色違いですけど…CanonのIXY410Fですよね。それ…」

 「そうそうIXYの410Fさ。キョン君も同じの持ってたんだ。で、使った感想はどうだい?」

 「使いやすいですよ。レンズも広角24mmで景色とか撮りやすいですし、ズームも光学で5倍、デジタルズームも合わせると20倍まで拡大出来ますからね。室内や夜なんか暗い所でも結構写ります。あと高速連写機能とかがあって良いですね。それにフルハイビジョン動画も取れるんですよ。何より起動が早い上に薄くてポケットに入れていける感じが良いと思いますね。」

 「キョン君、語るね~」

 「いえいえ、ただの感想ですよ。」

 「でも、長門っちはキョン君の語りでカメラに興味が湧いたんじゃないかな?」

 そんな事をいう鶴屋さんの視線の先には、長門が手にしたカメラをじっと見つめていた。

 長門は少なからずパソコンにも興味を持ったんだ、ならデジカメに興味を持っても不思議じゃない。

 活字を好み、パソコンを好み、カメラに興味を示す宇宙人。まったくアナログなのか、デジタルなのか…

 「キョン君って、たまに長門っちを見る目が優しくなるにょろね(クスッ☆)」

 「べべべつに、そんな事ありませんよ。いたって普通です。」

 「あはははは、キョン君顔が赤いにょろ。」

 二人のやり取りに、長門は俺と鶴屋さんの顔を交互に見て首を2ミリ傾げた。

 「長門っちカメラ使ってみていいかい?」

 そう言うと鶴屋さんはカメラの底をパカッと開けバッテリーとSDカードを差し込んだ。

 (※実際はバッテリーは充電する必要があります。SDカードも付属しておりません。小説の成り行き上の設定です。)


お粗末な身体です

最近は背中の痛みは治まらないし、食欲も低下する一方、薬の効き目も悪くなってきたのか3日肺水腫で呼吸困難になり酸素缶のお世話になるしまつ。
病院から酸素ボンベを持たされる日も遠くない気がしてきたなぁ

カメラがモタラシタモノ 11-02

 「おんやぁ、どこかで聞いたことがある男前の声がすると思ったらキョン君じゃないか。どったの?」

 「あれ?鶴屋さんこそ、福引のテントでどうしたんですか?」

 「いや何ね、親父の会社が協賛してるから。手伝いに駆り出されてるんよ。」そう言うと鶴屋さんはハンドベルを持ったオッサンと同じ法被を着てクルリと一回転した。

 同じ法被を着ても中身が違うと、こうも別衣装に見えるものかね。

 「キョン君は、あー…長門っちとデート中だったの…かな?」

 鶴屋さんは俺と長門を交互に見てちょっと気まずそうに首を傾げて言った。

 「いえいえ、俺は買物途中で、偶然長門を見掛けたものですから、たまたまです。」

 「いいんよ、いいんよ。言い訳なんてしなくても。ハルにゃんには内緒にしとくからさ。でもキョン君の好みは長門っちだったんか。そか、そか。」

 鶴屋さんは、頭の中で勝手に妄想を膨らませ、勝手に納得した。

 …って、冗談じゃない! 「つ鶴屋さん、違うんです。誤解です。本当に偶然に会っただけなんです。信じて下さい。ついでに言っておきますが、ハルヒも関係ありませんから。」

 俺は力の限り訂正した。ここで誤解を解いておかないと後々絶対に面倒な事になるに決まってるんだ!

 「長門、お前からも説明してくれ。」

 長門に助けを求めると、こんな時に限って視線を合わせなかった。おいおい頼むぜ、長門。

 「まぁそういう事にしといてあげるよ。それよりここにいるって事は、もしかして福引やんのかい?」

 「そうだった、福引きやりたかったんだろ長門。そこのレバーをぐるっと一回転させると玉が一つ出てくるからな、その出玉の色の賞品が貰えるぞ。」

 長門は俺の説明通りガラポンのレバーを掴みゆっくりと回しはじめた。

 ガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラ…コトン

 中の玉を掻き混ぜる音をたてながら、ゆっくりと一回転したガラポンがその穴から玉を一つ排出した。

 コロコロと受け皿を転がる玉を俺と鶴屋さんとハンドベルのオッサンが凝視した。

 「赤…」

 その途端にカラン、カラン、カラン、カランと大きくハンドベルが鳴らされ、オッサンが「大当たり~!」と叫んだ。

 「ウヒョヒョ、長門っち凄い凄い!やるじゃないか。」

 鶴屋さんも些か興奮気味である。

 まさか特賞でも引き当てたか?

 …と思ったらオッサンから発せられた言葉は、「おめでとう。3等賞出ましたー!」だった。

 だが3等でも大したものだ、俺なんて残念賞しか出したこと無いからな。

 「長門っち、おめでとう。3等の賞品は、薄型デジタルカメラにょろよ。」

 「良かったじゃないか長門。お前カメラとか持ってなかっただろ。」

 「ない。」と一言いうと鶴屋さんが差し出した包みを手にした。

 「でも特賞じゃなくて残念だったにょろね。」

 「あははは。特賞なんて出したくても出るものじゃないでしょ。ところで特賞の賞品は何だったんですか?」

 「ふふふふふ…」

 鶴屋さんは、腰に手をやり不敵に笑った。

 「聞いて驚くなかれ、特賞は、なななんと二泊三日の温泉ペア宿泊券にょろ。凄いっしょ!」

 鶴屋さんは『どうだ』と言わんばかりに胸を張った。

 いや、結構在り来たりだとは思うのだが…しかし、んなもんが当たらなくて良かった気がする。

 というより、学生でしかも長門が貰ったところで、どうする事もできないだろ。学校も休めないし、長門が誘うような人物ってのも思い当たらない。

 などと、口に出せるわけもなく、俺は「おお、凄いですね。でも学生には温泉旅行なんて不釣合いですし、デジタルカメラで良かったですよ。」

 そう言ってニッコリ笑う俺に鶴屋さんも「そだね~」と更に上級の笑いで答えてくれる。

 このまま鶴屋さんと世間話をしていても後ろで散々待たされた挙句、上位商品を1つ持ってかれた籤引き待機メンバーに申し訳ないので、「長門、後がつかえてるから行こうぜ」とその場を後にすることにし、俺の言葉に促されたのか賞品を両手で持ち福引のテントを離れた。


カメラがモタラシタモノ 11-01

 カラン、カラン、カラン

 夕方の雑多な商店街の片隅でハンドベルが鳴り響く。

 いや、ハンドベルと言うと聞こえは良いが、鳴ってる場所は商店街の名前が入ったテントの中で、しかも鳴らしているのは赤い法被をまとったハゲ親父。

 つまりはハンドベルの音楽会なんて高尚なモノではなく、ただの商店街の福引きの鐘の音である。

 年末年始はとうの昔に過ぎ、今日は4月の第4日曜。

 季節外れの福引の賑やかさを横目に、俺は買物袋を片手に福引き補助券に目をやる。

 俺の持ち札が3枚、福引きを1回するには補助券5枚が必要だ。補助権1枚貰うのに500円以上の買い物…話にならねぇな。

 どうせ福引きをしたところで、ハズレのポケットティッシュを貰うのが関の山だ。

 その為に無駄金使う気は更々無い。俺の財布は裕福じゃないんでな。

 補助券を無造作にポケットに突っ込みその場を立ち去ろうとすると、福引きの列に見知った人物を発見した。

 なんだ、あいつ福引きなんかに興味があるのか?


 「これ…」

 一言そう言うと見知った少女は色白の手に握られていた補助券を係員に差し出したが、券を受け取った係員は少し困った表情を浮かべ、頭を掻いていた。

 「あちゃ、お嬢ちゃん補助券2枚じゃ足りないわ、これは5枚無いと福引き出来ないんだよ。すまないね。」

 そう言う係員を少女は凝視し、凝視された係員はというと金縛りにでもなったかのように困り顔のまま固まってしまっていた。

 もちろん少女は無言の脅迫をしている訳ではなく、ダダを捏ねている訳でも無いだろ。おそらくは、何も考えて無い…んだろうな。

 このまま状況を見守っていても良かったのだが、結果は見えている。少女の凝視に根負けした係員が『ええい、お嬢ちゃんには負けた。大サービスだ一回引いて行けい!』と言うに違いない。あいつの凝視に耐えられるのは俺たちSOS団員くらいだろうからな。

 しかしだ、それではあまりにも福引きのオッサンが不備だし、SOS団内で一般人に迷惑をかけるのはハルヒ一人で十分だ。やっぱり、ここは助け船を出してやるべきなんだろうな。


 「すみません、足りない分はこれで…」

 俺は少女の頭の上から係員に補助券を渡した。

 「長門、これで1回福引き出来るぞ。」

 長門は振り向くと、そのアメジストのような瞳に俺の顔を映し出し無言のままガン見してきた。

 「・・・・・」

 「・・・・・」

 「・・・・・」

 「長門さん。俺を見られても困るんですが…」

 「・・・・・」

 「いや、あの~…待ってる人もいることだし、まずは福引き回そうか…」

 長門の後には既に福引き待ちの人間が、3人ほど並んでいて、さすがにバツが悪い。

 長門は俺の問いかけにひと頷きすると、福引器の八角形のガラポンの前に移動した。

 その行動に係員はホッとしたのか、俺に有難うと言わんばかりの表情を見せ、待ちの人間は『やっとか』という表情をしていた。

 受付からガラポンの前まで数メートルという短距離を長時間かけてたどり着いた長門だったが、またガラポンの前でゼンマイの切れたブリキの玩具の如く動きを停止させてしまった。

 「どうした、長門?籤、引いていいんだぞ。」

 「・・・・・」

 「・・・・・」

 「・・・・・」

 「長門。一つ聞くが、やり方分かるか?」

 そう言うと、ガラポンを見つめていた長門は首を左右に振った。

 なんだ、やり方も分からずに挑戦しようとしてたのかよ。好奇心旺盛というか、チャレンジャーというか、その行動力だけはハルヒ並だな。

 俺は感心すると同時に脱力し額に手を当てヤレヤレとばかりに長門同様に首を左右に振った。

 そんな時、テントの奥から聞き覚えのある声が話し掛けてきた。

明日から小説UPします。

今回はショートストーリーで11回に分割しました。

内容はもちろん長門xキョンの恋愛物です。

今回は時間の関係で挿絵はありませんが勘弁してください。


えっ?長門xキョンの恋愛物しか書いてない?

そうさ。あぁ、そうだとも。それしか書けないのさ。

そのうち長門でアダルト物にでも挑戦くらいはしてみるさ。

※挑戦だけはね…w


まぁ、兎に角明日の12:00から11日間小説をUPしていくのでヨロシク!


和楽衣生活-2012_0427nagato