カメラがモタラシタモノ 11-10
俺の心の叫びが聞こえたのかいつの間にか長門がハルヒの横に立ちネクタイを締め上げている腕にそっと手を添えた。
だが、ハルヒはその手を跳ね除け、一気に迫ってきた。
「キョン!あんた、本気の本気の本気なんでしょうね。高校限りの付き合いとか絶対に許さないわよ。有希はあたしの家族も同然なんだから、浮気したり、嘘ついたり、有希を泣かすような事ちょっとでもしてみなさい、あたしが直々に地獄の底に1万回叩き落すからね。有希も、キョンに何かされたら直ぐにあたしに報告しなさい。キョンわかった!」
「分かりました。分かりました。分かりました。」
何が何だか分からないが、正論を怒鳴りあげられて、反論する言葉は何もなく、ただただハルヒの言葉に従うしかなかった。
予想外のハルヒの怒りの原因に古泉、朝比奈さん、鶴屋さんはポカーンとしてしまい、長門さえ目をパチクリさせていた。
しかし、ハルヒが長門の事をそこまで親身に考えているとは思わなかったな。こりゃ情報統合思念体も二度と長門を処分するとか言えないだろうな。
ハルヒは掴んでいたネクタイを乱暴に放し、まだ少しプンスカしながら腕を組みそっぽを向いた。
ヤレヤレ、怒鳴られはしたが大事にならずにすんで良かったな。それと「虎穴に入すんば虎子を得ず」て言葉が好きになりそうだ。
みんなと顔を見合わせ、クスリと笑みをこぼしていると、腕を組んでいたハルヒが俺と長門を交互に指差し叫んだ。
「不順異性行為は厳禁!」
その言葉をきっかけに古泉、朝比奈さん、鶴屋さんがどっと笑った。そして口々に
「お二人とも交際は清く正しくですよ。」
「そうですよ。キョン君エッチなのはよくないと思いま~す。」
「キャハハハハ、キョン君こりゃ一本取られたっさね。」
などと言い、ハルヒもやっと偉そうに笑った。
「それにしても、予定狂っちゃうわね。」
あれから1時間後ハルヒは鼻の下に鉛筆を挟み口を尖らせ、頭の後ろで腕を組み椅子の背もたれに寄りかかって仰け反っていた。
「おい、何の予定だよハルヒ。俺たちゃなんも聞かされてないぞ。」
「当たり前よ。まだ誰にも話してないもの。」
なんだそりゃ、またお前の思いつきかよ。
「よければ、お聞かせ願いたいのですが。」
「はい。涼宮さん、お茶です。」
「ありがと、みくるちゃん。」
ハルヒは朝比奈さんが差し出したお茶を直接受け取り、グイッと飲み干した。
毎回思うのだが。ハルヒ、熱くないのか???
「ゴールデンウィークは山奥に2泊3日くらいで不思議探しに行こうと思ってたのに。キョンと有希がデートでいないんじゃ決行出来ないじゃない。」
「ゴールデンウィークに旅行って、あと一週間後だぞ。んな思いつき最初から無理に決まってるじゃねーか。」
「フンだ、やってみないと分かんないでしょ。」
毎回の事ながら無茶苦茶だな。今回ばかりは俺と長門に感謝しろよ古泉。
古泉を見ると声のない乾いた笑いをしていたし、朝比奈さんも少々顔が引きつっておられる。長門はというと鶴屋さんと何やら雑談中だった。
「言っとくが強行しても、俺と長門は行かないからな。」
「わかってるわよ。恋路の邪魔なんかあたしだってしないわよ。それに団員がそろわなきゃ行く意味無いでしょ。だから延期。」
「中止じゃないのか…」
「そ、延期。中止になんてしないわ。」
まぁ、延期しているうちにハルヒも飽きて行く事無く、そのまま忘れられちまうに決まってるさ。気にする事でもないか。
赤い満月
昨夜21:00の赤い満月をカメラ3台を使いそれぞれ撮ってみた。
1台目 PENTAX X70:電池のもちの悪さピカイチだが月を拡大して撮るには非常に適している。常に車に常備のカメラ屋外撮影では光学24倍ズームが役に立つ…事もある。
2台目 Canon PowerShoto G11:メインカメラである。コンデジなのに画質が良く、マニュアル操作が豊富で撮影しやすい。星空撮影も出来る。でも月の撮影にはちょっと辛い。※背面ダイヤルの修理が必要の為、只今出番が少ない。
3台目 Canon IXY 410F:サブカメラ。暗いところでも良く取れるが、やっぱりピンと画質が荒くなる。月を撮ると光の玉。だからといって悪いカメラではない。現在一番使用頻度が高い。
やっぱり得意不得意分野があり、月を大きく撮るのはPENTAX X70が良いようだ。
ただCanon PowerShotSX40HSも気になるところだ。
カメラ:Pentax X70
撮影場所:自宅
カメラ:Canon PowerShot G11
撮影場所:自宅
カメラ:Canon IXY 410F
撮影場所:自宅
カメラがモタラシタモノ 11-09
『バンッ!!』
背中で扉が大きな音を立てて開くと、ハルヒの怒号が飛んできた。
「キョン逃げるな!古泉君、強制連行!」
怒号に固まった俺に、こんどは古泉が俺の肩を掴んでくる。
「遅かったようですね。さぁ行きましょうか。」
ナイアガラの滝のように冷や汗を流しながら救いを求めるように古泉の顔を見ながら
「逃がしてくれるんじゃないのか?古泉。」
「残念ですが、以前から言ってるように僕は涼宮さんには逆らえないんですよ。」
「このイエス・マンが!」
その時の古泉の笑顔はとても冷ややかに見え、俺の肩を引く力も力強く、そして強制連行される俺の叫び声が虚しく部室棟に響きわたった。
「た・す・け・て~~~~~~」
強制連行され、ハルヒの前に突き出された俺の目に飛び込んできたのは、通常のSOSメンバーに加え鶴屋さんだった。
そうか、情報発信源は長門でも確定させたのは恐らくこの人だ。
「キョン何処見てんの!」
ハルヒが横目で鶴屋さんを見ていた俺のネクタイをグイッと引っ張る。
「粗方は有希と鶴屋さんに聞いたわ。」
「やっぱり…」
鶴屋さんは頭の後ろで手を組み白い歯とチャーミングポイントである八重歯を見せてイヒヒとばかりに笑っていた。
「なにがやっぱりなの。二人の話だけで十分だけど、一応あんたの話も聞いてやるつもりよ。有希と付き合うって本当なの?浮ついた気持ちや、ただ何となくとかじゃないでしょうね。それとゴールデンウィークにデートって本当なの?悪いようにはしないわ、正直に答えなさい。」
笑ってない目と、口角をピク付かせた笑いのどこが悪いようにはしないだ。信じられるか!
とはいえ、ここはハッキリと言わなければ、それこそ『ただ何となく』になっちまう。
そして長門にも説明して誤解という事を分かってもらわないと…
そう思い、ハルヒの後ろにいる長門にチラッと目をやった。
すると、そこには『虎子』がいた。
ショートカットで無表情で読書をしているはずの少女が、今はデジカメの画面を食い入るように見て、口元が少し綻んでいる。
なんだ、この可愛さは。本当に長門なのか?
俺の胸は昨日よりも増して高鳴り心臓の音が回りに聞こえてるんじゃないかと思うほどだった。
「キョンどうしたの、アホみたいにポカーンと口をあけて。有希と付き合うの、付き合わないの。もし間違いとかだったら、あたしから有希に説明してあげてもいいわよ。」
「いや…間違いじゃない…」
つい長門に見とれてハルヒの言葉が半分耳を通過していた俺は、長門と付き合っていることを肯定してしまった。
というより今の俺に否定する言葉は持ち合わせていない。今からでも俺の方からもう一度告白したいくらいだ。
「ホ・ン・キ・なんでしょうね~」
ハルヒの声が些か振るえネクタイを持つ手にだんだん力が加わってきた。
「ももちろん本気だ。本気だが…ハルヒさん、ちょっと苦しくなってきたんですけど…」
「ギョン、あ・ん・た・ね~~~」
「涼宮さん、あのぉ落ち着いてください。今お茶入れますから、ねっ、ねっ。」
「涼宮さん、気を静められて。冷静に、冷静に…」
「ちょっ、ハルにゃん…ハルにゃん…」
目は前髪で隠れて見えないが、口は歯が砕けんばかりに噛み締めている。だんだん呼吸が出来なくなってきた。しかもネクタイを締め上げる力が緩む様子はない。ダメだ、殺される。
長門ーーーーーー!!!
カメラがモタラシタモノ 11-08
俺は古泉の肩をガッシリと掴み震える声で問いただした。
「だ・だれだ、そんなデマを蔓延させてる奴は?」
「デマだなんて、あなたも酷いですね。もちろん長門有希さんご本人からの報告ですよ。あの感情表現の極端に少ない彼女が頬を赤く染め微笑んだのですから、そりゃみんな、報告と併せて二重三重の驚きでしたよ。」
意味わかんね。長門が何故そんな俺を貶めるようなことを言う?
統合思念体の実験か何かか?それとも長門流ジョークか?
だいたい長門が頬を赤くする?微笑む?想像がつかん、というよりあり得ない!
「なんでも昨晩長門さんの告白に応じて、デートはあなたから誘われたんだとか。あなたも結構手が早いですね。…いえ、これは悪い意味ではありませんよ。」
そう言いながら古泉はクスクスと声を殺して笑っていた。
くっそー、悪い意味じゃなきゃなんだってんだ。
昨日の夜に告白して、俺からデートに誘っただと?
俺は昨日の夜のことを思い出してみる。
確かに長門と連絡は取った。しかし、あれは長門が写真に興味を持ってだな…
そしてフッとやりとりの言葉が脳裏を横切った。
『~付き合ってほしい。もっと写真の事を知りたい。』
『~付き合ってほしい。もっと写真~』
『~付き合ってほしい。~』
『~付き合ってやる。俺も今その事を考えていたところだったからな、何処でも連れて行ってやるぞ。そうだな5月の連休ってのはどうだ?』
『~付き合ってやる。~何処でも連れて行ってやるぞ。そうだな5月の連休ってのはどうだ?』
『~付き合ってやる。~そうだな5月の連休ってのはどうだ?』
あの時の言葉。もしかして、あれって長門流告白だったのか?
そして俺の言葉は、告白を受けた挙句にデートの誘いをしたって事なのか?
いや、まてまて。その前に俺はあれが長門の告白だと思ってた訳じゃないし、いやだからといって長門のことが嫌いというわけじゃない、むしろ好きなくらいだ。
ん?好きなら付き合ったってイイんじゃねーか?ってなんか考えが脱線してるぞ。えっとまずだな…ブツブツブツブツ…
俺の頭の中は完全にショートしていた。
「・・・あ・・・あの・・・」
ブツブツブツブツ…
「あのっ!考え事中に申し訳ありませんが、どうします?このまま帰宅されますか。それとも…部室へ向かいますか。」
「帰宅するっ!!!」
古泉の質問に即答する俺だった。
俺だって虫の居所が悪い虎が居ると分かっている檻にのこのこと入っていくバカじゃない。
ここは兎に角退散だ。虎穴に入ったって虎子が居るとは限らない。君子危うきに近寄らずだ。
俺は、早急にこの場を立ち去ろうと思い、部室に背を向け一歩踏み出した。
そして、それはその第一歩を踏み出すと同時のことだった。



